弁護士自治を考える会

弁護士の懲戒処分を公開しています。日弁連広報誌「自由と正義」2024年7月号に掲載された弁護士の懲戒処分の公告・千葉県弁護士会・林晋也護士の懲戒処分の要旨

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処分理由・勤務弁護士に対する代表弁護士のパワハラ行為 

代表を務める弁護士法人も同時に処分(戒告)されています。

なお、パワハラを受けた勤務弁護士が被懲戒者に対し損害賠償請求訴訟を提起し一部請求が認められた判決書も公開します。

懲 戒 処 分 の 公 告

千葉県弁護士会がなした懲戒の処分について、同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告及び公表等に関する規程第3条第1号の規定により公告する。

          記

1 処分を受けた弁護士氏名 林晋也 

登録番号 45762

事務所 千葉県船橋市本町3-32-26 あいおいニッセイ同和損保船橋ビル8階

さくら北総法律事務所橋本店 

2 懲戒の種別 戒告

3 処分の理由の要旨 

(1)被懲戒者は、弁護士法人Aの代表者として、2019年1月7日、懲戒請求者B弁護士と締結した労働契約書において、6カ月以内に退職した場合の違約金を定めた。

(2)被懲戒者は、弁護士法人Aの代表者であるところ、2019年6月に同弁護士法人を退職した懲戒請求者B弁護士に対し、退職証明書及び源泉徴収票の交付をしなかった。

(3)被懲戒者は、弁護士法人Aの代表者であるところ、特に弁護士法人の事務員に対する日常的な怒鳴りを始めとする威圧的な態度により懲戒請求者B弁護士の就業環境を害し、勤務弁護士であった懲戒請求者B弁護士に対し、執拗に同じ質問を繰り返し、被懲戒者の気に入る回答がなされるまで許さないとの威勢を示して詰問し、他の弁護士が担当していた訴訟事件7件の準備書面を数時間内に全部書き上げることを求め、電話番担当を命じるなどした。

(4)被懲戒者の上記行為はにいずれも、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

4処分が効力を生じた日 2024年1月26日 2024年7月1日 日本弁護士連合会

【判 決 書】
新人所属弁護士がパワハラ法律事務所、代表弁護士らに対し懲戒請求と損害賠償請求を求めた判決書、東京地裁 判決日 3月29日

令和2年ワ7582号 令和3年ワ2521号 令和4年ワ20232号
第1事件原告・第2、第3事件   被告 弁護士法人さくら北総法律事務所(代表林晋也) 代理人 阿部 和哉
第1事件被告・第2・第3事件    原告 弁護士M 代理人 伯母 治之
第1事件被告・第2事件            原告   河東 宗文 代理人 伯母 治之
第2、第3事件                        被告 林晋也 代理人 阿部 和哉
第3事件                                 被告 阿部 和哉
 主 文
1 原告さくら北総法律事務所は、被告河東に対し、25万円及びこれに対する令和2年3月18日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告林は、被告河東に対し、25万円及びこれに対する令和2年3月18日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告さくら北総法律事務所の第1事件請求、被告Mの第に事件請求及び第3事件請求並びに被告河東のその余の第2事件請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、第2事件のうち、被告河東と原告さくら北総事務所及び被告林との間に生じたものについてはこれを8分し、その7を被告河東の、その余を原告さくら北総事務所及び被告林の各負担とし、第2事件のうち被告Mと原告さくら北総法律事務所及び被告林との間に生じたもの及び第3事件から生じたものについては被告Mの、第一事件から生じたものについては原告さくら北総事務所のの各負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、かりに執行することができる。
 
概 要 

さくら北総の林らが、新人弁護士であったM(平成31年1月入所)にパワハラを行い、Mか林らを懲戒請求したところ、林もM及びMの移転先である河東を懲戒請求するとともに、M及び河東を提訴した。河東が反訴したところ、不当懲戒及び不当提訴により、河東の林およびさくらに対する請求が25万円ずつ認められた。Mの請求は棄却され、パワハラについては、分ぎ調停で支払済みとして棄却された。

M→ 林、さくら、阿部及び市川博基に対する懲戒請求
令和元年12月24日懲戒、令和3年1月14日、パワハラを追加
千2020年(綱)第1ないし4
令和3年11月15日 綱紀委員会、懲戒相当
  
市川、令和4年3月3日、紛議調停申立て (令和4年(紛)第35号)
 謝罪の上、150万円を支払う
令和2年3月18日第1事件提訴
令和3年2月2日 第2事件提訴
令和4年8月12日第3事件提訴

事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
(1) 被告Mは、原告さくらに対し、1013万3474円及びこれに対する令和2年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告河東は、原告さくらに対し、500万円及びこれに対する令和2年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告河東及び被告Mは、原告さくらに大尉、各自別紙1謝罪広告目録1記載の各新聞に同目録2記載の謝罪広告を同目録3記載の要領で各一回掲載せよ。
 
2 第2事件
(1) 被告林は、原告河東に対し、200万円及びこれに対する令和2年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告林は、原告Mに対し、200万円及びこれに対する令和2年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 原告さくらは、被告河東に対し、200万円及びこれに対する令和2年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 原告さくらは、被告Mに対し、200万円及びこれに対する令和2年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 第3事件
原告さくら、被告林及び被告阿部は、被告Mに対し、連帯して450万円及びこれに対する令和元年6月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 被告Mは、平成31年1月、被告林が代表を務め、被告阿部が選任の勤務弁護士として勤務していた千葉県弁護士会に属する原告さくら北総事務所に入所し、新人弁護士として就労するようになったが、同年夏ごろには同法律事務所を退所した。

その後、被告Mは、千葉県弁護士会に所属する別の法律事務所を経由した後、東京弁護士会に登録替えをし、令和2年1月から被告河東が代表弁護士を努めるアース法律事務所に移籍した。

この間、被告Mは、令和元年12月24日、千葉県弁護士会に対し、弁護士法58条1項にもとづき、原告さくら、被告林、被告阿部ほか1名の懲戒を請求し、他方、被告林は、令和2年3月18日、東京弁護士会に対し、同条に基づき、被告M及び被告河東の懲戒を請求した。
(2) ア 本件の第1事件は、原告さくらが、(ア)被告Mにおいて、

➀原告さくら在職中に貸与していたパソコンを破損したこと、

②原告さくらや被告林において弁護士法30条の17が定める弁護士の法律事務所への常駐義務に違反する対応があり、また、被告林及び被告阿部ほか1名の弁護士からパワーハラスメントを受けた旨の虚偽の事実を千葉県弁護士会の複数の会員弁護士に摘示して原告さくらの社会的評価を低下させたこと、

③上記②の虚偽の事実を懲戒事由として、千葉県弁護士会にた意思、原告さくら事務所及び同事務所に所属する林及び阿部ほか1名の弁護士らを対象とする弁護士法58条1項に基づく懲戒請求を申し立てたことは、いずれも不法行為を構成し、これにより損害を被った旨を主張し被告Mに対し、(略)求め、(イ)被告Mの上記(ア)②③の所為のうち被告Mかアース法律事務所に移籍した後にされた部分は、アース法律事務所所属の弁護士という立場で行われたものであり、被告河東は被告Mの使用者に当たる旨を主張し、被告河東に対し、(略)求める事案である。
 イ 本件の第2事件は、被告M及び被告河東が、➀被告林が被告M及び被告河東に対して行った弁護士法58条に基づく懲戒請求は、いずれも事実上および法律上の根拠を欠くものであり、不法行為を構成すると主張し、不法行為に基づく損害賠償請求として、それぞれ慰謝料200万円(略)の各支払を求め、②原告さくらによる本件第1事件に係る訴えの低下が補不法行為を構成する旨を主張し、不法行為に元つく損害は衣装としてそれぞれ慰謝料200万円(略)各支払和求める事案である。
ウ 本件の第3事件は、被告Mが、原告さくらに在職中、被告林、被告阿部らほか1名から違法なパワーハラスメントを受け、精神手損害を被ったと主張し、(略)慰謝料450万円(略)の連帯支払いを求める事件である。
以下略
 
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 略
平成31年1月7日入所
平成31年3月1日林及び市川から、声及び話し方が相手に不快感を与えるなどと交互に大声で怒鳴りつけられる。
平成31年3月19日 林及び市川から、1日中電話当番をするように命じられた。
平成31年4月2日 市川博基から、机を叩かれて叱責された。
平成31年4月15日 千葉県弁護士会主催の新人研修に出席したい意向を伝えると、林は、他の勤務弁護士や事務員らの面前で、書類やゴムバンド等を机や床に叩きつけて怒鳴りつけ、被告Mを雇用しているのは原告さくらであり、代表者である林の命令に従う義務があるなどと述べながら、上記の研修が事務所にとのような利益をもたらすか説明するように迫った。

そのため、被告Mは、被告林に謝罪し、序期の研修への参加は取りやめたい旨返答したが、被告林は、再度、書類やゴムバンド等を被告Mの足元に向かって投げつけ、弁護士であれば一度言い出したことを簡単に摘果してはならないなどと大声で叱責し、重ねて、当該研修に参加することが受任しているどの事件について有益であるかを説明するに求めた。
令和元年5月7日 林から呼び出され、「カチンときた」との理由で怒鳴りつけられた。Mは、同日午後、千葉県弁護士会が運営する新人弁護士向けチューター制度を担当する弁護士3名と会食し、その際、被告林、被告阿部及び市川弁腰からパワーハラを受けている旨を伝え、その退職につき相談した。
令和元年5月8日 被告林に呼びつけられ、30分以上にわたり、立たされたまま、また、書類を床や机等に叩きつけられながら叱責された。(略)
 さらに、被告林は、(略)7冊分の事件記録を用意させ、被告Mに対し、今日の午後7時までに全ての事件につき準備書面を起案せよなとと指示した。
令和元年5月13日 市川弁護士に呼び止められ、一時間程度にわたって叱責され、同席していた被告林もこれに同調した。Mは、帰宅後、同期の桜井弁護士に対して、翌日から出所しないつもりである旨を告げた。
令和元年5月14日意向出勤しないようになった。
令和5年5月15日 適応傷害と診断された。
令和元年7月1日 あらた国際法律事務所に移籍
令和元年12月24日 林、市川博基、阿部、さくらに懲戒請求(専任弁護士不在)(千2020年(綱)第1ないし4)
令和2年1月より東京のアース法律事務所に移籍
令和2年3月18日 さくらが第1事件提訴、林はM及び河東に懲戒請求
令和3年1月14日 懲戒事由にパワハラを追加
令和3年2月2日 第2事件提訴
令和3年11月15日 綱紀委員会、懲戒相当の議決
令和4年3月3日、市川が紛議調停申立て (令和4年(紛)第35号)
令和4年8月12日第3事件提訴
令和4年8月15日頃、市川との紛議調停を成立。市川が謝罪しMはこれを受け入れ。150万円の支払。
 
2 認定事実の補足
 略
3 争点(1)

被告Mが本件パソコンを水損させたとは断じ難く、原告さくらの上記主張は採用することができない。
 4 争点(2)

Mが、被告林及び市川弁護士からパワーハラスメントを受けた旨を公然と表明したか、そのことが原告さくらに対する名誉毀損の不法行為を構成するか)について
(1) 争点(2)アについて
 ア 略
Mは、本件訴訟に係る準備書面(略)により、原告さくらの社会的評価は低下するものと言わざるを得ない。
イ 略
 本件第一訴訟の訴訟活動の目的、当該訴訟において当該表現をする必要性、当該表現の態様及び方法の相当性並びに他の方法による大体可能性等を総合して、訴訟追行のための必要性及び相当性が認められるから、被告Mにおける上記の所為が原告さくらに対する不法行為を構成するとは認められない。
(2) 争点(2)イ(真実性・真実相当性の抗弁の成否)について
 ア 上記(1)イの点をしばらく措き、被告Mは、本件摘示事実1について真実であり、あるいは真実と信じるにつき相当な理由がある旨を主張するので、以下検討する。

イ 公共性及び公益目的性にについて
  略
ウ 真実性及び真実相当性について
  前提事実等によれば、被告林及び市川弁護士は、上司あるいは指導担当者という立場から、被告Mに対し、原告さくらに入所した直後から、自らの意思で改善することが困難な要旨や声質等といった身体的・肉体的な特徴に言及し、これを揶揄したり、叱責していたこと、被告林は、被告Mに対し、業務指導と称して、被告Mを向けて物を投げつけて怒鳴ったり、雇用主である自身の命令には従うぎむがあるなどと申し向け、また、千葉県弁護士会が主宰する新人弁護士のたの研修に参加することにも事務所への貢献の存否の有無を詰問するなどして難色を示し、また、業務遂行が遅かったことを捉えて威圧的な態度で指導乃至叱責を行い、それを理由に電話番や簡易な業務しか割り振らず、逆に、当時のMの事務処理能力に照らせば到底達成不可能な課題を与えるなどしていたことが認められる。以上によれば、被告Mが提示した本件摘示事実1は、原告さくらにおいて勤務弁護士へのパワーハラスメントが横行しているという摘示事実の重要な部分について、真実゛てあると認められる。
エ 小括 
以上によれば、本件摘示事実1を摘示した被告Mの行為には違法性はなく、これが不法行為を構成するとは認められない。
争点(3(被告Mにおいて、原告さくらが弁護士法30条の17所定の弁護士の常駐義務を満たしていない事務所を複数設置している旨を公然と表明したか、このことが原告さくらに対する名誉棄損の不法行為を構成するか)について

(1) 争点(3)アについて
 ア 略
Mは、本件第1事件に係る提出書面(略)により、原告さくらの社会的評価は低下するものと言わざるを得ない。
イ 略
  本件第一訴訟の訴訟活動の目的、当該訴訟において当該表現をする必要性、当該表現の態様及び方法の相当性並びに他の方法による代替可能性等を総合して、訴訟追行のための必要性及び相当性が認められるから、被告Mにおける上記の所為が原告さくらに対する不法行為を構成するとは認められない。
(2) 争点(3)イ(真実性・真実相当性の抗弁の成否)について
  上記(1)イの点をしばらく措き、被告Mは、本件摘示事実2について真実であり、あるいは真実と信じるにつき相当な理由がある旨を主張するので、以下検討する。
ア 公共性及び公益目的性にについて
  略
イ 真実性及び真実相当性について
   (ア)略
   (イ) 一方で、前提事実等によれば、インターネット上に設けられていた原告さくらのホームページには、上記のいずれの事務所(船橋、佐倉、木更津、香取、八千代。なお、令和2年8月31日までに佐倉、香取、八千代は閉鎖)とも連絡先としてフリーダイヤルの電話番号が記載され、フリーダイヤルを利用できない場合の予約専用ダイヤるとして船橋事務所の電話番号のみが掲げられていたこと、船橋事務所に設置されていた被告Mと桜井弁護士は、同所で指導担当であった市川弁護士及び被告阿部から指導を受けていたこと、市川弁護士(木更津所属)は、平成31年4月25日、船橋事務所所属の被告M宛てに、自身及び被告阿部においては同月から本来の事務所での執務を主としており、月曜日、水曜日以外は基本的に従たる事務所での執務となる旨が記載されたメールを送信したこと、佐倉事務所に配置されていた被告阿部の予定表には、船橋事務所に戻る旨の記載がされていたことが認められる。以上の諸事情によれば、原告さくらに勤務していた弁護士の具体的な執務状況や配置状況については必ずしも明確とはいえず、本件摘示事実2が、その14名部分について真実でるとまでは断定することは困難であるとしても、被告Mにおいて、原告さくらにおいて弁護士法30条の17所定の弁護士の常駐義務に違反しているの事実につき真実と判断したことには一定の合理性があるといえるから、被告Mが本件訴訟において本件摘示事実2を主張したことにつき、それを真実と信ずるについて相当な理由があるものと認められる。
ウ 小括 
以上によれば、本件摘示事実2を摘示した被告Mの行為には違法性はなく、これが不法行為を構成するとは認められない。
 
6 争点(4)(被告Mが申し立てた千葉懲戒請求が原告さくら北総事務所に対する不法行為を構成するか)について
 略
 被告Mにおいては、上記の事実(常駐義務違反)が存すると信じるについて相当の理由があったといえ、一定の根拠をもって上記の事実を懲戒事由として千葉県弁護士会に懲戒請求を行ったものと認められるから、被告Mにおいて、事実上及び法律上の根拠を欠き、そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たにもかかわらず、あえて懲戒を請求したとまで断じ得ない。
 また、原告さくらは、被告Mが、被告林、被告阿部及び市川からパワーハラスメントを受けたという事実がないにもかかわらず、敢えて懲戒請求をしたた旨を主張するが、当該事実が真実であること、前記4(2)ウにおいて認定し説示したとおりであるから、原告さくらの上記主張は採用できない。

 7 争点(6)(本件第1事件に係る被告河東の責任原因・第1事件関連)について
 略
 上記の各争点に関し、被告Mにつき、アース法律事務所に在籍していた期間を含めて原告さくらに対する不法行為が成立するとは認められない。したがって、原告さくらの上記主張は、その前提を欠くものであり、採用する事が出来ない。
8 争点(7)(被告林が申し立てた東京懲戒請求が被告M及び河東に対する不法行為をウ生するか・第2事件関連)について
(1) ア(ア)(東京弁護士会への懲戒請求が被告Mに対する不法行為を構成するか)
 ア 懲戒事由2と9は不当懲戒。それ以外は不当懲戒とはいえない。
たとえば、パワハラに当たるかは一義的な判断が容易ではない。
労働監督署への相談が非行になるわけがない。
二重所属は根拠がない。
イ 以上によれば、東京弁護士会への懲戒請求に係る被告Mに対する懲戒事由の中には、それ単体では事実上又は法律上の根拠を欠き、請求者である被告林が、そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たとの評価を免れないものが含まれているものと認められる。
  しかしながら、東京弁護士会への懲戒請求を全体としてみれは、懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、請求者が、そのことを知りながら又は通常であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たとまでは断し得ない懲戒事由が多数を占めており、それらの懲戒事由につき、被告林は、懲戒事由に先だって被告Mに対する問い合わせ等の情報収集をしていないことを加味しても、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らして相当性を欠くとまでは断じ得ないから、東京弁護士会への懲戒請求のうち被告Mに係る部分が同人に対する不法行為を構成するものとは認められない。したがって、被告Mの頭書の主張は採用することができない。
 (2) イ(ア)(東京への懲戒請求が被告Mに対する不法行為を構成するか)
 ア 略
(ア) 略 被告河東は、令和元年11月以降、被告Mとの間で弁護士業務の委託を内容とする準委任契約を締結したものと認める野が相当である。
(略)
被告林は、アース法律事務所のホームページに掲載された同事務所の弁護士の募集案内を見て、被告河東とアース法律事務所の所属弁護士とが雇用契約を締結しているものと即断し、何らの調査を経ることなく、本件懲戒事由⑪(使用者責任)があるものとして被告河東に対する東京弁護士会への懲戒請求を行ったものと認めざるを得ない。
(略)
(イ) (略) 被告Mの行動が同法律事務所の弁護士としてされたものであったとしても、そのことをもって被告河東に弁護士としての品位を失うべき非行があったと解することはできない。
 しかし、本件全証拠を子細に見ても、被告林において、被告Mがアース法律事務所の名称を用いて何らの法律行為をした場合に被告河東がその責任を負う旨の事実上及び法律上の根拠について調査検討を行った多形跡はない。
イ 以上によれば、東京弁護士会への懲戒請求のうち、被告河東に係る部分は、被告林において、通常人としての普通の注意を払うことにより、本件各懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠くものであることを知り得たにも関わらず、何らの調査や検討も行わないまま、あえて懲戒の請求を行ったものであると解さざるをえず、弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らして相当性を欠くものと認められるから、被告河東に対する不法行為を構成するものと認められる。
(3) 争点(7)イ(イ)(被告河東の損害の有無及びその数額)について

25万円
 9 争点(8)(原告さくらが本件第1事件に係る訴えを提起したことか被告M及び被告河東に対する不法行為を構成するか・第2事件関係)について
(1) 争点(8)ア(ア)(本件第1事件を提起したことか被告Mに対する不法行為を構成するか)について

被告Mに対する損害賠償は、その当否はともかく、いずれも一定の根拠に基づくものと認められるのであって、原告さくらにおいて、本件各請求に係る法律関係が事実的・法律的根拠を欠くものであり、原告さくらは、そのことを知りながら、又は通常人であれは容易にそのことを知り得たのにあえて訴えを提起したとまでは断じ得ない。

したがって、本件第1事件のうち被告Mに対する請求部分は、同人に対する不法行為を構成するとはいえず、被告Mの上記主張は採用する事が出来ない。
(2) 争点(8)イ(ア)(本件第1事件を提起したこと被告河東に対する不法行為を構成するか)について
原告さくらの被告河東に対する本件第一事件請求は、被告河東において被告Mの不法行為につき使用者責任を負い、また、被告Mにおいてアース法律事務所の名称を使用させたことによる名板貸しの責任をいうものであるところ、8(2)ア(イ)で説示したとおり、原告さくらの被告河東に対する上記の請求は、およそ事実的、法律的根拠を欠くものといわざるを得ず、原告さくらは、少なくともそのこと容易にそのことを知り得たにもかかわらず、あえて訴えを提起したものと認めざるを得ない。
そうすると、本件第1事件のうち被告河東に対する訴えの提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと言わざるを得ず、被告河東に対する不法行為を構成するものというべぎてある。
(3) 争点(8)イ(イ)(被告河東の損害の有無及びその数額)について
25万円

10 争点(9)(被告林及び被告阿部が被告Mに対してパワーハラスメントを行ったものとして、被告Mに対する不法行為が成立するか・第3事件関係)について
(1) 争点(9)ア(被告林が社会的に許される限度を超えて被告Mの人格権を侵害する行動をしたといえるか)について
 ア 一般に企業組織又は職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する課程において、部下に対し、業務上の指導や叱咤激励を行う場合であっても、当該指導等が、職務上の優越的な関係を背景に、その地位や権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らして客観的な見地から見て、通常人が許容しうる範囲を著しく超えるような有形又は無形の圧力を加えて部下の就業環境を害する行為をしたと評価される場合には、指導等としての相当性を欠き、当該行為の相手方の人格権を侵害するものとして不法行為を構成するものと解すべきである。
 イ これを本件についてみるに、前提事実等によれば、

➀被告林及び市川弁護士は、被告Mが原告さくらに入所した当日の平成31年1月7日以降、しばしば、被告Mの容姿や声質あるいは話し方といった容易に改善困難な身体的・肉体的な特徴に言及し、他人に不快感を与えるなどと評して怒鳴りつけるなとの行為を繰り返してきたこと、

②被告林は、同年4月15日、弁護士会が主催する新人弁護士研修への参加を求めた被告Mに対し、書類やゴムバンド等を机や床等のほか、被告Mの足元に向けて投げつけながら、当該研修に参加する実益の有無について繰り返し詰問し、Mが謝罪の上で当該研修への参加を取りやめる旨を告げた後も、弁護士は一度言い出したこと簡単に撤回してはならないなどとして叱責を続けたこと、

➂被告林は、同年5月頃、被告Mの業務の進捗が遅いことや被告林の問いに迅速かつ的確に応答できないことを捉えて上記②と同様の態様で叱責したり、返答に窮する被告Mに対し、まくしたてるように質問を重ね、また、特段の理由もなく被告Mを怒鳴りつけるということもあったこと、

④被告林は、被告Mに対して、1日中電話番をしているよう命じたり、法律相談や書面の作成等といった弁護士の本来的な業務であはない事務的な作業に従事させる一方で、上記②の叱責に対して被告が業務改善を申し出たことを受け、当日の午後7時までに当時の被告Mの能力では対応不可な課題を課したこと、

➄被告Mは、上記➀ないし4の被告林及び市川弁護士からの指導に強い心理的負荷を覚え、本件チューター制度を利用するなどしたものの状況が改善する見込みがないなととして、同年6月14日以降、事務所に出勤しなくなり、同月15日には、メンタルクリニックの医師から適応障害と診断され、職場を離れて療養するよう指示され、同月27日には永田事務員に退職の意向を告げたことが認められる。
 ウ 以上の諸事情に照らせば、被告Mは、原告さくらに入所した当時、司法修習を終了して間もない新人弁護士であり、被告林及び市川弁護士においては、原告さくらの代表者、市川弁護士は被告Mの指導担当という立場から、被告Mに対して弁護士としての業務能力を涵養させるための業務指示及び指導育成等を行う必要があったものと認められるが、被告林及び被告市川の業務指導の内容及び態様は、被告Mの生来的な身体的・肉体的な特徴を否定的に評価して改善を求める、高圧的、威圧的な態度に終始し、物を投げつけるなどの身体的な侵襲を伴う指導を行う、弁護士という有資格者の本来業務とかけ離れた機械的作業を命じたり、弁護士としの本来的な業務の遂行を制限する一方で、被告Mの当時の事務処理能力に照らし、質・量ともに到底遂行不可能な業務を課すといったものであって、これらの指導を受けたことにより被告Mは適応障害を発症したものと認めざるを得ない。そうすると、被告林及び市川弁護士による被告M対する上記の業務指導は、上司乃至指導担当という優越的な関係を背景としてた言動であり、かつ、業務上必要かつ相当な範囲を逸脱した過剰かつ不適切なもので、これにより被告Mの就業環境が害されたものと言わざるを得ず、被告Mが原告さくらに入所した後に受けた被告林及び市川弁護士の言動はね社会的に許容される限度を超えて被告Mの人格権を侵害するものとして、不法行為を構成するものと認めるのが相当である。
(2) 争点(9)イ(被告阿部が社会的に許される限度を超えて被告Mの人格権を侵害する剣道をしたといえるか)について
  略
被告阿部が被告林あるいは林弁護士による前示の行為を抑止ししたり、富めなかったりすることがあったとしても、それをもって直ちに不法行為法の違法性を帯びるとまては認められない。
エ 以上によれば、被告Mか原告さくらに在職していた期間の被告阿部の言動に社会的に許容される限度を超えて被告Mの人格権を侵害する部分があったとは断じ得ず、被告Mの上記アの主張は採用する事が出来ない。
(3) 争点(9)ウ(被告Mの損害の有無及びその数額)について

   50万円と認めるのが相当である。
(4) 争点(9)エ(市川弁護士による損害の填補の有無)について

被告林の不法行為により被告Mに生じた精神的損害(50万円)は、上記の弁済により消滅したものと認められる。
小括

 第4 結論
 よって、被告河東の本件第2事件請求は、主文第1項及び第2項の限度で理由があるからの限度で認容し、その余は理由がないから棄却することと死、原告さくらの本件第一事件請求及び被告Mの本件第2事件請求並びに第3事件請求は理由がないからこれをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第25部
裁判長裁判官 片野 正樹
   裁判官 宮崎 雅子
   裁判官 高見沢昌史