弁護士自治を考える会
棄却された懲戒請求の議決書

ファクタリング会社の顧問弁護士(東京)に申立した懲戒請求・棄却の議決書

令和2年東綱第229号

議 決 書 

懲戒請求者 〇〇

被調査人 弁護士(東京弁護士会) 

当委員会第4部会は、頭書事案について調査を終了したので、審議の上、以下のとおり議決する。 

主  文

被調査人につき、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。 

事実及び理由 

第 1 事案の概要 

本件は、被調査人が、いわゆる「給与ファクタリング」を業として行う会社と顧問契約を締結して顧問弁護士に就任したとして必要な法令及び事実関係の調査の懈怠、違法行為の助長、品位を損なう事業への参加、弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとして懲戒請求がなされた事案である。 

第 2 前提事実 

1 、東京地方裁判所は、令和2年3月24日、一般個人(労働者)から給与債権 を買い取るいわゆる「給与ファクタリング」による取引について、労働基準法 第24条第1項の趣旨に徴すれば、給与債権が譲渡された場合においても使用者は直接労働者に対し賃金を支払わねばならず、労働者である顧客から給与債権を買い取って金銭を交付した業者は常に当該労働者を通じて譲渡に係る債権の回収を図るほかないから、業者から労働者に対する債権譲渡代金の交付だけでなく、当該労働者からの資金の回収が一体となって資金移転の仕組みが構築されているというべきであり、経済的には貸付けによる金銭の交付と返還の約束と同様の機能を有するものと認められ、当該取引における債権譲渡代金の交付は貸金業法や出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以 下「出資法」という。)にいう「貸付け」に該当し、当該取引を行う業者は貸金業法にいう貸金業を営む者に当たると判示した(以下「東京地裁判決」とい う。)。 

なお、東京地裁判決は、訴訟当事者である給与ファクタリング業者が徴収した手数料を年利に換算すると貸金業法第42条第1項に定める年109.5% を超過しているとして当該取引は無効であるとともに、出資法第5 条第3項に違反し、刑事罰の対象となると半示した。

 2、 貸金業の監督官庁である金型庁は、同年3月5日付けで公表した同庁監督局 総務課金融会社室長名の「金融庁における一般的な法令解釈に係る書面照会手続(回答書)」において、いわゆる「給与ファクタリング」のスキームについて、東京地裁判決と同じ論法にて貸金業法にいう貸付けに該当し、当該スキー ムを業として行うものは貸金業に該当するとの解釈を示した(以下「金融庁回答」という。)。 

3 日本弁護士連合会は、同年5月22日付けで公表した同会長名の声明におい て、いわゆる「給与ファクタリング」のスキームについて、東京地裁判決および金融庁回答と同様の解釈を示したうえで年利に換算すると数百%以上にも相当するような高額な手数料を徴収している業者を貸金業法及び出資法に違反する違法なヤミ金融業者と断じ、給与ファクタリング業者の取締りの徹底を 求め、給与ファクタリング業者と称するヤミ金融の撲滅に向けて相談体制を強化するなどの努力をするとしている(以下「日弁連声明」という。)。

 4 株式会社A(以下「A申立外会社」という。)は、いわゆる「給与ファクタリング」を業として行っていた会社でありウェブサイトにて広告宣伝し、顧客を募っていた。

5 A申立外会社は、そのウェブサイトに顧問弁護士として被調査人の氏名を掲載していた。 

第 3_懲戒請求事由の要旨 

A申立外会社は、給与ファクタリングとの名目にて無登録で貸金業を行ういわゆる闇金融業者であり、被調査人がA申立外会社と顧問契約を締結して顧問弁 護士に就任し、そのウェブサイトに顧問弁護士として氏名が掲載されることを許諾した行為は、必要な法令及び事実関係の調査の解き違法行為の助長、品位を損なう事業への参加に当たり、このような会社に法的知見を提供し法の潜脱手段を指南することは社会正義の実現を目的とする本来の弁護士業ではなく 弁護士としての品位を失うべき非行に当たるから、完護士職務基本規程第37 条、第14条、第15条に違反し、弁護士法第56条第1項に該当する。 

第 4 被調査人の答弁及び反論の要旨 

A申立外会社との間で顧問契約を締結したのは今和2年3月1日である。 

顧問契約を締言した当時は一般的なファクタリングについても給与ファクタ リングについても、これを一概に違法と定する見解は公にされておらず、A申 立外会社の業務は一般的なファクタリングであると認識していた。 

同年5月7日、A申立会社から、給与ファクタリングの適法性について意見 を求められたことから、A申立外会社が給与ファクタリングを業務としていたこ と、金融庁回答が公表されていることを知った。 

そのため、各法令及び裁判例を詳細に調査した上で、同月21日、A申立外会社に対し、貸金業法や出資法違反、公序良俗違反になるかは事例によるため議論の余地はあるが、労働基準法から見ると違法性があることから、今後のことを考えると速やかに業務を廃止すべきである旨助言した。 

A申立外会社は、金融庁回答を踏まえて業務廃止に向けて準備を進めていたようであるが、被調査人からの上記助言を受けて業務廃止を速やかに進め、同年6月10日をもって廃業するので同月末日をもって顧問契約を終了させる旨、連絡してきたことから、これを承諾し、同日をもって顧問契約は終了した。 顧問契約を締結していた間、違法行為を助長していたことも、品位を損なう 事業に参加していたこともなく、A申立外会社に法の潜脱手段を指南していたこともない。 

第 5 証拠の標目 

別紙証拠目録記載のとおり。  

第 6 当委員会第4部会の認定した事実及び判断

1、 関係各証拠によれば、前提事実のほか、以下の事実が認められる。

 (1) 被調査人は、令和2年3月1日、申立外会社との間で顧問契約を締結して 顧問弁護士に就任した。 なお、懲戒請求者は、被調査人がA申立外会社のウェブサイトに顧問弁護士 として氏名を掲載することを許諾したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はないから、被調査人が上記許諾をしたとは認められない。

 (2)被調査人は、顧問契約を締結した当時、A申立外会社からその業務内容について一般的なファクタリングと聞いており、給与ファクタリングを業として 行っていることを知ったのは、申立が会社から給与ファクタリングの適法性について意見を求められた同年5月7日であった。

(3)被調査人は、同月21日、A申立外会社に対し、給与ファクタリングのスキ ームは、少なくとも労働基準からすれば違法であり、民事上は無効となり、 刑事罰に処せられる犯罪行為と言わざるをえないこと、金融庁回答や国会審議他社への集団訴訟が提起されていること等に鑑みれば早めに手を引き会 社を清算すべきであるとの意見を述べた。

 (4)これに対し、A申立外会社は、同月22日、被調査人に対し、現在新規の契約を行っておらず、同年6月10日を目途に会社清算予定であると返答した。

 (5) A申立外会社は、被調査人に対し、同年6月をもって顧問契約を終了させる 旨連絡し、A申立外会社と被調査人との間の顧問契約は、同月末日をもって終了した。

 (6)A申立外会社は、被調査人が顧問弁護士に就任していた当時、貸金業法第3条第1項所定の登録を受けていなかった。

 2 懲戒請求事由について 

東京地裁判決及び金融庁回答等によれば、給与ファクタリングによる取引に おける債権譲渡代金の交付は貸金業法や出資法にいう「貸付け」に該当し、当該取引を行う業者は貸金業法にいう貸金業を営む者に当たるから、申立外会社 は貸金業法第3条第1項(登録)に違反し、申立外会社が徴収していた手数料 を年利に換算した利率によっては、利息制限法に違反し、貸金業法第42条第 1項(高金利を定めた金銭消費貸借契約の無効)及び出資法第5条第3項(高金利の処罰)に該当する。 

しかし、被調査人がA申立外会社の顧問弁護士に就任したことのみをもって直ちに必要な法令および事実関係の調査の解宮、違法行為の助長、品位を損なう事業への参加、弁護士としての品位を失うべき非行にあたるとは認められず、 給与ファクタリングの実態が貸付けであると認識しながら、あるいは、法令等 の調査や事実関係の調査をすれば容易に認識しえたにもかかわらずこれを認識せず、貸金業としての登録や利息制限法の遵守、あるいは業務停止といった 適正な助言や指導をせず放置したと認められる場合に上記非行にあたるもの と解すべきである。 

上記認定事実によれば、被調査人が、申立外会社による給与ファクタリング の実態が貸付けであると認識しながら適正な助言や指導をせず放置したと認 めるに足りる証は存在しない。 

懲戒請求者は、東京地裁判決や金融庁回答が出された後も被調査人が直ちに顧問弁護士を辞任しなかったことをもって上記非行にあたると主張するが、被 調査人が顧問弁護士を辞任するまでの間、適正な助言や指導をせずに放置した と認められるような具体的事実は適示していない。 

以上から、被調査人がA申立外会社と顧問契約を締結して顧問弁護士に就任した行為をもって、直ちに必要な法令及び事実関係の調査の解宮、違法行為の助 長、品位を損なう事業への参加に当たるとは認められず、弁護士としての品位を失うべき非行とは認められない。 

よって、主文のとおり議決する。 

令和3年9月17日  東京弁護士会綱紀委員会第4部会 

部会長     (記載省略)   部会長名もハンコも無い議決書

日弁連2020年5月 いわゆる給与ファクタリングについての会長声明

https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2020/200522.html

 

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