同社が弁護士会に送った照会書などによると、2010年夏ごろ、元弁護士の依頼者から弁護士会に「(元弁護士の口座に)示談金が振り込まれているのに、支払ってくれない」との苦情が寄せられた。当時の弁護士会副会長が何度も支払いを指示したが、元弁護士は「もうすぐ支払う」などと話すだけで支払わなかった。このため副会長は、県弁護士会館で依頼者と元弁護士との面談に立ち会った上で、約1千万円を支払わせたという。
弁護士会はこの際、支払いが遅れた理由などを踏み込んで調査せず、翌11年度の執行部にも詳しい引き継ぎをしなかった。11年度になって元弁護士についての苦情が増加。弁護士会は適切な業務をするよう指示したが、問題を公表したのは12年3月になってからだった。
元弁護士は2008~12年、同社などから約4億6900万円を詐取、横領したとして、12年10月に懲役14年の判決を受け服役中。10年度の副会長は取材に「単に業務が遅れていると認識していた。今思えば他から横領した分で支払ったのかもしれない」。同社社長は「何度か促しても支払わなかった段階で、不正を疑い調査すべきだった」と憤る。
■ ■
近年、弁護士による詐欺や横領事件は後を絶たない。岡山県では元男性弁護士が約9億円を横領したとして懲役14年の判決を受けた。東京弁護士会元副会長も約4千万円を着服したとして公判中だ。弁護士の懲戒処分は11年に過去最多の80件、12年も79件に上った。
相次ぐ不祥事に、日本弁護士連合会は5月、依頼者から預かった現金の管理を厳格化。不正が疑われた場合に弁護士会の調査に応じることを義務付ける新規定を策定した。ある弁護士会幹部は「弁護士会への風当たりもきつくなっている。残念だが、弁護士も悪いことをするという前提で、厳しく対応せざるを得ない」と話した。
当会は、同会員について預かり金の返還遅滞を理由として、平成24年3月22日、会立件の形で懲戒手続に付し、翌23日、これを公表しました。上記懲戒手続につきましては、4月19日、綱紀委員会の議決を経て、懲戒委員会による審査手続に入っております。
同会員の行為が返還遅滞に止まらず今回の逮捕容疑事実に及んでいたとすれば、その行為は弁護士に対する信頼を根底から覆すものであることが明白です。
昨年、当会の別の元会員が業務上横領で有罪判決を受けております。このような問題の続発により、当会のみならず弁護士全体に対する国民の信頼を失いかねない状況に至っていることを深く自覚し、重く受け止めております。
当会は、国民の皆さまからの信頼を回復するため、不正を行った弁護士に対しては、常に除名を含む厳しい態度で臨む決意です。
こうした制度上の措置に加え、会員の倫理意識を一層高め、会員一人一人に更なる自覚を求めるとともに、こうした事件の再発防止策についての検討を急ぐ所存です。
福岡県弁護士会