司法試験合格者3000人の政府目標半減「もっと減らすべき」多くの弁護士から意見
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【武山茂樹弁護士】
「私は、弁護士がある程度自由競争にさらされることは必要だと思っております。昔の弁護士は『紹介しか受けない』『一見さんお断り』のところも多かったと聞いています。弁護士が増えたことは、弁護士を身近なものにし、一般市民のアクセスを良くした意義はあると思います。一方で、確かに弁護士の増えすぎは、弁護士の質の低下を招くことは否定できません。従って、両者のバランスを取った1500人程度(これが適正というエビデンスはありませんが、現状に鑑み妥当なのではないでしょうか)が適正だと思います」
【甲本啓成弁護士】
「弁護士は自営業者。経営能力や自己表現能力、営業力、説得力を身につけていれば、たとえ弁護士の人数がふえても埋もれずにやっていけると希望をもっています。しかし、不安も常にある。減らすほうが自分にとっては好都合だと正直言えば感じます。迷いながらも1500人で妥当と考えた根拠は、少なくとも一旦社会に出て2~3年経験した人や、法学部以外で学んだ人が、軌道修正をして『弁護士になりたい』と思ったときに、ある程度希望がもてる数字は維持してほしいと思うからです」
●1500人より増やすべきという意見
【齋藤浩弁護士】
「司法制度改革審議会意見書とその後の政府方針は3000人以上であった。一度もそれを実施せずに、変更することは許されない。それらを前提に進んでいた諸改革が大きな損失を受けた。さらに、法曹人口、弁護士人口を増やすことはグローバル経済、国際人権活動のために必要であり、ひとりわが国だけが消極方針をとることは、わが国に大きな禍根を残す」
1500人より減らすべきという意見
【好川久治弁護士】
「規制改革の流れのなかで増員ありきの決定でした。弁護士が増えれば競争が促進される、質の向上と費用の低廉化が実現できる、国民が司法を身近に感じられる、司法の利用が促進される、埋もれていた事件がルールに則って解決される、裁判員制度が始まれば弁護士が必要だ、企業も弁護士を増員するなど、いずれももっともらしい理由ですが、増員の過程で内容を検証し、見直しをはかるべきでした。増員による成果とマイナス面を一から検証して適正な人数を決めていくべきです。今のままでは弁護士が存分に使命を果たせなくなるかもしれません」
【大貫憲介弁護士】
「司法試験に合格し、修習が終わっても、直ちに社会に役立てるだけのスキルを持った法曹になれるわけではない。若い法曹として活躍するには、法律事務所等で、3~4年修業を積む必要があると思う。現在、法曹界には、毎年1500人の修習終了者を受け入れるキャパシティがないことは明らか。おそらく、1000人前後が適当であると思う」
【中井陽一弁護士】
「年間合格者数が1500人でも、弁護士の人口は現状よりも増えていくとされています。弁護士の現状を見ていますと、司法試験に合格しても就職口が無い人がいたり、弁護士になったが売上が上がらず廃業する人なども、一昔前に比べると増えています。弁護士過疎地域はかなり解消されましたし、民事訴訟の件数が増えていない現状からしても、弁護士の人数をさらに増やしていく必要性は乏しいと思います」
【濱門俊也弁護士】
「弁護士である国会議員の方は多いですが、いわゆる族議員ではありません。しかし、司法制度改革は思いのほかスムースに進みすぎました。当職は、弁護士が司法制度改革の審議の際、弁護士がいい意味で族議員化してもよかったのかなと思っています。『衣食足りて礼節を知る』との言葉があります。合格者数を減らし、司法修習生の給与貸与制を何とかしてもらいたいものです」
【太田哲郎弁護士】
「司法改革というのは、個人の法律事務所を淘汰して、法律事務所の大規模化、組織化を図るのが、最大の眼目であり、弁護士数が約10年で倍増したことにより、その目的は十分に達することができ、個人の法律事務所の経営悪化、淘汰が進んでおり、これ以上の弁護士数の大幅増加を進める必要はないと思われます。500人合格時代に戻すのは困難でしょうが、1500人でも、弁護士数の大幅増加は止められず、合格者の大幅減少を進めるべきです」
【秋山直人弁護士】
「新司法試験に合格し、法律事務所への就職を希望したにもかかわらず就職ができず、即独立をせざるを得ない弁護士がかなりいます。弁護士にとって、先輩の弁護士と一緒に仕事をする中で、OJTで学ぶべきことはたくさんあります。また、相当無理スジな訴訟を起こしてくる、着手金目当てではないかと疑われる案件も目に付きます。毎年2000人も合格させていたことが、実際に種々の弊害を生んでいますので、まずは1500人まで減らし、そこで少し状況を見て、さらなる合格者の減員も検討すべきだと思います」
【梅村正和弁護士】
「平成26年度の法科大学院の実入学者総数は2,272人。募集定員合計が3,809人だったので定員割れが多く認められ、法科大学院によっては相当に学力レベルの低い学生が多数いることが予想されます。合格者が1,500人ですと、単純計算では合格率が66.02%となります。合格率が20%を切る極端に成績の悪い法科大学院も相当数あるので、今や司法試験は、合格者数が1,500人まで下がっても普通の人なら受かるレベルの試験になっています(弁護士の頭など普通の人以下で構わないということなら話は別かもしれませんが)」
【西谷裕子弁護士】
「現場の『直観的な感覚』としては、毎年1000人前後というのが、過不足のない適正数ではないかという気がします。直観的な感覚は、体感的なものなので、論理的に説明するのは困難なのですが、法曹関係者であれば何となく肌で感じているのではないでしょうか。限界が近づき始めている弁護士(会)が崩れ落ち始めると、結局、裁判所や検察官も訴訟追行の上で困るようになり、長期的に放置すれば、法曹界全体、司法全体が大きなツケを払うことになると思います」
【鐘ヶ江啓司弁護士】
「志願者数が激減して適切な競争が働かなくなっています(本年度のロースクール入学者は2200人程度です)。合格者数の削減と修習手当の実現により、法曹を魅力的な職業として、志願者数を回復することが急務です。また、残念ながら特に個人や中小事業者を相手とするいわゆるマチ弁については、情報の非対称性、個人が秘密の依頼をしていることから被害に遭っても声をあげることが出来ず(特に刑事事件など)悪評が広まりにくいという特殊性から、現状の増員政策が悪貨が良貨を駆逐するという事態が生じている危惧があります」
【近藤公人弁護士】
「弁護士の業務拡大が進んでいるが、まだ1500人規模ではない。行政(地方自治体)への弁護士職員の採用も業務拡大の一つであるが、弁護士は、そもそも在野が基本であるので、行政側の弁護士が増えることにも疑問を感じている。法曹の質について、検証は難しいが、法曹の質は低下しているという噂がある。司法試験に合格し、司法修習生の卒業試験で、学説にもない起案をした例があり、当時大きな問題になった。弁護士になっても、あり得ない刑事弁護人の行動があった。私は、一部の合格者の質が下がっていると思っている」