弁護士不正 遺産横領「良心どこに」 被害戻らず怒り
 弁護士による多額の預かり金の横領や未返還が後を絶たず、日本弁護士連合会の対策では不正を防ぎきれていない実態が読売新聞の調査で明らかになった。昨年末までの5年間で起訴されたり、懲戒処分を受けたりした弁護士は少なくとも50人。被害総額が約20億円に及ぶ現状に、対策の更なる強化を求める声が上がる。

 ■「丁寧な先生」

 「困っている人を助けるはずの弁護士が、横領を繰り返して良心は痛まなかったのか」。千葉県南房総市の60歳代の女性は怒りをあらわにした。

 女性は十数年前、法律相談会で当時東京弁護士会に所属していた男性弁護士に出会った。「相談に真摯(しんし)に耳を傾ける丁寧な先生」と感じ、夫の養母の死後に遺産整理などを担う「遺言執行者」になってもらうよう、依頼した。

 2019年4月に養母が死亡したが、弁護士は財産目録を作成していなかったばかりか、財産も引き渡さなかった。夫が家裁に申し立てて遺言執行者を解任し、財産を取り戻そうとしていた矢先の21年6月、弁護士は別の横領事件で警視庁に逮捕された。「やはり、うちだけじゃなかった」と悔しさがこみ上げた。

弁護士は養母の相続財産のほか、別の依頼者に支払われた交通事故の保険金など9件の事件で業務上横領罪に問われ、昨年10月、東京地裁で懲役7年の実刑判決を受け、確定した。認定された横領総額は起訴事実の通り、計約1億6600万円に上った。

 女性と夫の元には判決の1か月前、弁護士から〈ギャンブルを止めることができず、お客様のお金に手を付けてしまった〉との手紙が届いたが、弁済の申し出もなく、被害額の大半は戻っていない。女性は「こんな手紙だけで許せるはずがない」と話す。

 ■懲戒手続き進まず

 女性の憤りの矛先は弁護士会にも向けられている。夫が20年3月に東京弁護士会に懲戒請求を行ったものの手続きは進まず、9件の被害のうち2件は懲戒請求後に起きていた。

弁護士法では、禁錮以上の刑の確定で弁護士資格を失うと規定している。この弁護士は規定に基づいて資格を失ったが、判決確定までに懲戒処分が出ることはなかった。女性は「弁護士会がすぐに対応していれば、新たな被害は防げたのではないか」と語る。

 同弁護士会は取材に、個別の事案については答えられないとしつつ、「きちんと調査はしたが、対応が遅いとの批判は受け入れざるを得ない」と説明した。

 ◆仏では弁護士会が口座管理

 不正の背景には、弁護士が依頼者らから預かった多額の金銭を事実上、自由に動かせるという実態がある。

 日弁連は13〜17年、各弁護士に預かり金の専用口座の届け出義務を課し、各弁護士会には口座の調査権限を与えた。ただ、口座の出入金を随時チェックできるわけではなく、調査には強制力もない。

 海外には、横領の防止を制度で担保する国もある。

 フランスでは各弁護士が預かる金銭を管理するための専用口座を弁護士会が設置。出金の際には、判決や依頼者の承諾書と照合して不正がないかをチェックしている。「カルパ」と呼ばれる制度で、口座にたまった資金は弁護士会が運用し、利益を弁護士会の公的な活動資金に使ってもいる。

 早稲田大の石田京子教授によると、米国では弁護士会が各弁護士の預かり金口座の出入金を随時把握したり、州が不正の疑われる弁護士事務所への立ち入り調査をしたりしているという。

 東京弁護士会内の任意団体「法友会」は21年、フランスのカルパ制度を参考に、預かり金を保護する制度の導入を提言した。他の弁護士会でも、弁護士会が開設した口座で預かり金を管理することなどが検討されたが、いずれも具体的な進展はみられない。

 戦前、弁護士会は司法大臣の監督下に置かれ、国家による制約を受けた。その反省に基づき、戦後は国の指導・監督を受けない「弁護士自治」が尊重されている。こうした考えから、弁護士会の監督を受けることにも反発する弁護士がおり、対策が進まない一因になっているとの見方もある。

 カルパ制度に詳しい椛嶋裕之弁護士(東京弁護士会)は「現状の日弁連の対策では実効性があるとはいえない」と指摘した上で、「弁護士会が会員をしっかり監督することは、国の介入を防ぐことにつながり、結果的に『弁護士自治』を守ることになる。カルパ制度など具体的な方策を講じ、弁護士会が不祥事対策により責任を持つべきだ」と話す。

 日弁連も不正が根絶されないことには問題意識を持っており、昨年から横領事例の調査や分析を実施。今後、弁護士の研修強化などを進めるとしている。

弁護士自治を考える会

弁護士の横領は絶えることがありません。日弁連は対策を講じることも厳しい処分を下すこともしません。これからも続くと思います。日弁連の横領対策は、事件毎の口座を開設すること、これしかありません、

岡山弁護士会元副会長が約9億円横領した事件、懲役14年実刑になりましたが。約200人の被害者が出ました。岡山弁護士会は何ら被害者に対応もせず、事件後の対策もないままでした。この弁護士の刑事裁判を傍聴しましたが、検察の冒頭陳述でも、事件毎の預り金口座を多数の銀行に開設していました。

金に困った弁護士の前に事件毎の銀行預金口座と通帳印鑑、ちょっと拝借が自転車操業に、

日弁連の横領事件の唯一の対策は「事件毎の預り金口座の開設」しかありません。この制度を続ける限り弁護士の横領は無くなりません。

弁護士横領事件 刑期の相場 「弁護士自治を考える会」2023年8月更新

2023年今年の弁護士の逮捕者・起訴・有罪判決 11月16日更新 弁護士自治を考える会 

除名処分になった弁護士の弁護士経験年数データ(2000年以降)2024年2月更新 52件目