第 1 保護命令
保護命令とは (裁判所HPより)
配偶者や生活の本拠を共にする交際相手からの身体に対する暴力を防ぐため、被害者の申立てにより、 裁判所が、 加害者に対し、 被害者へのつきまとい等をしてはならないこと等を命ずる命令。
①申立人・子・親族等への接近禁止命令
②申立人への電話等禁止命令
③退去命令
※12は6ヶ月、 5は2ヵ月 (更新可能)
根拠法
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下、「DV防止法」と言う。)第四章 (10条~22条)
3 処分要否の判断者 →地方裁判所
4 加害者扱いされた者の反論の機会 → あり
第2 住民基本台帳事務における支援措置 (いわゆるDV支援措置)
1 DV支援措置とは (総務省HPより)
DV被害者を保護するため、住民基本台帳の一部の写しの閲覧 (住民基 本台帳法11条、11条の2)、 住民票の写し等の交付 (法12条、12条の2、 12条の3) 及び戸籍の附票の写しの交付 (法20条)について、不当な目 的により利用されることを防止。
※期間1年間、更新可能
2 根拠法
法律上の制度ではない(行政通知に基づく行政運用)
住民票・戸籍附票発行事務における 「不当な目的」 要件確認のため 取扱いとして、総務省が 「通知(住民基本台帳処理要領)」に基づき、 各市区町村に指示したもの。
※かかる運用を保護命令とは別に行う理由
→DV被害者保護
保護命令が出るまでの間に、被害が発生しては困るので
* 平成25年10月18日付 「DV等被害者支援措置における 「加害者」の考え方について」 参照 (資料1)
3 要否の判断者 →市町村長(住民票発行事務のため)
* 支援の必要性の判断方法
市町村は独自に必要性の判断もできるが、警察や配偶者暴力相談支援センター等の意見を聞いて必要性を判断することもできる
※「住民基本台帳事務における支援措置申出書」参照
相談期間等の意見欄に、相談内容の記載はない(資料2) なし
4 加害者扱いされた者の反論の機会
* 市町村は危険性判断困難であるため、 現状、申出者が撤回しない限り、 支援措置撤回は困難
第3保護命令とDV支援措置の対象暴力
1 保護命令の対象となる暴力の定義
DV防止法第10条 (狭義)
配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫 (被害者の生 命又は身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫)
(刑法上の暴行罪・脅迫罪に該当する暴力行為に限定)
※ 暴力定義を狭義にする理由
・保護命令→保安処分的側面が強い (過去の行為に基づいて対象者の 行動制限を課すため、問題となる過去の行為の明確な判断基準が必要) ・精神的暴力は認定が難しい (警察等において「犯罪に該当しないのに保護命令相当といえる精神的暴力」の認定ができるのか?)
<暴力の例>
殺すぞ、 殴るぞ → 該当
バカ、 死ねばいいのに、 長時間の説教 –> 非該当
対象暴力の範囲が狭すぎるのでは?
法改正の動きあり (保護命令の対象となる精神的暴力の基準を特定して認定可能にしていく必要性)
2 DV支援措置の対象となる暴力の定義
① 警察庁生活安全局長通達
保護命令と同じ暴力定義を採用 (DV防止法6条より)
②総務省見解
DV防止法第1条1項(広義)
身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動 (精神的暴力を含む暴力定義)
総務省が、DV支援措置において広義の暴力定義を採用している根拠 → 不明
第4 暴力定義の違いによる実務上の混乱
1 保護命令(保護命令でさえ、却下事案が存在する)
保護命令は、 裁判所が加害者扱いされた者に反論の機会を与えた上で、 その要否を最終判断するが、警察や配偶者暴力相談センターでまずは聞 き取りが行われるが、その聞き取り内容の確認も行われる (疎明必要)。
(2)保護命令の却下・取下げ等の割合 (司法統計より)
取下げは通常却下が見込まれる事案において、 裁判所から取下勧 告が行われ、取下により終了する
毎年申立総数の内 20%前後が却下・取下げとなっている
2DV支援措置
(1)市町村長が支援措置をするか否かの最終判断権者であるが、 警察や配 偶者暴力相談センターの意見に基づいて行う
疎明不要
加害者扱いされる者に対して、反論の機会は与えられない
(2)配偶者暴力相談支援センター (男女共同参画局) の 「意見」 とは? 内閣府男女共同参画局平成25年10月発行「配偶者暴力相談支 援センターが発行する証明書発行の手引」 参照(資料3) 証明書発行に関する留意点
「支援センターなどの相談機関は、暴力の事実を認定する機関で はありませんので、 発行する証明書は、あくまで 「相談受理の事 実」を証明しているものに過ぎず、 暴力があったことを証明するものではありません。
つまり、支援センターが相談者から相談を受けたことの証明であり、暴力があった事実を認定したものではありません。
保護命令が却下ないし取り消された場合、 DV支援措置はどうなるのか?
内閣府男女共同参画局平成25年10月発行「配偶者暴力相談支援セン ターが発行する証明書発行の手引」 Q&A参照 (資料3)
裁判所と市町村は連携していないため、申出者が取り下げない 限り、 支援措置はそのまま継続 (更新も可能)
保護命令却下されても、 別途支援措置継続可能
保護命令でさえ、事実確認をすれば20%は却下(取下げ)がな される状況であるのに、 反論の機会を与えないDV支援措置は、保 護命令却下事案でさえも 利用可能になっている。
「加害者」ではないのに、 「加害者扱いされている冤罪被害者 の存在
4DV支援措置が不要な場合も、「相談証明」 が発行されている可能性
支援措置 →住所を秘匿する措置
住所を秘匿する必要もない 「相談」(暴力時期・暴力内容) でも証 明書が発行されていないか?
経済的DV、 別居していれば防げる精神的DV等
実例・・・ 10年以上前自殺未遂を止めるために頬を叩かれた
5 配偶者暴力相談支援センターの証明書で得られる支援の内容 (保護命令でしか得られない支援の有無)
→ 違いが生じるのは児童扶養手当のみ(ほぼ同様の保護が得られる)
このような状況で、 保護命令をあえて利用する人はいるのか? 保護命令の利用状況 (近年は2000件を下回っている)
第5 子がいる者が申出者となった場合のDV支援措置の効果
1 支援措置利用により、 相手方を排除して監護実績を積むことができるため、離婚時の親権取得に有利
支援措置を利用 →子どもの所在もわからなくなる
調停等の裁判手続きを行うのも困難になる。
※ 最高裁事務連絡
2行政機関による情報秘匿・加害者扱いされた者の徹底的排除
DV支援措置が行われると、行政機関は、関係機関と協力して、 本人 子どもの情報を秘匿する
例 学校、病院の情報等
→共同親権者であっても、 「DV支援措置における加害者」 扱いされていれば、子どもの情報は取得できない状況に置かれてしまう
※ 支援措置における加害者定義(資料1)
行政運用により 「共同親権の例外」扱いが推奨されている現状
3 DV支援措置悪用の具体的事例
①面会交流審判で認められた学校行事参加妨害目的事案
②子の引渡し審判後、 支援措置を利用して子と逃亡した事案
③面会交流調停成立後、面会協議拒否のために支援措置を利用した事案
④強制執行を免れるために支援措置を悪用した事案
⇒ 被害者保護のための制度が悪用され、 被害者を生み出している現状 4 令和2年度における配偶者暴力相談支援相談における相談件数 総数 80,579件
内同居している未成年の子が有る場合 39,393件
(不明が20,094 件あるが、 それを除いても、 約半数が子ども有 の当事者による相談)
子どものいる事案におけるDV支援措置の利用については、(事後的にでも)慎重に取り扱う必要性がある
第6 問題と対策
1 被害者保護は、 初動は 「申告内容を信じて」 迅速に行う必要があるが、その後、「その申告内容が適切なものであったのか否か」 の確認をしなけ れば、 新たな人権侵害を生み出す危険性がある。
被害者の存在 →加害者扱いされるものが出てくる
冤罪による親子断絶の危険
2 法律に基づかない行政の改善
現状
保護命令(法律に基づく制度) < DV支援措置 (行政運用)
法的根拠がなく、かつ、 法律よりも強度の人権制限を伴う行政運用 が独り歩きしている
DV支援措置では、責任を負う者が明確でないため、ひとたび冤罪 被害を受けた側は、 その回復が困難な状況に至っている。
警察・相談センター ⇒ 意見を言ったのみ
市町村 ⇒警察等の意見を信じた
総務省 →事務処理要領は作ったが最終判断は 市町判断
3 支援措置と保護命令をリンクさせる必要性
保護命令(法律に基づく制度) > DV支援措置 (行政運用)
DV支援措置を、保護命令による裁判所審査までの緊急処分とすべく、保護命令の対象暴力とDV支援措置の対象暴力を一致させるべき その上で、 例えば、
①支援措置継続要件として、 保護命令申立を義務付ける
②市町村が保護命令申立ての手伝いをする等
※ 支援措置により、 市町村の負担が増大している。
⇒子を伴う別居は、その適否について司法判断 (少なくとも保護命 令)を必須として、 それがない場合は、 市役所は、 親権者に対する情報秘匿義務を負わないことにしないと、市町村の負担が大きくなりすぎる。
岡山県里庄町の事案 (令和元年)(資料4)
→町が 536万円 (後に507万円に訂正) の賠償金の支払い
ここまで市が責任を負うべき事案だったのか?
保護命令とDV支援措置の比較