弁護士の懲戒処分を公開しています。日弁連広報誌「自由と正義」2025年8月号に掲載された弁護士の懲戒処分の公告・第一東京弁護士会・村崎修弁護士の懲戒処分変更の要旨
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業務停止3月⇒業務停止2月
遺言執行者としての事件処理が不適切であった。当初の処分要旨
第一東京弁護士会がなした懲戒の処分について、同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告及び公表等に関する規程第3条第1号の規定により公告する。
記
1 処分を受けた弁護士氏名 村崎 修 登録番号 18567
事務所 東京都豊島区巣鴨1-18-11 第一扇屋ビル5階
村崎法律事務所
2 懲戒の種別 業務停止3月(2025年6月18日 業務停止2月に変更)
3 処分の理由の要旨
(1)被懲戒者は、2014年2月3日、東京家庭裁判所から被相続人Aの遺言執行者の選任を受け、受遺者の指定がない相続財産がある可能性があるため、法定相続人である懲戒請求者B及び懲戒請求者Cから相続手続きを受任したが、懲戒請求者らと面談せず、受遺者の利益と懲戒請求者らの利益は相反する関係があることを説明しなかった。(2)被懲戒者は、上記(1)の相続手続を受任するに当たり、委任契約書を作成しなかった。
(3)被懲戒者は、上記(1)の遺言執行者として、懲戒請求者らに対し2014年8月28日頃まで相続財産の目録を交付せず、また2015年4月30日まで何ら報告をしなかった。
(4)被懲戒者は懲戒請求者らの上記(1)の委任契約による代理人弁護士として、懲戒請求者らから2014年10月15日頃に解任された後2015年4月30日に報告するまで懲戒請求者らに対し、委任事務の処理の経過及び結果を報告せず、また当初説明していたよりも懲戒請求者らの相続財産が少なくなった理由を懲戒請求者らの代理人弁護士から書面で回答を求められるまで説明しなかった。
(5)被懲戒者は、上記(4)の解任後、懲戒請求者らから懲戒請求者を含む法定相続人の委任状及び印鑑登録証明書の返還を求められたにもかかわらず、2015年4月30日まで返還せず、またAの預金口座から払い戻した2004円を懲戒請求者に、遅滞なく返還しなかった。
(6)被懲戒者は、上記(4)の解任後、懲戒請求者らに無断でAの遺言の対象外の遺産である動産のうち約1万円相当の切手を第三者に交付して処分し、その他の動産を処分した。
(7)被懲戒者の上記(1)の行為は弁護士職務規程第22条第1項、第28条及び第32条に上記(2)の行為は同規程第30条第2項に上記(4)の行為は同規程第5条、第36条及び第44条に上記(5)の行為は同規程第5条及び第39条に違反し、上記各行為は弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
4処分が効力を生じた日 2024年6月19日 2024年12月1日 日本弁護士連合会
第一東京弁護士会が2024年6月19日に告知し た同会所属弁護士 村崎 修 会員(登録番号 18567) に対する懲戒処分 (業務停止3月) につ いて、同人から行政不服審査法の規定による審 査請求があり、 本会は、2025年6月10日、 弁護 士法第59条の規定により、 懲戒委員会の議決に基づいて、 以下のとおり裁決したので、 懲戒処分の公告及び公表等に関する規程第3条第3号の規定により公告する。
1 裁決の内容
記
(1) 審査請求人に対する懲戒処分 (業務停止3月)を変更する。
(2) 審査請求人の業務を2月間停止する。
2 裁決の理由の要旨
(1) 原弁護士会は、本件懲戒請求事件につ き、家庭裁判所から被相続人Aの遺言執行者の選任を受け、 受遺者の指定がない相続 財産がある可能性があることから、法定相 続人である懲戒請求者らから相続手続を受任し、後に同人らから解任された審査請求人について、
1 委任契約書の作成義務違 反、懲戒請求者らに対する。2 説明義務違反、 3 報告義務違反及び、4 財産目録の交付 義務違反並びに 5 預かり品及び預り金の返還義務違反に加え、 6 受任に当たり、懲戒請求者らと面談せず、受遺者の利益と懲戒請求者らの利益は相反する可能性があることを説明しなかった行為、 7 懲戒請求者らか ら解任された後、同人らに無断で、Aの遺 言の対象外の遺産である動産のうち約1万 円相当の切手を第三者に交付して処分し、 その他の動産も処分した行為について、い ずれも弁護士としての品位を失うべき非行 に該当するとして、 審査請求人を業務停 3月の処分に付した。
(2) 本会懲戒委員会が、 審査請求人から新た に提出された証拠も含め審査した結果、 原弁護士会懲戒委員会議決書(以下「原議決 書」という。)の事実認定及び上記6及び上
記7の行為に関する判断には誤りがあるの で、改めて認定し、判断する。
(3) 原議決書では、審査請求人が、 2014年2月3日、家庭裁判所から被相続人Aの遺言執行者の選任を受けたと認定しているが、 本会懲戒委員会は、 審査請求人が、同日、遺言により指定された遺言執行者への就職を承諾したものであると認定した。
本会懲戒委員会の認定した事実は、上記の点を除き、 原議決書の認定のとおりである。
(4) 原議決書は、上記6の行為について、 弁護士職務基本規程 (以下「規程」という 第22条第1項、第28条第3号及び第32条に違反すると判断した。
この点、 審査請求人が、 受任に当たり黴戒請求者らと面談しなかったことが、 規程 第22条第1項に違反するとした判断に誤りはないが、審査請求人について、規程第28 条第3号に違反する非行事実を認定してい るものではないから、 原議決書が同号の違反を掲げているのは適切ではない。
また、本件において、 受遺者は、遺言執行者である審査請求人の依頼者ではなく、 規程第32条が直接適用されるわけではない が、同条の趣旨が、 複数の依頼者間に利害の対立が生じるおそれがあるときに、 弁護士が受任の時点において採るべき第一次的措置について定め、 依頼者の自己決定の機会を保障し、依頼者の利益の実現に支障が ないようにすることにあること、また、規程第5条の定める誠実義務の趣旨が、 依頼者本人の正当な権利や利益を誠実に擁護しなければならない点にあることに鑑みれば、審査請求人が、 受遺者と懲戒請求者らとの間で利害の対立が生じるおそれがあることについて説明しなかったことは、 規程 第5条及び第32条の趣旨に違反し、弁護士 としての品位を失うべき非行に当たる。
(5) 原議決書は、上記7の行為について、 A の自宅建物内にある動産は、懲戒請求者らが相続すべき財産であったとした上で、審査請求人の上記各処分行為は、規程第5条及び第39条に違反すると判断した。
この点、審査請求人が、懲戒請求者らに無断で、上記約1万円相当の切手を第三者 に交付して処分した行為が、規程第5条及 び第39条に違反するとした判断に誤りはない。
しかしながら、 上記その他の動産につい ては、それが生活動産であり 一般的には その価額よりも処分に要する費用の方が多額となることが見込まれることからすれ ば、Aとしては、自宅建物の清算的遺贈について遺言するに当たり、清算的遺贈を円滑に実現するため、 生活動産を自宅建物と一体のものとして売却したり、あるいは一 括して廃棄したりすることを許容していた 可能性は十分にあると考えられる。
したがって、 審査請求人が、そのような 遺言の解釈に基づき、 生活動産を処分した としても、遺言執行者の裁量の範囲内であると考える余地がある。
なお、仮に、上記その他の動産が、懲戒 請求者らが相続すべき財産であったとして も、審査請求人は、動産とともに自宅建物 を買受人に引き渡す以前に、懲戒請求者ら に対し、引取りを希望する旨の申出がある 場合には検討する旨の通知を送付している ことからすれば、懲戒請求者らに全く無断 で動産を処分したとまでは言えず、 他方、 懲戒請求者らとしても、処分に費用を要す る動産を相続する意思を有していたとは考 え難い。
上記から、 上記その他の動産について審 査請求人が処分したことをもって、 弁護士 としての品位を失うべき非行であると評価することはできない。
(6) 上記本会懲戒委員会の認定と判断に基づき、改めて審査請求人に対する懲戒処分に ついて検討するに、 審査請求人には、 弁護士としての品位を失うべき非行が複数認められる上、自らの行為について反省の態度も見られないことからすれば一定の重い 処分がなされることもやむを得ない。
しかしながら、 上記判断に加え、 審査請求人の非行のうち、 上記2から 5までの各義務違反については、いずれも遅きに失しているとはいえ、 最終的には義務の履行が なされていることを考慮すると、 原弁護士会のなした業務停止3月の処分はやや重きに過ぎるので、 これを業務停止2月に変更するのが相当である。
3 裁決が効力を生じた年月日 2025年6月16日
2025年8月1日 日本弁護士連合会