弁護士の懲戒処分の要旨を公開しています。
日弁連広報誌「自由と正義」2016年11月号に掲載された弁護士懲戒処分の要旨
採決の公告
所属弁護士会において懲戒処分を受けましたが、審査請求を申し立てて処分が取り消しになった処分取消のの公告、熊本県弁護士会の冨晃之介弁護士が2015年7月30日に受けた戒告処分が取り消しになった採決の公告です。
自由と正義 2015年11月号に掲載された懲戒処分の要旨

 

懲 戒 処 分 の 公 告

熊本県弁護士会がなした懲戒の処分について同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告公表に関する規定第3条第1号の規定により公告する

1 懲戒を受けた弁護士
氏 名           冨 晃之介
登録番号         42069
事務所          熊本県八代市北の丸町1        
             八代たいよう法律事務所
2 処分の内容      戒 告 
3 処分の理由の要旨
(1)被懲戒者は2013年7月及び8月頃、懲戒請求者Aの夫であったBが事理弁識能力を欠く常況にあると認識していたか、又はその疑いを有していたにもかかわらず、懲戒請求者Aが提起したBが代表者を務める有限会社Cに対する貸金請求事件及び懲戒請求者Aが申し立てた協議離婚無効確認調停事件についてBから委任状を徴収し裁判所に提出するなどした。
(2)被懲戒者は20131212日Bが事理弁識能力を欠く常況にあるか、又は著しく制限されていることを認識しながらC社の株主総会について事務所を開催場所として提供し終始立ち会った上で、何らの助言も行わないままBが議長として議事進行することを容認し上記株主総会の開催に協力した。
(3)被懲戒者の上記行為はいずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士として品位を失うべき非行に該当する。
 4 処分の効力を生じた年月日 2015730
2015111日 日本弁護士連合会
 
採決の公告(処分取消)
熊本県弁護士会が2015年7月30日に告知した同会所属弁護士に対する懲戒処分(戒告)について同人から行政不服審査法の規定による審査請求があり、本会は2016年9月13日、弁護士法第59条の規定により、懲戒委員会の議決に基づいて以下のとおり採決したので、懲戒処分の公表及び公表等に関する規定第3条第3号の規定により公告する。
            
1 採決の内容
(1)審査請求人に対する懲戒処分(戒告)を取り消す。
(2)審査請求人を懲戒しない
2 採決の理由の要旨
(1)熊本県弁護士会(以下「原弁護士会」という)は審査請求人が懲戒請求者Aの夫であったBが事理弁識能力を欠くと認識していたが、その疑いを有していたにもかかわらず①Bが代表者を務める有限会社Cに対して懲戒請求者Aが提起した貸金返還請求事件及び懲戒請求者Aが申し立てた協議離婚無効確認調停事件について、審査請求人がBから委任状を徴求し、裁判所に提出したことは弁護士職務基本規定第22条に違反する、②C社の臨時株主総会開催にあたり審査請求人の事務所を開催場所として提供し、総会に立ち会った上でBが議長として議事進行することを容認したことは弁護士の品位を失うべき非行に該当する、との理由で審査請求人を戒告の処分に付した。
(2)しかし複数の診断書の内容によれば、委任状を徴求した時点におけるBの判断能力を判定することは容易とは言い難く、少なくとも原弁護士会のように、事理を弁識する能力を欠く常況にある等と認定することは困難であると言わざるを得ない、審査請求人はBの判断力に問題はないと考え、Bから事情聴取のうえBの意思に沿って答弁書を作成し提出していたところ、上記訴訟においては審査請求人が受任して手続に関与したことが裁判進行の妨げとなっておらず、担当裁判官は審査請求人に対し事実上の代理人としてB同伴で出頭することを求めるなど、訴訟代理人としての役割に期待していたと認めることもできる。したがって審査請求人が上記訴訟及び調停事件を受任した行為は同規定第22条に違反しない。
(3)Bにかかる後見開始の審判の効果はC社の臨時株主総会が開催された当時に遡及するものではなく、また事実上の推定を安易に遡及させるものではない、後見開始の審判に対してAB間の長女である懲戒請求者Dが、Bは精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるとはいえないとして即時抗告をした事実もあり後見開始審判が確定するまでの間におけるBの判断力の判定には慎重な検討を要するところ、本件臨時株主総会開催当時のBについて、原弁護士会のように、事理弁識能力を欠く常況にあった等と認定するのは困難といわざるを得ない。また審査請求人は当時、Bが後見相当であるとは考えていなかったものである。そもそも本件臨時株主総会の開催手続はBやその長男から依頼された司法書士が担当したもので審査請求人が弁護士業務として関与したものではなく、審査請求人には本件臨時総会開催を中止する権限はなかった。以上のことからすれば、審査請求人がBの依頼により事務所を本件臨時総会の開催場所として提供し立ち会ったことは品位を失うべき行為にあたらない
(4)以上のとおり審査請求人の行為は同規定第22条に違反せず、弁護士法第56条第1項に定めめる弁護士としての品位を失うべき非行に該当しない。
3 採決が効力を生じた年月日 2016年9月20日
2016年11月1日 日本弁護士連合会