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「交通事故減少」「若者貧乏化」が弁護士を干上がらせる? 弁護士懲戒「過去最悪」の背景





サンケイのリポートです。【日本の議論】)

 

弁護士は社会的ステータスもあり高収入」

そんな時代は、すでに過ぎ去ったのだろうか。経済的困窮などが原因で依頼者から預かっている金銭(預かり金)に手を付け、逮捕されたり懲戒処分を受けたりする弁護士が増えている。


 日本弁護士連合会(日弁連)のまとめでは、平成26年の全国の弁護士の懲戒処分件数は101件。統計を取り始めた昭和25年以降、初めて100件を超えて最多となった。処分で最も重い「除名」も6件で過去最悪。除名の多くは預かり金を着服した事案だ。不正に手を染めるほど苦境に陥る弁護士が増えた背景には、弁護士が増えたことによる競争激化や、仕事の減少といった複合的要因が潜んでいる。日弁連の高中正彦副会長(63)は「社会のせいにせず、弁護士自らがエリート意識を捨てることが不正撲滅につながる」と訴える。


「除名」は弁護士生命の終わり


 弁護士の懲戒は、弁護士の業務や品行を不服とした依頼者らがその弁護士の所属弁護士会に請求し、各弁護士会が調査して決める。26年の処分の内訳は「除名」が6件、次に重い「退会命令」が3件だった。除名された弁護士は弁護士資格を3年間失う。ただ3年を経ても、弁護士として働くにはいずれかの弁護士会に所属する必要があり、そのためには弁護士会が行う審査にパスしなければならない。「除名後の審査は厳しい。除名になった場合、再び弁護士として働くのは実際上はほぼ不可能」(日弁連)という。


26年の除名事例は、男性弁護士(70)が預かり金1千万円超を着服(長野)▽男性弁護士(56)が同1億5千万を着服(第二東京)▽男性弁護士(78)が同800万円を着服(広島)▽男性弁護士(58)が公文書を偽造(広島)-などだった(年齢は当時、カッコ内は所属弁護士会)。


 近年は弁護士による預かり金の着服事案が続出している。3月3日にも東京地検特捜部が、現金1200万円超を着服したとして、業務上横領容疑で横浜市の元弁護士(52)=昨年2月除名=を逮捕した。


10年間で弁護士の年収は1300万円から959万円にダウン


弁護士をとりまく環境の悪化は日弁連などの統計にも現れている。


 最新の統計によると、一般的な弁護士の年収は、12年の1300万円から10年後の22年には959万円にダウン。一方、弁護士数は、法曹人口の充実を柱の一つとした司法制度改革を受けて、同期間に1万7千人から2万9千人に増加した。26年の弁護士数は3万5千人で、12年比で倍増している。


 

司法制度改革は弁護士需要の高まりを見越したものだったが、仕事はむしろ減っている。


最高裁のまとめによると、全国の裁判所が受理した事件数は15年が610万件だったが、減少傾向が続いて25年は360万件に。そのうち民事・行政事件は350万件から150万件に、刑事事件も160万件から100万件にそれぞれ減った。


 従来、多くの弁護士は交通事故▽離婚時などの財産分与▽自己破産・企業倒産-などを手掛けてきた。しかし飲酒運転厳罰化や車を運転しない若者の増加などで交通事故は減少。分与する財産がほとんどない低所得者層も拡大した。自己破産も、15年の25万件から26年は7万件に急減。企業では不良資産売却で再生を図る方法が一般化し、倒産は減少した。こうした中で困窮し、不正に走る弁護士が相次いでいるとみられる。


「弁護士もハッピーリタイアが必要」


 日弁連も手をこまねていているわけではない。日弁連は預かり金横領などで相次いだ弁護士の逮捕などを受けて25年、不祥事対策をまとめた。その中身は、不正が疑われる弁護士については預かり金の状況を各弁護士会がチェックできる仕組みの構築▽不正弁護士を早期発見できる態勢の構築▽メンタルヘルス相談窓口の設置▽速やかな懲戒の実施-などだ。ただ現時点で効果が出ているか未知数の段階だ。


高中副会長は預かり金着服が多くなっている背景について「昔は預かり金に手をつけてしまった弁護士でも、仕事が多かったので報酬で穴埋めでき、発覚しづらかった」と指摘。さらに「弁護士は難関の司法試験に合格したというプライドが強い一方で、競争社会に慣れていない。弁護士には定年がないので、いつまでたっても仕事が来ると勘違いし、老後資金を蓄えない弁護士も多い。そうした中で生活費や事務所維持費が不足して、不正を働いていまう」と分析した。


 その上で高中副会長は不祥事根絶対策として「仕事が来なくなったら競争社会に負けたということ。その場合は潔く事務所を閉めて引退するなど、エリート意識を捨てることが必要だ。ハッピーリタイアできるよう、若いうちから老後資金をためておくよう意識改革を促すこともひいては不祥事対策につながるだろう」との考えを示した
弁護士の不正を追及する市民団体の市井信彦代表(60)は「弁護士会の監督機能が働いておらず、複数の弁護士会で監視し合うなど、弁護士業界の抜本改革が必要だ」と話した。