弁護士自治を考える会

弁護士の懲戒処分を公開しています
「日弁連広報誌・自由と正義」2019年9月号に公告として掲載された弁護士の懲戒処分・東京弁護士会 井上宙史弁護士の懲戒処分の要旨

処分理由 弁護士照会で得た情報を他に流用

弁護士照会という制度があります。日弁連の弁護士照会 HPから

Q1 弁護士会照会とは何ですか?

A  弁護士会照会とは、弁護士が依頼を受けた事件について、証拠や資料を収集し、事実を調査するなど、その職務活動を円滑に行うために設けられた法律上の制度(弁護士法第23条の2)です。個々の弁護士ではなく、弁護士会が照会を行います。法律の条文から、「23条照会」と呼ばれることもあります。

 

Q2 なぜそのような権限が認められているのですか?

A 弁護士は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命」(弁護士法第1条)とし、依頼を受けた事件について、依頼者の利益を守る視点から真実を発見し、公正な判断がなされるように職務を行います。このような弁護士の職務の公共性から、情報収集のための手段を設けることとし、その適正な運用を確保するため弁護士会に対し、照会の権限が法律上認められているものです。

Q6 照会に答える義務はありますか?

A 弁護士会照会は、法律で規定されている制度ですので、原則として回答・報告する義務があり、例外として、照会の必要性・相当性が欠けている場合には回答・報告しなくてもよいものと考えられています。

最高裁も、照会を受けた照会先に報告・回答義務があることを認めています(最高裁第三小法廷平成28年10月18日判決)。

Q7 個人情報を回答しても大丈夫なのですか?個人情報保護法には反しませんか?

A 個人情報の保護に関する法律は、本人の同意がなくても第三者に情報を提供できる場合として「法令に基づく場合」を挙げています。この法令には弁護士法23条の2が含まれています(個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』および『個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について』に関するQ&A」のQ5-16参照)ですから、本人の同意なしで、個人情報を含む回答を弁護士会にすることができます。個人情報保護法について分野毎に作成された各種のガイドラインにも、弁護士照会が法令に基づく場合であることが明示されています。

Q10 回答した情報はしっかりと管理されるのですか?

A ご回答いただいた情報につきましては、申請を行った弁護士が事件処理のために用いることになります。各弁護士は、受任している事件の処理に必要な範囲でこの制度を利用するものとされていますので、照会を申請した目的以外に、ご回答いただいた情報を使用することは許されていません。万が一、照会を申請した目的以外に、ご回答いただいた情報を使用した場合には、事案に応じて懲戒処分の対象となります。

また、弁護士は、秘密保持の義務が法定され(弁護士法第23条)、高度の守秘義務が課されておりますし、「弁護士は、事件記録を保管又は廃棄するに際しては、秘密及びプライバシーに関する情報が漏れないように注意しなければならない。」(弁護士職務基本規程第18条)として、取得した情報の適正な管理を義務づけられております

さらに、弁護士は、「正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏ら」すことが禁止され罰則が定められております(刑法第134条)。ですから、安心してご回答ください

刑法第134条
医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6カ月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

 

弁護士に任せておけば、秘密は守られ、弁護士照会によって得た情報は他に利用されることはない。万が一情報が漏えいした場合、弁護士会が厳しい処分をするということですが,しかし、今回の懲戒処分は甘い懲戒処分しか出さなかった。

 

弁護士照会が来てどうしても断りたい方は次の懲戒処分の公告をコピーして回答してください。

日弁連は「その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らすことが禁止され罰則が定められております(刑法第134条)。ですから、安心してご回答ください。」というが、実際は以下の軽い処分しか行わなかった。刑法にも触れるというが刑事告発も行っていない。これでは市民の安心、安全は確保できない。さらに日弁連、所属弁護士会は誰も責任を取っていない、二度と繰り返さないという対応策や会長談話も発していない。以上の理由により今回の貴会からの弁護士照会については回答を致しません。

 

懲 戒 処 分 の 公 告

東京弁護士会がなした懲戒の処分について同会から以下の通り通知を受けたので懲戒処分の公告公表に関する規定第3条第1号の規定により公告する
1 処分を受けた弁護士
氏 名  井上宙史
登録番号 42702
事務所 東京都新宿区北町23-1ー204ジェイパーク神楽坂
2 処分の内容 業務停止6月
3 処分の理由
(1)被懲戒者は懲戒請求者の株式会社Aに対する貸金返還請求訴訟事件等においてA社の代理人を務めていたところ、A社の監査役であり懲戒請求者の取締役であったBが監査役としての適格を有しているかなどの判断資料とすることを目的として、2013年9月頃に申し出た弁護士会照会によって得たBの診察情報が上記目的のために取得されたものであり、かつBのプライバシーに関わる情報なのであるから、A社によって目的外使用されないよう特に注意を払う必要があったにもかかわらず、目的外使用されることを防ぐための措置を何ら講じなかった。
被懲戒者は懲戒請求者の代理人からの通知等により、A社が上記診療情報を目的外使用していることを知ったのであるから、A社に対し目的外使用をやめるよう要請するなどの措置を採ることができたにもかかわらず、何らの措置もとらなかった。
(2)被懲戒者は2013年5月9日から2015年6月19日までの間にA社と締結したとする5件の委任契約の内容が虚偽であるにもかかわらず、上記委任契約に基づく着手金、日当等合計3083万5716円が未払いであるとして2016年9月16日に内容虚偽の執行認諾文言付き公正証書を作成した上、上記公正証書を用いて、懲戒請求者のA社に対する差押手続において配当要求を行い、懲戒請求者のA社に対する正当な権利の実現を違法に阻害しようとした。
(3)被懲戒者の上記(2)の行為は弁護士職務基本規定第5条及び第14条に違反し、上記各行為はいずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
4 処分が効力を生じた年月日 2019年4月17日
2019年8月1日 日本弁護士連合会

元は井上宙史法律事務所
住所東京都 新宿区神楽坂1-15 神楽坂1丁目ビル8階

 

資 料

大阪弁護士会で弁護士会照会で取得した内容が不適切であると戒告処分となったが日弁連で処分取消となった例

苗村博子弁護士【大阪】懲戒処分取り消しの公告 2011年2月号