弁護士自治を考える会

弁護士の懲戒処分を公開しています。日弁連広報誌「自由と正義」2020年7月号に公告として掲載された弁護士懲戒処分の要旨・熊本県弁護士会・木原武士弁護士の処分要旨

処分理由 業務停止中の弁護士業務、法律行為

業務停止中に遺言執行者を辞任しなかった。相続人より遺言執行者である弁護士も被告となる訴訟を提起されたが、遺言執行者を辞任することはできないと判断して裁判を進めたため処分となった。

普通、業務停止中の業務、法律行為はもう一度業務停止の処分になるのですが戒告処分となりました。

この処分は、綱紀審査会を経て下された処分です。年間1件あるかないかの珍しいものです。

 

熊本県弁護士会綱紀委員会⇒懲戒申立棄却

   ↓

日弁連綱紀委員会⇒異議申立棄却

   ↓ 

綱紀審査会⇒審査相当

   ↓

熊本県弁護士会懲戒委員会⇒戒告処分。

 

 

時系列です。

報道がありました。2014年3月15日

着手金不当受領:弁護士懲戒処分−県弁護士会 /熊本

毎日新聞 2014年03月15日 地方版

 遺産の処分を巡って着手金約2200万円を不当に受け取ったなどとして、県弁護士会は14日、熊本市中央区安政町の「安政町法律事務所」に所属する木原武士弁護士(40)を業務停止2カ月の懲戒処分にした。県内の弁護士に対する懲戒処分は今年度2件目。 弁護士会によると、木原弁護士は県内の高齢女性=2013年1月に死亡=から、全ての遺産を1人の親族に相続するとしていた遺言書を、全て寄付するとの内容に変更するよう依頼を受けた。 その後、新たな遺言書の有効性を巡って紛争が起きていないにもかかわらず、11年9月から12年6月にかけて遺産処分に関する法律事務の着手金として計約2200万円を受け取るなどしたとしている。

 

懲 戒 処 分 の 公 告 2014年6月号

熊本県弁護士会がなした懲戒の処分について同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告公表に関する規定第3条第1号の規定により公告する

1 懲戒を受けた弁護士氏名 木原武士 登録番号37434事務所 熊本市中央区安政町           安政町法律事務所2 処分の内容 業務停止2月

3 処分の理由(1)被懲戒者はAから一切の遺産をAの姪である懲戒請求者に相続させる旨の公正証書遺言を作成し全財産を寄付する旨の新たな遺言書作成の意向を受けたが遺言信託に関する契約締結を提案した。遺言信託はB信託銀行に対し、Aの遺言信託に関するB行の質問に対するAの回答及びAの意向を伝えた程度で結局、遺言信託に関する契約は締結できず2011年9月29日Aの希望に沿う新たな公正証書遺言がなされた。被懲戒者はB行との協議は新遺言書作成の一環にすぎないものであったにもかかわらず、同日Aから公正証書遺言作成手数料131万5378円とは別個に適正かつ妥当な弁護士報酬とはいえない契約交渉手数料93万円を受領した。

(2)被懲戒者はAと懲戒請求者との間に上記の新たな公正証書遺言書の有効性をめぐる紛争が発生していない上、Aに対し事件の見通し及び処理の方法のみならず、着手金算定の基礎となる金額、計算方法等について十分な説明をせずに2011年9月29日Aから交渉事件の着手金名目で適正かつ妥当な弁護士報酬とはいえない1273万6828円を着手金の追加として2012年2月16日に535万円及び6月12日に388万5160円をそれぞれ受領した。

(3)被懲戒者は2012年9月19日Aと財産の管理に関する委任契約等を締結し、その頃Aから通帳及びカードを預かり財産管理を開始した。

被懲戒者はAの預り金口座から同月25日に30万円、同年11月19日に30万円、同年12月4日に30万円をそれぞれ払い戻し、払い戻した現金を封筒に入れ支出の都度に受領した領収書を封筒に入れるという方法で管理したが収支明細を記録しなかった。(4)被懲戒者の上記(1)及び(2)の行為は弁護士職務基本規定第24条に違反し上記(3)の行為は同規定第38条に違反し、いずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。4 処分の効力を生じた年月日 2014年3月14日2014年6月1日 日本弁護士連合会

 

綱紀審査会の運用状況について 2020年1月22日 日本弁護士連合会

 

審査相当事案について

(事案の概要)

綱紀審査申出人(以下「申出人」という)が遺言執行者に指定された対象弁護士を被告として、遺言無効確認訴訟(以下「本件訴訟」という)を提起したところ、対象弁護士が、本件訴訟係属中に業務停止2月の懲戒処分を受け、業務停止になったにもかかわらず、業務停止期間中においても遺言執行者を辞任することなく本件訴訟の被告として応訴を続けたことが、停止された業務の遂行をしたものであり弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとされた事例。

弁護士が業務停止となったにもかかわらず、遺言執行者を辞任しなかったことの当否が問題となり、原弁護士会綱紀委員会は、原弁護士会懲戒委員会に審査を求めないことを相当とする旨判断し、当連合会に綱紀委員会もこの判断を支持した。

綱紀委員会の議決の理由の要旨

(1)事実

遺言者Aが対象弁護士を遺言執行者に指定した公正証書遺言を作成後死亡したところ、申出人は遺言執行者である対象弁護士を被告として本件訴訟を提起した、本件訴訟係属中は業務停止2月の懲戒処分を受けたが、業務停止期間中、遺言執行者を辞任することなく本件訴訟において被告として応訴を続けた。

なお、懲戒処分の理由は、

ア 遺言信託交渉が遺言書作成の一環に過ぎないものであったにもかかわらずAから遺言作成手数料とは別個に適正かつ妥当な弁護士報酬とはいえない契約交渉手数料を受領したこと。

イ 公正証書遺言の有効性をめぐる紛争が発生していない上、Aに対し、事件の見通し及び処理方法、着手金算定の基礎となる金額、計算方法等について十分な説明をせずに着手金を受領したこと

ウ 対象弁護士がAと財産の管理に関する委任契約等を締結し、財産管理を開始したにもかかわらず、収支明細を記録しなかったことが、弁護士職務基本規程第24条及び第38条に違反するというものであった。

(2) 判断

「被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規則について弁護士会及び日本弁護士連合会の採るべき措置に関する基準」によれば、業務停止処分を受けた弁護士は、当該処分の理由となった事件との関係の有無・程度を問うことなく、受任している法律事件について直ちに依頼者との委任契約を解除しなければならない、とされている。したがって、業務停止処分を受けた弁護士は、懲戒の理由となった事件と別の受任事件についても依頼者との間で受任者の地位を継続することは許されないというべきであって、業務停止処分を受けた対象弁護士には、直ちに遺言執行者を辞任し、業務停止期間は弁護士業務を行わないことにより、国民の弁護士に対する信頼を回復することが弁護士自治の観点から求められているに鑑みると、対象弁護士が直ちに遺言執行者を辞任しなかったことは、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

3 綱紀審査会の議決の年月日2019年8月6日

懲 戒 処 分 の 公 告 2020年7月号

熊本県弁護士会がなした懲戒の処分について同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告公表に関する規定第3条第1号の規定により公告する

1 懲戒を受けた弁護士

氏 名        木原武士 

登録番号       37434

事務所        熊本市中央区九品寺1-2-23 MCビル2階

           森都法律事務所

2 処分の内容    戒 告

3 処分の理由

被懲戒者は、Aが作成した公正証書遺言で遺言執行者に指定され、Aの死亡後、懲戒請求者が提起した遺言無効確認請求事件で遺言執行者として被告となったが、所属弁護士会から2014年3月14日を始期とする業務停止2月の懲戒処分を受け、その際、受任している法律事件について、直ちに依頼者との委任契約を解除するよう指示を受けたにもかかわらず、業務停止期間中、遺言執行者を辞任する許可を家庭裁判所に求めず、上記訴訟において被告の地位にとどまった。被懲戒者の上記行為は弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。

4 処分の効力を生じた年月日 2020年2月4日2020年7月1日 日本弁護士連合会