2023年9月世田谷区主催の離婚セミナーにおいて講演者の宮下真理子弁護士が財産隠しを指導した。これは弁護士として品位を失うべき非行に該当する。
所属の東京弁護士会綱紀委員会は棄却したが懲戒請求者が日弁連綱紀委員会に異議申立てを行い日弁連は異議を認め、東京弁護士会懲戒委員会に審査を付した、
同委員会は令和7年9月再び被審査人を「懲戒しない」と議決した。(今ココ)
被調査人 宮下真理子(登録番号36173)茜空法律事務所
主 文
被審査人を懲戒しない
第2 前提事実
被審査人は、令和5年9月9日、 世田谷区人権・男女共同参画課主催の「離婚をめぐる法律・制度活用講座」 (以下「本件講座」という。)において、 講師として 「別居時点の残高が基本的に財産分与の対象となりますので、 別居 時までに余裕がある方はちょっとずつそれを減らしておいて頂くと。 で、減らしておいて頂いていいんですけど、 減らし方には気をつけてください。 例えばあの生活費の口座として使っている、 給与振込口座ですね。 皆さん持っていて、夫にもそれバレている。 でも、ここの部分減らしたいと言って一気 に残高ポンって降ろしちゃうと、「これ何に使ったんだ?」って後でなりま す。 基本的に別居前1年分の口座は開示するもの、というふうに思っていてください。 1年以上前でもよくなんか 「2~3年分出せ!」 と言ってくる夫 3年分出せ!」と言ってくる夫もいるので、そういった意味で口座はずっと全部隠し通せあの存在をバレて いる口座に関しては、「一切見せない」というのはちょっと難しいです。
特に 裁判所が絡めば。 なので、開示しても、いいように減らす時には、ちょこち ょこちょこ減らすこと。 で 「何に使ったんだ?」 「いやこの時なんかストレス 溜まって、 ごにょごにょ・・・」って感じで、何となくごまかせるようにしといて頂くというのが一つ。 あとは口座から口座に直接送金してしまうと、別の 口座があるってバレますから 「現金で出して現金で入れる」 という移し方をしてください」と発言した (以下「本件発言」という。)。
第3 懲戒請求事由の要旨
本件発言は財産隠匿行為の指南であり、 弁護士職務基本規程(以下「基本 規程」という。) 第5条 (信義誠実)、同第14条 (違法行為の助長)、同第2 1条 (正当な利益の実現)に違反し、 弁護士としての品位を失うべき非行に 該当する。
第4 当会綱紀委員会での被審査人の答弁及び反論の要旨
本件発言をしたことは認めるが、 基本規程第5条、 同第14条、 同第21条に違反すること、 弁護士としての品位を失うべき非行に該当することは争う。
本件講座は「世田谷区立男女共同参画センターららぶす」 が主催する女性限定のものであるところ、 被審査人は、本件講座では経済的不安から一歩を踏み出せず、 DVやモラルハラスメントを受ける現状を諦めて受け入れてい る女性も少なくないという状況を踏まえ、離婚時の経済面におけるプラス面マイナス面の話をし、 その中で妻名義の預金であっても夫婦共有財産に該当する可能性があることを指摘しつつ、「妻が自身の名義の預金を確実に 確保し、 財産分与請求の対象とならないようにする必要性がある場合もある」 と考えて本件発言を行った。
本件発言は、 財産分与の原則に照らし、適切なものとは言えないが、日々苦しんでいる中で足を向けることができ、本件講座に参加された方にとって、唯一といっていいほど貴重な機会の方もおり、そのような方々を勇気づけよ うとするあまりのものであり、深く反省している。
本件発言は、一般的に厳しい状況に置かれていることが多い女性のことを 慮った故のものであり、基本規程第5条、 同第21条に違反するものでも弁護士としての品位を失うべき非行に該当するものでもないし、 基本規程第1 4条に関する先例との関係でも同条違反が認められたものは、明らかな法令 違反であって本件とは事案を異にする。
第5 当会綱紀委員会の議決と当会の決定
本件を審査した当会綱紀委員会第1部会は、 令和5年12月18日、本件 発言は不適切な発言と言わざるを得ないとしつつ、本件発言のような方法を取ることが結果として必ずしも不当と言えない場合もあること、本件発言に よって具体的に不当な結果が生じたと認める証拠はないこと、 被審査人が深い反省の意を表明していることなどの事情の下では、本件発言をもって基本 規程第5条及び第21条に違反しているとは言えず、また違法行為を助長するおそれがあるものであることは否めないとしても、 弁護士としての品位を失うべき非行とまでは評価できないとして、懲戒委員会に事案の審査を求めないとの議決をした。 当会は、被審査人を懲戒しない旨の決定をした。
第6 日弁連綱紀委員会の判断の要旨と議決、 日弁連の決定
1 懲戒請求者は、 令和6年1月28日付けで、 上記当会の決定の取消を求めて日本弁護士連合会 (以下「日弁連」という。) に異議申出をなした (202 4年綱第75号。 丙5)。
2 日弁連綱紀委員会第2部会は、 令和7年1月15日、本件発言が基本規程 第5条、 同第14条及び同第21条等に照らして不適切な発言であり、 受講者の内外に影響を与えた結果を踏まえれば、 品位を失うべき非行に該当する として、 当会懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とする議決をし、 日弁連は、同月20日、 当会がした対象弁護士を懲戒しない旨の決定を取り 消し、事案を当会に送付する決定をした。
第7 証拠の標目
別紙証拠目録記載のとおり
第8 当委員会の認定した事実及び判断
1 前提事実は関係証拠により認められる。
2 被審査人が本件発言を行った事実は認められるので、本件発言をしたこと が弁護士としての品位を失うべき非行といえるかについて、以下検討する。
(1) 確かに、本件発言は、 本来財産分与の対象となるべき財産を財産分与の対象とならないようにする方法を教示するかのような内容であり、本件講座の開始前に世田谷区からの受託団体の担当者から録音録画禁止のアナウンスがあり、本件講座の録音が全く秘密裡に行われたとはいえ、 不適切な発言との評価は免れない。
(2) しかし、本件講座は, 離婚を考える女性に向けて、 必要な知識、 法律、関連機関の支援内容、 活用方法、 離婚後の自立支援 (ひとり親家庭への支援を含む)等についての情報提供を行うものとし、参加対象者を女性に限定し、 離婚前後の女性の立場や状況に詳しい女性講師による具体的で前向きなメッセージで参加者をエンパワーメントすることを目的とするものであったところ 被審査人は、本件講座の受講者がDVやモラ ルハラスメントの被害者である可能性が高いという前提で講演をして欲しいとの依頼を受けていた (乙6、 丙8)。 こうした本件講座の目的や依頼内容を受けて、被審査人も 内容を受けて、 被審査人も受講者に対し、 後ろ向きな気持ちばかりを抱えず、前向きな気持ちをもってほしいとの思いで本件講座を担当したが (乙8)、 被審査人は,決して受講者に隠し財産を作ることを推奨する意図で本件発言をしたものではなかったし (丙8)、本件講座において事前に本 件発言を行うことを予定していたのでもなく、本件講座を受講しながら涙を流している受講者を目のあたりにして、 受講者を勇気づけるためにしたものであった (当委員会における被審査人の供述)。
受講者の感想も、「会場が重い雰囲気なのかと思いましたら、 そうでもなく、 弁護士さんも明るい方で安心いたしました。 どこにどう相談してよ いのか分からなかったので、 今回糸口を与えて頂いた」、 「心に寄り添った 内容で心強く感じました。 ありがとうございました。」 など、 被審査人の講義が受講者に前向きに受け止められたことが推察されるものであり、 受託団体も、 「知識、情報にくわえ、 講師の姿勢や雰囲気にエンパワーメントさ れたという参加者の意見が複数あり、 男女センターで実施する離婚講座と しての役割を果たすことができた。」 と総括しているが、こうした感想の中で、 本件発言を隠し財産の形成の推奨と受け止めたことを推察させるものはない (乙3、4)。
(3) また、 本件発言によって具体的に財産隠しの違法、不当な結果が生じた と認めるに足りる証拠はない。 さらに、 本件発言を世田谷区のお墨付きの 発言である旨誤認し、実際に財産隠しをしたことで何らかのペナルティを 課された受講者や、財産隠しに遭った区民が生じ、その者らからの世田谷 区に対する損害賠償請求がなされたと認める証拠もない。
(4) 本件発言がSNSで取り上げられたために、 世田谷区が本件発言の訂正、 正しい内容の説明と謝罪の周知等の対応に追われたことは事実であるが、 録音録画を禁止する旨の事前アナウンスがされているのであるから、本件 発言につきSNSで取り上げられるような事態は本来想定されていなかったという事情も認められる。
被審査人は、そうした対応に追われた世田谷区や本件講座の受託団体に対し謝罪を行ったほか、 本件講座の後は、 世田谷区のみならず他の自治体 や民間団体からの同種講座での講演依頼も、依頼側に迷惑をかけないよう にするために断っている (当委員会における被審査人の供述)。
(5) そして、 従前、 被審査人が、本件講座以外の講座において本件発言と同趣旨の発言をしていたと認めるに足りる証拠はない。 被審査人は世田谷区で同種講座を従前7回程度行っているが、 それらの講座についてこれまで 述)。 クレームや不適切との指摘は一度もなかった(当委員会での被審査人の供述 また、 被審査人は、本件発言のSNSでの拡散の後、不測の事態を考慮して新規の相談は全て断っているが、 それにより経済的な不利益を受けて いるだけでなく、SNS上で種々書き込みをされたり、事務所に不審な電 話や相談申し込むフォームへのアクセスを受けるなどにより大きな恐怖 の4)。 を感じさせられるなどの事実上の不利益も受けている (乙10の2、10
(7) 以上の事情に加え、被審査人が繰り返し深い反省の意を表していること (乙8) も合わせ検討すれば、本件発言が不適切であることは否めないも のの、 弁護士としての品位を失うべき非行として懲戒処分をもって臨むべ きものとまでは評価できない。
したがって、懲戒請求事由は認められない。
よって、 主文のとおり議決する。
令和7年9月26日 東京弁護士会懲戒委員会 (記載省略) 委員長
被審査人側代理人
村田智子弁護士 24751 東京 TOKYO大樹法律事務所
2020年東弁副会長 自由法曹団
柴田崇弁護士 27327 東京 柴田崇法律事務所
2006年 東弁常議員
渡瀬耕弁護士 31658 東京 西川総合法律事務所
令和元年 関東弁護士連合会 理事
西廣陽子弁護士 39499 東京 本多・松尾・吉田法律事務所
伊藤詩織氏事件 元代理人
議 決 書
異議申出人 〇〇
対象弁護士 宮下真理子(登録番号36173)茜空法律事務所
上記代理人 村田智子 同柴田崇 同渡瀬耕 同西廣陽子
主 文
東京弁護士会の懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当と認める。
理 由
第1 本件懲戒請求事案の概要
異議申出人の対象弁護士に対する本件懲戒請求の理由及び対象弁護士の答弁の要旨はいずれも東京弁護士会(以下「原弁護士会」という)綱紀委員会第1部会議決書(以下「原議決書」という)に記載のとおりであり、原弁護士会は原議決書記載の認定と判断に基づき、対象弁護士を懲戒しないこととした。
第2 本件異議申出の理由の要旨
本件異議申出の理由は、要するに、前記認定と判断は誤りであり、原弁護士会の決定に不服であるというものある。
第3 当部会の認定した判断
1 当部会の認定した事実
当部会が、当部会における対象弁護士の審尋結果を含め審査した結果、原弁護士会の認定した「第2 前提事実」のほか、次の事実が認められる。
(1)本件講座は、世田谷区男女共同参画センターらぷらすが企画したものを対象弁護士が受任した講座であり、離婚を考える女性に向けて、必要な知識、法律、関連機関の支援内容、活用方法、離婚後の自立支援(ひとり親家庭への支援を含む)等についての情報提供を行うものとし、参加者対象を女性と認定し、離婚前後の女性の立場や状況に詳しい女性講師による具体的で前向きなメッセージで参加者をエンパワーメントすることを目的としたものである。
(2)本件発言は、DVやモラルハラスメントの被害者になり得る女性の立場に立って、離婚の方法、離婚の方法、離婚の際に決めておくこと等を教示する中で、夫が待っている財産について、裁判所や弁護士は調査ができないことから、自分で調べるほかないこと、夫が否定した場合にはどうしようもないこと、逆に、妻にへそくりがある場合に、それも「分けろ」と言われる場合があるなどを前置きとして説明した後になされた発言である。
(3)本件発言の前後において、当該発言が違法な行為の指南と誤解されないような打消しの発言はなく、また預金の隠匿を行った場合に、その行為者が不法行為に基づく損害賠償責任を負わされるなどの不利益が及ぶ可能性があることの説明はなされていない。
(4)本件講座の受講者は20名であり、その中には匿名の参加者もいた、本件講座を始める直前に、受講者に対して、録音・録画・撮影を禁止する旨のアナウンスを行っている。
(5)本件講座の終了後、本件発言がSNS等で取り上げられて話題になったことから、世田谷区では、本件講座を実施したらぷらすのホームページにて、受講者に向けて、らぷらすに連絡を頂ければ正しい内容の説明と謝罪をさせていただく旨を周知するなどの対応を行った。
2 当部会の判断(対象弁護士に弁護士職務基本規程第5条(信義誠実)、同第14条(違法行為の助長)及び同21条(正当な利益の実現)違反があったかについて)
当部会は本件懲戒請求事由について以下のとおり判断する。
(1)原弁護士会は、本件発言は、本来財産分与の対象となるべき財産の財産分与の対象とならないようにする方法を教示するかのような内容であり、不適切な発言と言わざるを得ないが、他方で対象弁護士が本件講座の受講者がDVやモラルハラスメントの被害者である可能性が高いという前提で講演してほしいとの依頼を受けており、DVやモラルハラスメントの被害者には配偶者の財産の詳細を把握していない一方で、自らの名義の財産は配偶者に把握されているという状態の者も少なくなく、そのような者にとっては本件発言のような方法をとることが結果として必ずしも不当とは言えない場合もあること、本件発言によって具体的に不当な結果が生じたとは言えない場合もあること、本件発言によって具体的に不当な結果が生じたと認めるに足りる証拠はないこと、本件発言が違法行為を助長するおそれのあるものであるものであるということは否めないとしても、弁護士としての品位を失うべき非行とまでは評価できないと判断している。
(2)しかし、当部会では、次の理由により、対象弁護士の本件発言は、品位を失うべき非行に該当し、原弁護士会の懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当と認める判断をした。
本件発言は上記1(2)に記載した経過の中でなされたものであるが、いかにDVやモラルハラスメントの被害者になり得る妻側の立場に立ったとしても、本来財産分与の対象となるべき財産を財産分与の対象とならないように預金の隠匿行為を指南する発言であり、それ自体違法行為を助長するものであり、財産分与の適正な手続きを妨げるものである。
また、本件発言の前後において、受講者が本件発言を受けてそのまま実行することのないように打消しの発言をした形跡はなく、預金の隠匿をした場合には、その行為者が相手方配偶者から損害賠償の請求を受けるなどの不利益が及ぶ可能性があることの説明もなされていない。
上記の経過からすれば、受講者が、本件発言をうけてこれを実行する懸念を払拭することができない上、本件発言がSNSで広く取り上げられたために、世田谷区が本件発言の改正と謝罪の対応に追われたこと等をも勘案すれば地方自治体や住民に与えた影響が少なからずあったと言える。
他方で、対象弁護士の本件発言は、録音・録画を禁止した前提においてなされたことから気を許してなされた発言であること、本件講座に参加された方にとって、唯一と言っていいほどの貴重な機会の方もおり、そのような方々を勇気づけようとする意図のもとに行われたものであること、対象弁護士も本件発言が財産分与の適正な判断を損なう発言であったことを認めて深く反省していることなどの事情は十分考慮に値するが、本件発言が、弁護士職務基本規程第5条、同第14条及び第21条等に照らして不適切な発言であり、受講者の内外に影響を与えた結果を踏まえれば、品位を失うべき非行に該当するとの上記の認定を覆すには至らないと判断した。
4 結論
以上のとおり、原弁護士会の懲戒委員会に事案の審査を求めることが相当である。
ただし、原議決書2ページ下から12行目から11行目にかけて「ごにょごにょ」とあるのは「ごにょごにょ・・・」って」の同4ページ上から8行目に「丙1」とあるのは「丙3」の、それぞれ誤記と認める。
2025年1月15日 日本弁護士連合会綱紀委員会第2部会 部会長 長崎俊樹 印
2025年1月21日 日本弁護士連合会 事務総長 岡田理樹 印
東京都世田谷区玉川田園調布1-11-14 ファリオ田園調布401
茜空法律事務所
被調査人 宮下真理子(登録番号36173)
被調査人代理人弁護士 村田智子
同 柴田 崇
同 西廣陽子
同 渡瀬 耕
当委員会第一部会は、頭書事案について調査を終了したので、審議の上、以下のとおり議決する。
主 文
被調査人につき、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。
事実及び理由
第一 事案の概要
本件は、世田谷区人権・男女共同参画課主催の講演における被調査人の発言を知った懲戒請求者が、被調査人の発言は不正な財産分与逃れの指南であって非行に該当するとして懲戒請求したものである。
第二 前提事実
被調査人は、令和5年9月9日、世田谷区人権・男女共同参画課主催の「離婚をめぐる法律・制度活用講座」において、講師として「別居時点の残高が基本的に財産分与の対象となりますので、別居時までに余裕がある方はちょっとずつそれを減らしておいて頂くと。で、減らしておいて減らしていただいていいんですけど、減らし方には気をつけてください。例えばあの生活費の口座として使っている、給与振込口座ですね、皆さん持っていて、夫にもそれバレている、でも、ここの部分減らしたいと言って一気に残高ポンと降ろしちゃうと「これ何に使ったんだ?」って後になります基本的に別居前1年以上でもなんか「2~3年分出せ!」と言ってくる夫もいるので、そういった意味で口座はずっと全部隠し通せあの存在をバレている口座に関しては「一切見せない」というのはちょっと難しいです。特に裁判所が絡めば。なので開示してもいいように減らす時にはちょこちょこちょこ減らすこと。で「何に使ったんだ?」「いやこの時なんかストレス溜まって、ごにょごにょ・・・って感じで何となくごまかせるようにしといて頂くというのが一つ。あとは口座から口座に直接送金してしまうと、別の口座があるってバレますから「現金で出して現金で入れる」という移し方をしてください」と発言した(以下「本件発言」という)
第三 懲戒請求事由の要旨
令和5年9月9日になされた本件発言は不正な財産分与逃れの指南であり弁護士職務基本規程第14条に違反する。
第四 被調査人の答弁及び反論の趣旨
本件発言をしたことは認めるが、弁護士職務基本規程第14条違反であるということは争う。
本件発言がなされたのは「世田谷区男女共同参画センターららぷす」が主催する女性限定の離婚講座(以下「本件口座」という)でのものであるところ、被調査人は、本件口座では経済的不安から一歩を踏み出せず、DVやモラルハラスメントを受ける現状を諦めて受け入れている女性も少なくないという状況を踏まえ、離婚時の経済面におけるプラス面・マイナス面の話をし、その中で妻名義の預金であっても夫婦共有財産に該当する可能性があることを指摘しつつ「妻が自身の名義の預金を確実に確保し、財産分与請求の対象とならないようにする必要性がある場合」と考えて本件発言を行った。
本件発言は、財産分与の原則に照らし、適切なものとは言えないが、日々苦しんでいる中で足を向けることができ、本件口座に参加された方にとって唯一といっていいほどの貴重な機会の方もおり、そのような方々を勇気づけようとするものであり深く反省している、
第五 証拠の標目 (別紙証拠目録記載のとおり)
第六 当委員会第1部会の認定した事実及び判断
1 前提事実は関係証拠により、被調査人が本件発言を行った事実は認められる。
2 前提事実のとおり被調査人が本件発言を行った事実は認められる。確かに、本件発言は本来財産分与の対象となるべき財産を財産分与の対象にならないようにする方法を教示するかのような内容であり、不適切な発言と言わざるを得ない。
しかし他方で被調査人が本件口座の受講者がDVやモラルハラスメントの被害者である可能性が高いという前提で講演をして欲しいとの依頼を受けており(丙1)DVやモラルハラスメントの被害者には配偶者の財産の詳細を把握していない一方で、自らの名義の財産は配偶者に把握しているという状態の者も少なくなく、そのような者にとっては本件発言のような方法を取ることが結果として必ずしも不当とは言えない場合もあること、本件発言によって具体的に不当な結果が生じたと認めるに足りる証拠はないこと、被調査人が深い反省の意を表していること(丙1)が認められる。
以上の事情の下では、本件発言が違法行為を助長するおそれがあるものであるということは否めないとしても弁護士としての品位を失うべき非行とはまでは評価できない。したがって懲戒請求事由は認められない。
よって主文のとおり議決する。
令和5年12月18日 東京弁護士会綱紀委員会第1部会 部会長(記載省略)
調査開始通知 令和5年10月12日
東京弁護士会会長 松田純一
被調査人 宮下真理子
懲戒請求日 令和5年9月27日
調査命令日 令和5年10月5日
東京都世田谷区玉川田園調布1-11-14 ファリオ田園調布401
茜空法律事務所 宮下真理子(登録番号36173)
懲戒請求の理由
対象弁護士が9月9日の世田谷区男女共同参画課女性限定(離婚)で財産隠匿の指南をしたと思料する発言があった。下記に文字起こしする。
(引用開始)
弁護士の宮下真理子です。
別居時点の真ん中が基本的に財産分与の対象になりますので、別居時までに余裕のある方はちょっとずつそれを減らしておいて頂くことで、減らしておいて頂いていいんですかえど(ママ)、減らし方は気をつけてください。例えばあの生活費の口座として使っている。給与振り込み口座ですね。皆さん持っていて、夫にもそれバレている。でも、ここの部分減らしたいと言って一気にポンって降ろしちゃうと、「これ、何に使った?」って後になります。基本的に別居前1年前の口座は開示するものというふうに思っていてください。1年以上前でもよくなんか「2~3年分出せ!」と言ってくる夫もいるので、そういった意味で口座はずっと全部隠し通せあの存在をバレている口座に関しては「一切見せない」というのはちょっと難しいです。
特に裁判所絡めばなので、開示しても、いいように減らす時にはちょこちょこ減らすこと、で「何に使ったんだ?」「いやこの時なんかストレス溜まって、ごにょごにょ、、、って感じで、何となくごまかせるようにして頂くというのが一つ」あとは口座から直接送金してしまうと、別の口座があるってバレますから「現金で出して現金で入れる」という移し方をしてください。
(引用終わり。引用先アドレス記載)
上記は実際の音声をXで紹介されたデータである。
これは財産隠匿行為の指南であり、違法行為を助長したとする内容であり弁護士職務基本規程第14条に該当すると思料される。
本来、離婚協議というのは、話し合いや調停・裁判で確定するものであり、夫婦間の共同財産は法的安定性・法秩序を害する行為である。ましてや一般聴衆を相手にした講演会であり、どのような目的や意図で聴衆が参加しているかも不知であるにも関わらずこのような発言をすることは弁護士としての品位を害する。
要するに、加害行為を指南し、加害行為をすることは一方配偶者(主に妻側)に対して違法行為をさせることになり、不法行為をさせ法的安定性を害するばかりか、加害者を生み出す蓋然性も高い。
(正当な利益の実現)
弁護士は良心に従い依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める。(弁護士職務基本規程第21条)
結 論
対象弁護士の言動は弁護士職務基本規程第5条・第14条・第21条に抵触する行為をしていることは明白である。財産隠匿行為であり、さも正当な行為であるように聴衆を唆し違法行為を助長するような発言をすることは、弁護士としての品位を害する行為であるので懲戒委員会に直ちに付すことが相応しいと考える。
以上
宮下真理子弁護士(東京)世田谷区主催の離婚をめぐる法律セミナーで財産隠しを指南した。9月9日