官報 2023年9月11日 司法書士懲戒処分公告
司法書士法第47条第2号の規定に基づき、令和5年8月3日から2年の司法書士業務の停止の処分を行ったので、同法第51条の規定に基づき、公告する。
記
1 処分をした司法書士会 愛知県司法書士会
2 処分を受けた司法書士氏名 青木孝裕
登録番号 愛知第1202号
事務所の所在地 名古屋市東区泉1丁目21番27号 泉ファーストスクエア8階
3 処分の内容 業務停止2年
4 処分の効力が生じた日 令和5年8月3日令和5年9月11日 法務大臣齋藤健
司法書士の懲戒処分は主に不動産登記申請、相続事件等で本人確認が不備だったというものが多いのですが最近多くなったのが成年後見人司法書士の処分です。
懲戒処分の公告
処分を受けた司法書士氏名 青木孝裕 登録番号 愛知第1202号
事務所の所在地 名古屋市東区泉1丁目21番27号 泉ファーストスクエア8階
上記の者に対し、次のとおり処分する。
主 文
令和5年8月3日から2年の業務の停止に処する。
理 由
第1 事案の概要
本件は、司法書士青木孝裕(以下「被処分者」という。)が、 A等の成年後見人や任意後見人に選任されていたところ、 実際には、被処分者の補助者であるBに成年後見業務等を取り扱わせており、かつ、Bが、当該業務を取り扱っていた状況を利用してAの預貯金を横領したとして、愛知県司法書士会が調査するとともに、 名古屋法務局においても非違事件として立件された事案である。
第2 認定事実
以下の事実が、愛知県司法書士会の調査報告書及び名古屋法務局における調査結果その他の一 件記録から認められる。
(1) 被処分者は、平成12年11月8日、 司法書士となる資格を取得し、 平成15年3月10日付け登 録番号○第○号をもって司法書士の登録を受け、同日、○司法書士会に入会し、 その後、同 月○日、 ○司法書士会に入会した後、平成16年4月〇日、登録番号愛知第○号をもって愛知 県司法書士会に入会し、 司法書士の業務に従事している者であり、 債務整理業務を専ら補助者に取り扱わせたことを理由として平成31年2月8日に名古屋法務局長から9か月の業務の 停止の懲戒処分を受けている。
(2) 被処分者は、平成26年7月○日、 ○家庭裁判所(以下「○家裁」という。)から、 Aの成年後見人に選任された。
被処分者は、Aの成年後見人に選任されてから間もなく、 自らが行うべきAに係る成年後 見業務を、被処分者の補助者であるBに全面的に取り扱わせるようになった。 すなわち、被処分者は、Bに、Aに対する請求の支払をさせるための預貯金口座の管理を任せたり、Aに 係る後見事務報告書を作成させたりした上、Bが作成した後見事務報告書を十分に精査した り、後見事務報告書と預貯金通帳の入出金状況とを整合したりすることもなく、BにAに係る成年後見業務を実質的に全て取り扱わせ、必要な指導監督を怠った。
(3) Bは、被処分者からAに係る成年後見業務を全面的に任されており、Aに係る預貯金口座 を自由に取り扱うことができる状況を利用して、別表記載のとおり、平成26年10月○日から 平成30年5月○日までの間、59回にわたり、自らの用途に費消する目的で、被処分者が業務上預り保管中であったAに係る預貯金口座から合計2,577万7,000円を払い戻し、もって横領した。
(4 )被処分者は、平成30年8月頃、 ○家裁から、 Aに係る後見事務報告書が提出されていない 旨の連絡を受けたため、Bに対し、 後見事務報告書を作成して必要書類をまとめて被処分者に提出するよう指示した。
(5) その後、被処分者は、平成30年8月頃、Bから、 A の財産を横領していた旨の事実を告げられた。
被処分者は、Bから横領の事実を告げられ、これを認識したにもかかわらず、その発覚を免れるため、Bと話し合った上、 ○家裁に対し、 Aの預貯金口座からの多額の出金について、 Aの先進医療に係る高額医療費の支払に備えて預貯金を引き出して現金で保管していたが、 保管額が多額になってしまったことから定期預金にした旨の虚偽の事実を報告することとした。 被処分者は、平成30年9月○日、甲銀行○支店に赴き、Bと話し合った虚偽の事実に沿うように、 A名義で1,700万円の定期預金口座を開設した。
(6) 被処分者は、平成30年9月○日頃、Bに対し、上記5でBと話合いをしたとおりの虚偽の事実を記載した後見事務報告書及び上申書を作成するよう指示した。 そして、被処分者は、○ 家裁に対し、Bが作成した当該虚偽の事実が記載された後見事務報告書及び上申書を提出した。
(7) その後、被処分者は、 ○家裁の審問を受けることとなり、 それに先立って、 ○家裁から Aの財産管理に関する詳細な経緯を記載した上申書を提出するよう求められた。 これを受けて被処分者は、○家裁に対し、上記6の上申書と同旨の虚偽の事実が記載された上申書を提出した。
(8) 平成30年10月○日、○家裁において、Aの成年後見業務に関する審問が行われたところ、
(9) 被処分者は、Aの成年後見人の辞任許可の申立てをし、 平成30年11月○日、当該辞仕許可 の裁判が確定した。
その後、被処分者は、 Bの横領により発生したAの経済的損害を全額賠償した。
第3
処分の量定
(1) 上記第2の2のとおり、 被処分者は、Aに係る成年後見事務を全面的に補助者に取り扱わ せ、必要な指導監督を怠ったものであるところ、被処分者のこのような行為は 司法書士法 第2条(職責)、同法第23条(会則の遵守義務)、司法書士法施行規則第24条 (他人による業 務取扱いの禁止)、愛知県司法書士会会則第82条 (品位の保持等)、同会則第101条(会則等 の遵守義務)に違反する。
また、 上記第2の(5)から(8)までのとおり、 被処分者は、補助者による横領の事実を認識し
(2) たにもかかわらず、 その発覚を免れるため、○家裁に対し、虚偽の上申書の提出及び虚偽の 供述をしており、被処分者のこのような行為は、司法書士法第2条 (職責)、同法第23条(会 則等の遵守義務)、愛知県司法書士会会則第82条 (品位の保持等)、 第101条(会則等の遵守 義務)に違反する。
(3) 上記1の違反行為は、 司法書士及び司法書士法人に対する懲戒処分の考え方 (処分基準等) の別表番号3「名義貸し又は他人による業務の取扱い」に、上記2の違反行為は、別表番号 22 「その他会則に違反する行為」に該当し、懲戒処分の量定としては、それぞれ 「2年以内 の業務の停止又は業務の禁止」、「戒告」 が相当であるとされている。
(4) 本件において、被処分者は、法律事務の専門家である司法書士という資格への信頼に基づ いて家庭裁判所から成年後見人として選任されたにもかかわらず、 補助者であるBに成年後 見事務を全面的に取り扱わせ、 必要な指導監督を怠ったことにより、 Bが業務上横領を容易 に実行することができる状況を招来し、その結果として、合計2,577万7,000円という甚大な 経済的損害が発生した。 被処分者が適切に成年後見業務を行っていれば、このような経済的 損害は発生しなかったというべきである。
さらに、被処分者は、Bによる多額の横領の事実を認識したにもかかわらず、 ○家裁に対 し、これを速やかに報告することなく、 虚偽の事実を記載した上申書を2回提出した上、 ○ 家裁の審問において虚偽の供述をしており、 意図的に隠蔽を図ろうとしたものである。
以上のとおり、 被処分者の上記1及び2の違反行為は、司法書士制度に対する信頼を損な う極めて悪質なものであることに加え、 上記第2の1のとおり、 本件と同種の非違行為を理由とした懲戒処分歴があることも考慮すると、被処分者は重い責任を免れないというべきである。 なお、被処分者は、聴聞手続において、横領の事実の発覚を免れるために、 Bと話し合っ たり、Bに文書の作成を指示したりしたことはない旨弁解する。 しかしながら、 被処分者が 自ら述べた令和元年10月○日付け供述調書その他の一件記録によると、 上記第2に記載の事実が認定できるところ、 聴聞手続において、その供述を変遷させた合理的な理由の説明もなく、横領の発覚後にBとやり取りをしたこと自体は被処分者も認めているところである 処分者は、被害者のことを最優先に考えたと弁解するが、 被処分者がした一連の対応からして、横領の発覚を免れたいとの意図もあったといわざるを得ない。 したがって、 被処分者の 上記弁解は採用できない。
(5) 他方で、被処分者は反省の態度を示し、 被処分者において既に被害額全額を弁償したこと 等の事情も認められる。
(6) よって、これら一切の事情を考慮し、司法書士法第47条第2号の規定により被処分者を主 文のとおり処分する。
令和5年7月12日 法務大臣 齋藤 健