〔離婚後共同親権・共同監護〕
一 離婚後共同親権 ー
【改正の趣旨】
○ 現行法においては、父母が離婚をするときは、父母の一方を親権者と定めなければなら ないところ(第 819 条第1項及び第2項)、父母の離婚後も父母双方が子の養育に責任を持 ち、子に関する事項を父母双方の熟慮の上で決定することが子の最善の利益に資すると考 えられることから、親権は、婚姻中であるか否かにかかわらず、原則として父母が共同し て行うこととした。
【確認事項・要検討事項】
○ 離婚をめぐる事情は各家庭によって様々であり、事案によっては父母の一方のみを親権 者とした方が望ましい場合もあるとの指摘もあるところ、離婚後の親権について、原則的 に共同親権とし、上記の例外的な場合以外には単独親権を認めない(例えば、父母間にD Vがある場合であっても、それが同時に児童虐待にも当たるなどの理由で親権喪失等にな っていない限りは、共同親権とする)、ということでよいか(※)。
(※)なお、法制審議会家族法制部会「家族法制の見直しに関する要綱案」(令和6年1月 30 日)では、離婚後等の親権者について、単独親権のみを認める現行法を改め、「双方又は一 方を親権者と定める」こととされている(親権者の決定のルール)。
さらに、双方を親権者と定めた場合でも、DVや虐待からの避難が必要である等の「急 迫の事情」があるときは、単独で親権を行使することとされている(親権の行使のルール)。
○ 原則共同親権とした場合、以下のような批判が想定されるが、どのように反論するか。
① 離婚後も父母双方が共同で子に関する事項を決定するとなると、子の養育について父 母間で意見が折り合わないために適時に適切な決定をすることができなくなり、かえっ て子にとって不利益になるおそれがある。
② DVや児童虐待等の問題がある場合には、そのような問題が離婚後にも持ち越される こととなり、再被害のおそれが生ずる。
③ 両親の不和を見なくて済む、緊張感のある生活から解放されるなどの離婚したことの プラス面が損なわれるおそれがある。
二 離婚後共同監護
1 離婚時の共同監護計画の作成義務
父母が離婚をするときは、次に掲げる事項を定めた共同監護計画を作成しなけ ればならないこと。
① 子の監護の分担
② 子の監護に要する費用(養育費)の分担
③ 父及び母の子を監護する場所
④ 子の監護に関する事項に関し父母の意見が一致しないことにより親権を行使 できない場合の解決手続
⑤ その他の子の監護について必要な事項
(※)協議離婚の場合、計画を離婚の届出と併せて届け出なければならないこととする (離婚の要件とする)ことを想定。
(※)監護の分担割合については、父母の監護の意思・能力など個々の事情を考慮して 父母の協議により(又は裁判で)適切に設定することとなるが、省令で定める監護 時間や養育費の最低基準に従わない計画は認めないこととすることを想定。
(※)計画の作成に当たっては、専門的な知見を有する公正な第三者の確認を受けた上 で、公正証書等の形式で作成することを義務付けることを想定。
【改正の趣旨】
○ 一において離婚後共同親権を原則とした趣旨(離婚後も父母双方が子の養育に責任を持 つことが子の最善の利益に資するとの考え方)からすると、離婚後の子の監護についても 父母双方が共同して行うことを原則とすべきである。そして、離婚後は多くの場合別居す ることになる父母が、離婚後の共同監護を適切かつ円滑に行うためには、離婚の際に、子 の最善の利益を考慮して、子の監護について必要な事項(監護の分担、養育費の分担、父 母の意見が一致しなかった場合の取扱い等)を定めておく必要がある。そこで、この定め を確実なものにするため、離婚時には共同監護計画を作成しなければならないこととした。
【確認事項・要検討事項】
○ 離婚をめぐる事情は各家庭によって様々であり、事案によっては父母の一方のみを監護 者とした方がよい場合もあるとの指摘もあるところ、そのような選択肢は認めない(単独 監護者の定めは認めず、監護の割合の最低基準を設ける)ということでよいか。例えば、 父母間にDVがある場合であっても、それが同時に児童虐待にも当たるなどの理由で親権 喪失等になっていない限りは、共同監護とする(必ずしも原則どおり均等に監護を分担す るわけではないにせよ、少なくとも一部は監護を分担する=面会交流を実施する)という ことでよいか。
○ 省令で定める監護の割合の最低基準としては、どの程度の割合を想定するか。
○ 共同監護計画の作成を離婚の要件にすると、離婚のハードルが相当程度上がることにな るが、それでよいか。例えば、DV等の被害者が加害者から離れることを難しくしてしま うのではないか、事実上の離婚状態(法律上は婚姻関係にあるものの、それが実質的に破
綻している状態)のままとなる家庭を増加させ、かえって子の最善の利益に反する事態を 招くのではないか、といった批判が想定されるが、どのように反論するか。
○ 上記の点に鑑みると
、①共同監護計画の提出を離婚の要件にするとしても、離婚時の提 出を免除される例外規定を設ける(例えば、子の監護について定める協議が調わないとき は、協議に代わる審判又は調停の申立てを家裁にしていれば、共同監護計画の提出をしな くても、離婚をすることができるものとする)、
②そもそも共同監護計画を離婚の要件とま ではせず、「離婚後○月以内に届け出なければならない。」などとする、といったより緩や かな規定とすることも考えられるか。
2 離婚時の離婚後監護講座の受講義務等
⑴ 父母が離婚をするときは、離婚後監護講座(父母の離婚後の子の監護に関する 学習の機会を提供するための講座)を受けなければならないこと。
(※)協議離婚の場合、一定の熟慮期間を設けるため、講座の受講後一定期間が経過し なければ離婚の届出をすることができないこととする(離婚の要件とする)ことを 想定。
⑵ 父母が離婚をするときは、子に、その年齢及び発達の程度に応じ、こども離婚後監護講座(父母の離婚後の子の監護に関する情報を子自身に提供し、及びその 不安を軽減するための講座)を受けさせるものとすること。
【改正の趣旨】
○ 協議離婚が9割を占める我が国においては、離婚が子に与える影響や、離婚後の子の監 護に必要とされる情報について十分に認識されないまま離婚をしている父母も多いと思わ れる。そこで、公的機関等から離婚後の子の監護について情報提供を行う機会を設け、離婚をする当事者に離婚後の子の監護について考える契機を与え、子の最善の利益が確保さ れることを促すため、離婚後監護講座の受講を義務付けることとした。
○ あわせて、父母の離婚後の子の監護に関する情報を子自身にも提供し、及びその不安を 軽減するため、その年齢及び発達の程度に応じ、こども離婚後監護講座受講させることと した。
【確認事項・要検討事項】
○ 離婚後監護講座の受講を離婚の要件とすると、離婚のハードルが相当程度上がることに なるが、それでよいか。この点、受講を離婚の要件とまではせず、単なる受講の義務付け にとどめることも考えられるか。
○ 一定の熟慮期間として、どのくらいの期間が必要と考えるか。
〇 こども離婚後監護講座について、子からのヒアリングという意味合いも兼ねることとす るか。その場合、子からのヒアリングの結果を共同監護計画の内容に反映させるべきか、 反映させるとしてどの程度反映させるべきか。また、どのようにして反映させるのか(こ ども離婚後監護講座の実施主体から、共同監護計画の確認を行う第三者に対し、ヒアリン グの結果を伝達させるのか)。
○ 離婚後監護講座・こども離婚後監護講座の実施主体・内容・実施時期をどうするか。
三 別居に関する規律
⑴ 夫婦の一方が子を連れて別居しようとし、又は子と同居しつつ他の一方を住居 から退去させようとするときは、他の一方の同意又は家庭裁判所の許可を得なけ ればならないこと。ただし、急迫の事情があるときは、この限りでないこと。
⑵ 夫婦が別居する場合についても、離婚をする場合に準じ、別居後監護講座・こども別居後監護講座[仮称]の受講及び暫定共同監護計画の作成を義務付けること。
【改正の趣旨】
○ 子がその父母の意思に反してその父母から分離されない利益を保護するため(児童の権 利条約9条1項参照)、いわゆる「子連れ別居」について、原則として他の一方の同意又は 家庭裁判所の許可を要件としつつ、DV・児童虐待等の急迫の事情がある場合には例外的 に当該要件を不要とすることとした。
○ その上で、子を有する夫婦が別居する場合には、子が定期的に父母のいずれとも人的な 関係及び直接の接触を維持する権利(児童の権利条約9条3項参照)をはじめ、子の最善 の利益を考慮して、別居後の子の監護について必要な事項を定めておく必要がある。そこ で、別居の場合についても、離婚の場合に準じ、別居後監護講座・こども別居後監護講座 の受講及び暫定共同監護計画の作成を義務付けることとした。
【確認事項・要検討事項】
○ 他方配偶者の同意及び裁判所の許可を得ない「子連れ別居」が例外的に許される「急迫 の事情」として、具体的にどのような事情を想定するか(例えば、DV・児童虐待等を想定 するとして、その危険の程度・切迫性等についてどのように考えるか)。
○ 実際にDV等の「急迫の事情」がある場合についても、DV加害者等である父母と共に 暫定共同監護計画を作成しなければならないとすることは、DV被害者等である父母に過 度な負担を課すことになるとの批判が想定されるが、どのように考えるか。
四 DV・児童虐待等への対応
1 親権喪失時等の監視付面会交流
【改正の趣旨】
○ 現行法上、親権喪失等により親権を行使できない父又は母と子との面会交流の実施が一 律に否定されるわけではなく、実際、親権喪失等になった具体的な事由によっては、例外 的にこれが認められてよいケースもあると考えられる。ただし、児童虐待等を理由として 親権喪失等の審判を受けた父又は母と子との面会交流については、子の安心・安全を確保 する必要があることから、家庭裁判所が必要と認めるときは、児童相談所の職員を立ち会 わせる「監視付面会交流」を命ずることができることとした。
【確認事項・要検討事項】
○ 家庭裁判所が監視付面会交流を命ずることができるのは、親権喪失等により親権を行使 できない父又は母と子との面会交流の場合に限るのか。例えば、親権喪失等にはなってい ないが、離婚の際父母の一方が他方による虐待を主張している場合など、より広い場面で 監視付面会交流を活用することも考えられるか。
2 保護命令時の父母間の連絡調整・子の受渡しの援助
【改正の趣旨】
○ 父母間にDVがある場合でも、それが同時に児童虐待に該当する(いわゆる「面前DV」) として親権喪失等になっていない限り、婚姻中も離婚後も、父母は共同して親権・監護を 行う権利を有し義務を負う。ただし、その場合、DV被害者である父母の生命・身体への 加害を防止する必要があることから、家庭裁判所の命令により、婦人相談所・婦人相談員 が父母の間に入り、その連絡調整・子の受渡しの援助を実施することとした。
【確認事項・要検討事項】
○ 例えば現に裁判所がDVの存在を認定した父母にまで共同して親権・監護を行わせるこ とが、本当に適当といえるか。婦人相談所・婦人相談員が父母の間に入ることによって直 接的な生命・身体加害は防止できるとしても、そもそもDV被害者にDV加害者と様々な 事柄について協議して共同で決定することを求めるのは過度な負担を課すことにならない か。父母双方の自由な意思に基づくべき協議の結果も、DVによる支配・被支配の関係に よって歪められてしまうのではないか。
○ また、面会交流時の子の言動等からDV被害者の居所が明らかになってしまうリスク等 を考えると、DV事案においては面会交流を制限すべき場合があるのではないか。
○ 家庭裁判所が父母間の連絡調整又は子の受渡しの援助を命ずることができるのは、DV 防止法の保護命令の申立て中又は発令中である場合に限るのか。例えば、保護命令の申立 て中又は発令中ではないが、離婚の際父母の一方が他方によるDVを主張している場合な ど、より広い場面で父母間の連絡調整又は子の受渡しの援助を活用することも考えられるか。
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