司法書士の会報「月報司法書士」に公表された司法書士の懲戒処分の要旨、
毎月何件かの処分が掲載されていますが、多くは登記の立合いや本人確認の不備があるとの処分内容です。
ただし成年後見人に就任した司法書士の処分は弁護士同様、問題のある処分もかなりあります。
事務所 新潟県柏崎市関町3番33号 司法書士 瀨下 真人
上記の者に対し、次のとおり処分する。
主 文
令和5年6月6日から3週間の業務の停止に処する。
理 由
第1 事案の概要
本件は、2名の成年被後見人の成年後見人に就任していた司法書士瀨下真人 (以下「被処分者」 という。)が、その成年後見人の職を辞任したところ、 後任者である弁護士A(以下「申出人」という。)から、引継ぎを行うために資料の提出を求められたにもかかわらず、 資料を提出しなかったことから、申出人の業務処理に支障が生じたとして、申出人から懲戒申出がされた事案である。
第2 認定事実
以下の事実が、新潟県司法書士会の調査報告書及び新潟地方法務局の調査その他の一件記録か ら認められる。
1 被処分者は、 平成25年11月5日、司法書士となる資格を取得し、平成28年8月3日付け登録番号新潟第○号をもって司法書士の登録を受け、同日、新潟県司法書士会に入会し、司法書士の業務に従事している者であり、これまでに懲戒処分歴はない。
2 被処分者は、平成30年9月〇日、Bの成年後見人に選任され、令和2年10月〇日、○家庭裁判所○支部(以下「○家裁○支部」という。) からBに係る成年後見人の辞任の許可がされたところ、 被処分者には、新たに選任されたBの成年後見人に対し 速やかに、 その成年後見業務に係る資料を引き継いだ上、当該資料の内容に関して説明をすべき義務があった。
ところが、被処分者は、前記義務を怠り、令和2年10月○日付けでBの成年後見人として 選任された申出人に対し、 財産目録上に記載のあったBの甲銀行の定期預金について、申出人からの再三の求めにもかかわらず、 令和3年1月末頃になっても前記定期預金の通帳又は 証書の所在に係る説明をしなかった。 その結果、申出人は、○家裁○支部に対して十分な報告をすることができず、 Bに係る成年後見業務に支障が生じた。
3 被処分者は、令和2年1月〇日、Cの成年後見人に選任され、同年10月○日 ○家裁○支 部からCに係る成年後見人の辞任の許可がされたところ、 被処分者には、新たに選任された Cの成年後見人に対し、 速やかに、その成年後見業務に係る資料の引継ぎをすべき義務があっ た。
ところが、 被処分者は、前記義務を怠り、令和2年10月○日付けでCの成年後見人として 選任された申出人に対し、申出人の再三の求めにもかかわらず、 令和3年1月末頃になってもCの収入支出に関する資料の原本を提出しなかった。
その結果、申出人は ○家裁○支部に対して十分な報告をすることができないなど、Cに係る成年後見業務に支障が生じた。
4 被処分者は、 平成31年1月、 Dの成年後見人に選任されたところ、 被処分者が、Dの財産 調査をした結果、申立時には800万円とされていた流動資産が2,500万円あることが判明した。
被処分者は、令和2年4月、 ○家裁○支部に対し、 成年後見人の辞任の許可申請を行うとともに、 本人財産を増加させた成果を上げたことから報酬付与の申立てを行った。 ○家裁○ 支部は、被処分者の辞任を許可し、21万円の報酬付与の審判をした。
Dの娘は、被処分者が、 成年後見人として行った確定申告及び成年後見業務終了時の資料 の引継ぎに疑問を覚え、同年9月頃、 ○家裁○支部に対し、被処分者の報酬受領について異議を申し立てたところ、 ○家裁○支部は、 被処分者に対し、21万円全額の報酬付与の取消しの審判をした。
被処分者は、報酬付与の取消しがされた21万円について、 D又は同年○月頃に同人が死亡 した後はDの娘に対し、 速やかに返還すべき義務があったにもかかわらず、これを怠り、令 和3年1月○日まで放置して返還しなかった。
5 被処分者は、 平成29年4月○日、Eの保佐人に選任されたが、 令和2年○月、 Eが死亡し、 Eに係る保佐業務が終了したところ、 被処分者は、○家裁○支部に対し、 速やかに、 終了報 告書に財産引継書を添付して提出する義務があったにもかかわらず、これを怠り、 令和3年2月まで○家裁○支部に財産引継書を提出しなかった。
第3 処分の量定
1 上記第2の2及び3に掲げた被処分者の行為は、成年後見人としての引継ぎ義務等を怠ったもので 司法書士法第2条(職責)、同法第23条(会則の遵守義務)、新潟県司法書士会会 則第81条(品位の保持等)、同会則第100条 (会則等の遵守義務)に違反する。
2 上記第2の4に掲げた被処分者の行為は、金員の速やかな返還義務を怠ったので、司法書士法第2条(職責)、 同法第23条(会則の遵守義務)、同会則新潟県司法書士会会則第81条(品位の保持等)、同会則第100条 (会則等の遵守義務)に違反する。
3 上記第2の5に掲げた被処分者の行為は、 保佐人としての報告の義務を怠ったもので、 司法書士法第2条 (職責) 同法第23条 (会則の遵守義務)、 新潟県司法書士会会則第81条(品 位の保持等)、同会則第100条 (会則等の遵守義務)に違反する。
4 そして、前記1及び3については、成年後見業務又は保佐業務の引継ぎに係る遅滞であって、裁判所から選任されて受任した事件の後処理として位置づけられることから、 司法書士及び司法書士法人に対する懲戒処分の考え方(以下「処分基準等」という。)の別表番号11 の「受任事件の放置」に該当し、懲戒処分の量定としては、一般的に戒告又は2年以内の業務の停止が相当とされる。 前記2については、 処分基準等の別表番号22の 「その他会則に違反する行為」に該当し、一般的に戒告が相当とされる。
最も量定の重い 「受任事件の放置」 についてみると、 被処分者は、B及びCの成年後見人を辞任した後、 その後任の成年後見人である申出人からの再三の資料の提出の求めを無視し 約3か月間放置し、適切な説明をしなかった。
また、Eの保佐業務については、被処分者は、比較的長期間といえる約10か月間も財産引継書を提出せずに放置した。 この点に酌むべき事情もうかがわれない。
そして、被処分者は、いずれの業務においても、再三の連絡や求めを無視して業務遅滞を発生させており、 その態様としては悪質である。
したがって、実害が発生していないものの、申出人等には帰責性がなく、いずれの事件に ついても宥恕等もないことから、不処分という選択をすることはできず、 業務の停止の懲戒処分をもって臨むべき事案であるというべきである。
そのほか、約5か月もの間、 被処分者が受け取った21万円の報酬について、 報酬付与の取消しの審判があったにもかかわらず、 合理的な理由もなく、その報酬を返還しなかった点も、 悪質であるといわざるを得ない。
他方、被処分者は、各非違行為について認めていること、聴聞の場において反省の弁を述 べていること、懲戒処分歴がないことは、 被処分者にとって酌むべき情状といえる。
よって、これらの事情を考慮し、司法書士法第47条第2号の規定により被処分者を主文のとおり処分する。
令和5年6月5日 法務大臣 齋藤健