新保弁護士は平成28年4月、会社の使途不明金返還訴訟で得た報酬が高額過ぎるなどとして業務停止1カ月の懲戒処分を受けた。
弁護士法は弁護士会が処分する際、綱紀委員会で議決した内容に基づき、懲戒委員会が審査すると定めているが、筒井裁判長は、同会の懲戒委員会は綱紀委員会の議決内容に含まれていない、会社の破産手続きで得た報酬なども審査対象にしたと指摘。「注意を怠り、対象とすべきでない事実を認定した。処分は違法だ」とした上で、減収分などの賠償を命じた。
引用産経 https://www.sankei.com/affairs/news/210126/afr2101260022-n1.html
第二東京弁護士会が2016年4月25日に告知した同会所属弁護士新保義隆会員(登録番号21768)に対する懲戒処分(業務停止1月)について同人から行政不服審査法の規程による審査請求があり本会は2019年4月8日弁護士法第59条の規程により、懲戒委員会の議決に基づいて、以下のとおり裁決したので懲戒処分の公告及公表等に関する規程第3条第3号の規程により公告する。
記
1 採決の内容
(1)審査請求人に対する懲戒処分(業務停止1月)を取り消す。
(2)審査請求人を懲戒しない。
2 採決の理由の要旨
(1)本件は審査請求人が2007年1月から同年8月までA社の株主である米国B社らの代理人としてA社を相手方として弁護士業務を行っていたところ2008年5月から同年6月まで、今度はA社の代理人として不当利得返還請求事件(以下)「本件不当利得請求事件」という)及び自己破産申立事件(以下「本件自己破産申立事件」という)を受任したことが利益相反による職務禁止に違反しA社の自己破産申立に際し破産原因を粉飾して破産開始手続開始決定に導いた行為が違法又は不正な行為の助長に該当し、さらにA社が近日中に自己破産申立てをすることを知りながら本件不当利得返還請求事件を受任して両事件にかかる過大な弁護士報酬を提示義務違反に該当するとしてA社の別の株主らから懲戒請求がなされた事案である。
(2)審査請求人に係る本件懲戒請求につき第二東京弁護士会(以下「原弁護士会」という)は利益相反の点については、双方の同意があることから弁護士職務基本規定(以下「職務基本規程」という)第27条第3号や同28条第3号の違反には該当しないとしたが、米国B社の代表取締役であるCらの違反又は不正な行為に関する他の株主からの責任追及を免れるためA社の破産原因を演出して破産開始決定を得ようとする行為について、審査請求人がこれらCらによる行為の意味を十分に認識の上、本件破産申立事件を受任して強力することは、違法又は不正な行為を助長する行為(職務基本規程第14条)と判断せざる得ないとし、かつ、本件破産申立てを近日中にすることを十分認識しながら、本件不当利得返還請求事件の着手金315万円及び本件破産申立事件の報酬735万円を約定し、両事件の弁護士報酬及び諸費用の預り金として2500万円を送金させた行為は敵さえい妥当な報酬の提示とはいえず、過大な報酬額を提示して受領した審査請求人の行為は、職務基本規程第24条に違反すると判断し、審査請求人を業務停止1月の処分に付した。
(3)日本弁護士連合会懲戒委員会は審査請求人から新たに提出された証拠も含め審査した結果、以下のとおり判断した。
(4)違法又は不正な行為の助長について、原弁護士会懲戒委員会の議決書(以下「原議決書」という)はCらには、米国B社に対する義務違反に基づく責任追及を免れるためにA社を破産させようとの方針により事を進めていた経緯が認められると認定したが、この判断の前提となったCの利益相反取引は認められず、米国B社の義務違反を認めることも困難であり、またC自身はA社のDらに対し、破産申請に反対するとのメールを送っていた事実も認められるので、この原議決書の認定もまた維持することはできない。
なお、原議決書は、審査請求人のメモを根拠に、既にA社の破産申立てを行うことが協議されていたとの事実を認定しているが、A社の社内会議議事録や関係者のメール等の証拠に照らせば、このメモは次から次と書き足していった可能性もあり、このメモを根拠に、計画的にA社を破産させようとの方針により事を進めていたと認めることはできない。
また原弁護士会はA社に破産原因が存在していたか疑問があると認定したが、破産開始決定に対する抗告審である裁判所の決定も一応の合理性が認められるとしたほか、A社の破産管財人からも問題視されていない。さらに、多数の破産管財人からも問題視されていない。さらに、多数の投資家被害の可能性もある事件であって、負債額は更に膨れ上がる可能性があったことからすれば、早期に破産手続により処理する必要性は高かったものと認められ、A社に破産原因があったが疑問だとする原議決書の認定を認めることはできない。
さらに、原議決書は、本件破産申立ての直前に2500万円を審査請求人の口座に移動する行為及び租税債務約4200万円を発生させる修正申告をする行為が少なくともA社について破産原因を演出する行為であると認定したが、上記のとおりCの利益相反行為や、米国B社の義務違反、Cらが不当な意図により計画的にA社の本件破産申立てを行った事実は認められず、またA社は支払不能の状態にありさらに、多数の投資家被害の可能性もあって破産処理の必要性も高かったことからすると、本件破産申立てが破産申立てが破産原因を演出することよりなされたものと認めることはできない。
結局、本件破産申立てにつきCらの違法又は不正な意図に基づき破産原因を演出してなされた行為であると認められないので審査請求人が職務基本規程第14条に違反する行為を行ったものと認めることはできない。
(5)弁護士報酬の過大について、原議決書は、審査請求人がCらの違法又は不正な行為に助力し、かつ、破産申立てを近日中にすることを認識しながら、本件不当利得返還請求事件の着手金315万円及び本件破産申立事件の報酬735万円を約定し両事件の弁護士報酬及び諸費用の預り金2500万円を送金させた行為は適正妥当な報酬の提示とはいえず、過大な報酬額を提示して受領したものと認定した。
しかし、上記のとおり審査請求人が本件破産申立てにおいてCらの違法行為又は不正な行為に助力したとの事実は認められない。また上記のとおり、審査請求人のメモを根拠に、審査請求人がその時点で本件破産申立てを近日中にすることを認識していたと認めることはできない。
なお、原議決書はE弁護士の意見を前提に、本件不当利得返還請求事件及び本件破産申立事件は弁護士だけが利得を得る事件であると指摘しているが、これも妥当な判断とはいえない。本件不当利得返還請求事件は、外部の公認会計士の調査を受けて不明朗な資金流出の返還を求めるために提訴されたものであり、A社の破産手続開始決定後は破産管財人に引き継がれ、約2200万円の認容判決や和解等で解決していることから、提訴の必要性があったことは否定できない。A社の破産申立ても上記のとおり必要な手続であったと認められる。
弁護士報酬の金額については本件不当利得返還請求事件の着手金は、訴額が約3億円であるが裁判所が遠方であること、被告の徹底抗戦が予想されること、回収可能性を考慮して、実質1億円の請求として着手金約300万円という数字を出したことが認められ、また、本件破産申立事件の報酬は多数の投資家被害が予想される事件で予納金も高いこと、破産開始手続開始決定に対して徹底抗戦が予想されることなどから、800万円から1000万円が妥当だが、本件不当利得返還請求事件で着手金約300万円を受領していることから、それを差引いても約700万円としたことが認められる。これら弁護士報酬の金額については裁判所も特に問題としておらず、破産管財人も特に返金を求めていないのであるから、弁護士報酬の金額それ自体が適正かつ妥当な範囲を超える過大なものであったということはできない。
以上から本件において審査請求人がA社に請求し受領した弁護士報酬が職務基本規程第24条に違反するものであったとは認められない。
(6)よって、本件は、審査請求人の非行事実は認めることができず、原弁護士会の処分を取り消し、審査請求人を懲戒しないこととする。
3 採決が効力を生じた年月日 2019年4月12日
2019年6月1日 日本弁護士連合会