
棄却された懲戒の議決書
所属する弁護士会から戒告の処分を受けた弁護士が、処分は不当だ!懲戒委員は何もわかっていない!等、Xにポストした。この投稿が弁護士として品位を失う非行となるのかを問うた懲戒請求
懲戒請求者 ●●
対象会員
事務所 〒530-0047
大阪市北区西天満4-6-3 ヴェール中之島北1002号 うるわ総合法律事務所
氏名 仲岡しゅん (登録番号53244)
対象会員につき、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。
第1 前提となる事実
1 対象会員は、今和8年4月28日、大阪弁護士会で戒告の懲戒処分を受けた( 以下「本件懲戒処分」という。本件懲戒処分は、対象会員が自らの「X」の投稿の中で、特定の個人に対して、わいせつ行為の前科がある」と掲示したことが名誉取扱に当たることなどを理由として、懲戒処分がされた事案である。)
2 同日、対象会員は、自らの「X」において、次の投稿を行った(以下「本件投稿1という。甲1)
「大阪弁護士会は私を懲戒しましたが、私は全くめげていません。たかだか10人の、何の差別を受けたこともないであろう、社会の上澄みしか見ていない懲戒委員たちの判断などより、この理不尽な懲戒請求に自分事として声を上げてくれた本当におくの市民たちの判断のほうがずっと導く正しいからです。」
3 対象会員は、令和5年12月25日、「X」において、次の依頼を行った(以下「本件投稿2という。甲2)。
「大阪でトランスヘイトデモをするということは、それすなわち俺に身バレしか ねないということだ。デモをするなら覚悟してするように。」
第2懲戒を求める事由
1 本件投稿1は、懲戒委員を「たかだか10人」と表現したうえ、「何の差別も 受けたこともないであろう」、「社会の上澄みしか見ていない」などと述べるものであり、懲戒委員の人格、属性、見識及び判断の公正性を、何ら具体的根拠を示すことなく屈辱的に否定するものである。
対象会員の行為は、弁護士法第56条 第1項にいう、弁護士会の秩序若しくは信用を害し、又は職務の内外を問わずその品位を失うべき非行に該当する(以下「懲戒事由1」という。)。
2 本件投稿2は、その文言及び文脈に照らし、大阪でヘイトデモを行う者に対し、対象会員がその身元を特定しうること、また、顔写真や個人情報をさらし、さらには危害を加えることまで示唆していると受け取られうる内容である。少なくと も、対象者に対する威嚇的・脅迫的な印象を与えるものであり、弁護士として極めて不適切な発信である(以下「懸戒事由2」という。)。
第3対象会員の弁明(要旨)
懲戒事由1について
(1) 前提として、弁護士であるからといって、表現活動が制約されなければならないという言われはない。大阪弁護士会に所属する弁護士であっても、同会の決定に対して批判を述べる自由はある。
(2) 対象会員が「たかだか10人の何の差別も受けたこともないであろう、社会の上澄みしか見ていない懲戒委員たち」と述べたのには相応の根拠がある。
本件懲戒処分に関与した懲戒委員10人は、そのうち男性が9人であり、女性が 1人であった。ずいぶんと時代錯誤なジェンダー・バランスである。
懲戒委員10人の経歴を調べてみても、何らかのマイノリティ属性を公にし て活動している人物は皆無であった。みな、一様に偏差値の高い大学を卒業した弁護士、検察官、裁判官、学者であり、日雇い労働者や風俗嬢といった、この社会の中で不安定で抑圧的な地位に置かれている人々はいなかった。
こうした偏った人選によって、どうして公平な判断ができるというのであろうか。もちろん、公にはしていないだけで、何らかのマイノリティ属性や障害を背負って生きている人物も懲戒委員の中にはいるかもしれない。しかし、少なくとも そのようなことを公にした上で差別問題や人権問題に取り組んでいる人物は見受けられない。
このような懲戒委員の構成について対象会員が批判的な意見を述べたからといっていったい何が問題だというのであろうか。こうした偏った人達で構成 中戒委員の判断よりも、対象会員が、市民たちの声の方を尊く思うのは当然である。
懲戒事由2について
(1)対象会員のこの投稿は、トランスジェンダーに対するヘイトスピーチ・デモに対する抑止を図ったものであって、それ自体、何の問題もない投稿である。
(2) 懲戒請求者湾戦勝求書は、かかる投稿について、「顔写真や個人情報の晒し、さらには危害を加えることまで示唆していると受け取られる内容であるなどと主張しているが、対象会員はそのようなことまでは書いておらず、だいぶ飛躍のある理解だろう。
また、懲戒請求者は、「威嚇的・脅迫的な印象を与える」などとも主張しているが、そもそもその対象はトランスヘイトデモという、マイノリティを狙った卑劣なヘイトスピーチに向けられたものなのであるから、強い口調になったところで何の問題もない。
なおかつ、特定個人に対する投稿でもないのであるから、威嚇的・脅迫的というものでもない。仮にこれで威嚇的・脅迫的というのであれば、大阪弁護士会館の前に掲げられている「あかん!許さん!ヘイトスピーチ!」 という標語すら「威嚇的・脅迫的」となりかねないであろう。
第4 証拠
1 書証
(1) 懲戒請求者提出分
甲1 対象会員の「X」への投稿(令和8年4月28日)
甲2 対象会員の「X」への投稿(令和5年12月25日)
甲3 神奈川県弁護士会所属の滝本太郎弁護士の「X」への投稿(令和5年12月25日)
(2) 対象会員提出分 なし
第5 調査の結果
1 懲戒事由1について
(1) もとより、弁護士といえども、私的な発言は表現の自由の対象として広く許されるべきものである。したがって、対象会員が大阪弁護士会や同会の懲戒委員会を批判することも、本件懲戒処分の不当性を訴えることも、それ自体が弁護士としての非行になることはない。
(2) 次に、本件投稿1が懲戒手続に関与する者の名誉や信用を害するような性格を有するかを検討する。
本件投稿1は、特定の事実をするものではないので、問題となるとすれば、名誉感情への侵害(屈辱)である。「X」という公然の手段を利用して行う行為である以上、特定の対象者を屈辱するものであれば、弁護士としての非行に該当する余地がある。
しかし、本件投稿1の中の「たかだか10人」、「何の差別を受けたこともないであろう」及び「社会の上澄みしか見ていない」などの表現は、懲戒委員を揶揄する表現ではあるものの、裁判例(たとえば、東京地判平成8年12月24日判例タイムズ955号195頁)によって、名誉侵害による不法行為として違法性が認定されている表現(「誰であっても名誉感情を害されることになるような、看過しがたい、明確、かつ、程度の著しい侵害行為がされた場合」)とは質的に異なるものである。
また、上記各表現は、基本的に懲戒請求や本件懲戒処分の不当性を訴える文脈の中での表現で、特定の個人ではなく懲戒委員の構成について述べたものといえ、特定の者の名誉感情を害するかどうかすら疑わしいものである。加えて本件投稿1の媒体である「X」は、市民が個人的意見や感情を自由に発信することが認められているものであることを考慮すれば、本件投稿1が弁護士の肩書きを名乗った発信であったことを考慮しても、懲戒処分を行うだけの非行に該当しないことは明らかである。
(3) 以上の理由により、懲戒事由1は弁護士としての非行に該当しない。
2 懲戒事由2について
(1) 「X」という公然の手段を利用して行う行為である以上、威嚇や、これに至らない場合であっても、発信内容や表現が弁護士としての品位を害するような場合は、弁護士としての非行に当たりうる。
その一方において、前述のように、弁護士といえども、私的な発言は表現の自由の対象として広く許されるべきものであるし、本件投稿2の媒体である「X」は、市民が個人的意見や感情を自 由に発信することが認められているものであることを考慮する必要がある。
(2) 以下、本件投稿の発信内容及び表現について検討する。
懲戒請求者は、本件投稿2の「俺に身バレしかねないということだ。デモをするなら、覚悟してするように」から「顔写真や個人情報をさらし、さらには 危害を加えることまで示唆していると受け取られうる」とするが、明らかに飛躍があり、本件投稿2の発信内容自体が威嚇的脅迫的とは認められない。 確かに本件投稿2は、対象会員自身が認めるようにやや強い口調で述べられているが、弁護士といえども、私的な発言や発信が表現の自由の対象として広く許されることは前述のとおりであるところ、本件投稿2はトランスヘイトデモに対する抑止を図るという目的でなされ(対象会員によれば、「トランスヘイ デモという、マイノリティを狙った卑劣なヘイトスピーチに向けられたもの、その態様も威嚇的、脅迫的に至るものとは言えない。
したがって、本件投稿2は、表現の自由の範囲内にとどまるものであることは明らかであるし、前述の「X」の性格や実態に照らせば本件投稿2の発信や表現をもって、弁護士としての品位を害するようなものとの評価をすることができないことは明らかである。
(3)以上の理由により、懲戒事由2は弁護士としての非行に該当いない。
第6 結論
よって、主文のとおり議決する。
令和8年8月4日 大阪弁護士会綱紀委員会第3部会 部会長 署名 印
