『棄却された懲戒の議決書』給与ファクタリング会社の顧問弁護士に懲戒申立8件目の棄却 東弁第4部会
給与ファクタリング会社の顧問弁護士に懲戒を申立てています。懲戒の申立てがあれば被調査人は必ず「答弁書」を指定された日までに綱紀委員会に提出しなければなりません。答弁書には「懲戒委員会に審査を付さないとの議決を求める」と書き,次にその理由を述べていくのが普通です。中には「懲戒委員会に審査を付さない議決を求める」だけのもの、何も提出しないという弁護士もいます。
答弁書の提出が無い場合は綱紀委員会が何度も答弁書の提出の請求をします。
議決書の最後に「証拠目録」があります。それをみると懲戒請求者(甲号)が懲戒請求書以外に、どういう書面、証拠を提出したか、被調査人(対象弁護士)(乙)はどういう反論の書面や証拠を出したかわかります。丙号証は綱紀委員会が職権で集めたものです。
弁護士会としてこの内容は処分できないもの、役員が関わっている内容のものは、何としても棄却しなければなりません。今回の棄却の議決書には綱紀委員会が10件の書証を職権で集め棄却をしてくれました。そして秘密の東弁第4部会にまわされ議決書には綱紀の誰が判断したか分からないようにしてあります。ほんとうに弁護士にとってありがたい東京弁護士会綱紀委員会第4部会です。
先に「第5 証拠目録」をご覧ください。
議決書令和2年東綱第231号、233号
議決書
シティクロス総合法律事務所 被調查人山室 裕幸 (登録番号51101)
令和2年東綱第233号
同所 被調查人竹中朗 (登録番号54370)
当委員会第4部会は、頭害事案について調査を終了したので、審議の上、以下のとおり議決する。
主 文
被調査人らにつき、いずれも懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。
第5 証拠目録第1 書証
1懲戒請求者提出
甲1 インターネット上の朝日新聞記事
甲2 インターネット上の日本経済新聞記事
甲3 申立外会社等HP
2 被調查人提出
なし
3 職権
丙1 答弁書
丙2 主張書面(1)
丙3 最高裁判所判決(昭和43年3月12日)
丙4 最高裁判所判決(昭和43年5月28日)
丙5 東京地方裁判所判決(平成28年7月19日)
丙6 東京地方裁判所判決(平成28年12月19日)
丙7 東京高等裁判所判決(平成29年5月23日)
丙8 金融庁における一般的な法令解釈に係る書面照会手続き(回答書)
丙9 東京地方裁判所判決(会和2年9月18日)
丙10 東京地方裁判所判決(令和2年3月24日)
第2 人評
なし
第1事案の概要第1 事案の概要
本件は、被調査人らが、いわゆる「給与ファクタリング」を業として行う会 社と顧問契約を締結して顧問弁護士に就任したとして、必要な法令及び事実関 係の調査の解宮、違法行為の助長、品位を損なう事業への参加、弁護士としての品位を失うべき非行にあたるとして懲戒請求がなされた事案である。
第2 前提事実
1 東京地方裁判所は、令和2年3月24日、一般個人(労働者)から給与債権を買い取るいわゆる「給与ファクタリング」による取引について、労働基準法第24条第1項の趣旨に徴すれば、給与債権が譲渡された場合においても使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、労働者である顧客から給与債権を買い取って金銭を交付した業者は常に当該労働者を通じて譲渡に係る債権の回収を図るほかないから、業者から労働者に対する債権譲渡代金の交 付だけでなく、当該労働者からの資金の回収が一体となって資金移転の仕組み が構築されているというべきであり、経済的には貸付けによる金銭の交付と返 還の約束と同様の機能を有するものと認められ、当該取引における債権譲渡代 金の交付は貸金業法や出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律 (以下「出資法」という。)にいう「貸付け」に該当し、当該取引を行う業者は貸金業法にいう貸金業を営む者に当たると判示した(以下「東京地裁判決」 という。)。
なお、東京地裁判決は、訴訟当事者である給与ファクタリング業者が徴収し た手数料を年利に換算すると貸金業法第42条第1項に定める年109.5% を超過しているとして当該取引は同項により無効であるとともに、出資法第5 条第3項に違反し、刑事罰の対象となると判示した。
2 貸金業の監督官庁である金融庁は、同年3月5日付けで公表した同庁監督局 総務課金融会社室長名の「金融庁における一般的な法令解釈に係る書面照会手 続(回答書)」において、いわゆる「給与ファクタリング」のスキームについ て、東京地裁判決と同じ論法にて貸金業法にいう貸付けに該当し、当該スキー ムを業として行うものは貸金業に該当するとの解釈を示した(以下「金融庁回 答」という。)
3 日本弁護士連合会は、同年5月22日付けで公表した同会長名の声明において、いわゆる「給与ファクタリング」のスキームについて、東京地裁判決及び 金融庁回答と同様の解釈を示したうえで、年利に換算すると数百%以上にも相 当するような高額な手数料を徴収している業者を貸金業法及び出資法に違反 する違法なヤミ金融業者と断じ、給与ファクタリング業者の取締りの徹底を求 め、給与ファクタリング業者と称するヤミ金融の撲滅に向けて相談体制を強化 するなどの努力をするとしている(以下「日弁連声明」という。)。
4 BB〇株式会社、株式会社ワールド××、和紋〇× 株式会社、Human▲〇株式会社及びBUL×〇株式会社(以下「申立外5社」という。)は、いわゆる「給与ファクタリング」を業として行っていた会社であり、ウェブサイトにて広告宣伝し、 顧客を募っていた。
5 申立外5社は、そのウェブエイトに顧問弁護士として被調査人らが所属す 事務所名あるいは被調査人らいすれかの氏名を掲載していた。
第4被調査人の答弁及び反論の趣旨弁護士職務基本規程第14条、第15条は、弁護士が不正な行為又は品位を害する事業であることを認識し、または容易に認識しえたにもかかわらず、これに積極的に協力するような行為を禁止するものであると解すべきであり、そのような認識を弁護士が有していない場合、同規定に抵触しないと解すべきで ある。 被調査人らは、令和元年10月下旬、給与ファクタリング事業の新規立上げを目指している企業から新規相談を受け、法的見解を求められたことから、給与ファクタリングの法的性質に関する裁判例や行政機関による指針などを探 したが、この時点においては存在しなかった。
そのため、ファクタリングに関する裁判例等を調査検討したうえで、
①給与ファクタリング業者が顧客に対し、買戻義務、償還義務等を一切課さない、
② 債務者の経営状態の悪化等の理由で債務不履行が発生した場合、その損失の全 てを業者が負担する、
③債務者による給与の未払いが発生した場合でも顧客には回収の負担を課さないとの条件を満たすスキームであれば、貸付けに該当しないと結論付けるに至った。
同年11月、被調査人らが上記企業に調査内容と結論を伝えたところ、顧問 契約締結の依頼がありこれを引き受けた。その後、上記企業と親しい関係にある企業からも新たに顧問契約締結の衣類がありこれを引き受けた。
令和2年3月に金融庁回答が公表された時点では、その内容が簡潔かつ抽象的なものであったため、上記スキームであれば貸付けに該当しないとの結論が誤りであるとの確信を持つことはできなかったが、同年4月、東京地裁判決の 報道を受けて検査した意見、上記スキームが東京地裁判決の射程に含まれる可能性を排除できないことから、給与ファクタリング事業を継続させるべきでないとの判断に至った。
そのため、被調査入らは、給与ファクタリング事業を行っていた全ての顧問企業に対し、給与ファクタリング事業から撤退すべきである旨の説明を開始し、現状では顧問契約を継続できない旨を伝えたとともに、事業継続により想定さ れる様々なリスクを説明した結果、同月下旬までに全ての顧問会社が新規取引を停止し、同月5月、給与ファクタリング事業からの撤退に向けて広告掲載の解約、ウェブサイトの閉鎖等が順次行われ、同月中には給与ファクタリング事業から撤退し、被調査人らは同月をもって顧問契約を終了させた。
第6 当委員会第4部会が認定した事実及び判断1 関係各証拠によれば、前提事実のほか、以下の事実が認められる。
(1)被調査人らは、令和元年11月頃、申立外5社との間で顧問契約を締結して顧問弁護士に就任した。
(2)被調査人らは、令和2年4月、東京地裁判決の報道を受けて検討した結果、 給与ファクタリング事業を継続させるべきではないとの判断に至り、申立外 5社に対し、給与ファクタリング事業から撤退すべきである旨の説明を開始し、事業継続により想定される様々なリスクを説明した。 (3) 申立外5社は、同月下旬までに新規取引を停止し、同年5月中には給与フ ァクタリング事業から撤退し、申立外5社と被調査人らとの間の顧問契約は同月末日をもって終了した。
(4)申立外5社は、被調査人らが顧問弁護士に就任していた当時、貸金業法第3条第1項所定の登録を受けていなかった。
2 懲戒請求事由について
東京地裁判決及び金融庁回答等によれば、給与ファクタリングによる取引における債権譲渡代金の交付は貸金業や出資法にいう「貸付け」に該当し、当該取引を行う業者は貸金業法にいう貸金業を営む者にあたるから、申立外5社 は貸金業法第3条第1項(登録)に違反し、申立外5社が徴収していた手数料を年利に換算した利率によっては、利息制限法に違反し、貸金業法第42条第1項(高金利を定めた金銭消費貸借契約の無効)及び出資法第5条第3項(高金利の処置)に該当する可能性がある。
しかし、被調査入ら申立外5社の顧問弁護士に就任したことのみをもって 直ちに、必要な法令及び事実関係の調査の懈怠、違法行為の助長、品位を損なう事業への参加、弁護士としての品位を失うべき非行にあたるとは認められず、 給与ファクタリングの実態が貸付けであると認識しながら、あるいは、法令等 の調査や事実関係の調査をすれば容易に認識しえたにもかかわらずこれを認識せず、貸金業としての登録や利息制限法の遵守、あるいは業務停止といった 適正な助言や指導をせず放置したと認められる場合に上記非行にあたる可能性があるといえる。 上記認定事実によれば、被調査人らが、申立外5社による給与ファクタリングの実態が貸付けであると認識しながら適正な助言や指導をせず放置したと認めるに足りる証拠は存在しない。
懲戒請求者は、東京地裁判決や金融庁回答が出された後も被調査人らが直ちに顧問弁護士を辞任しなかったことをもって上記非行にあたると主張するが、 被調査人らが顧問弁護士を辞任するまでの間、適正な助言や指導をせずに放置したと認められるような具体的事実は適示していない。
以上から、被調査人らが申立外5社と顧問契約を締結して顧問弁護士に就任 した行為をもって、必要な法令及び事実関係の調査の解宮、違法行為の助長、 品位を損なう事業への参加にあたるとは認められず、弁護士としての品位を失うべき非行とは認められない。
よって、主文のとおり議決する。
令和3年10月15日
東京弁護士会綱紀委員会第4部会 部会長 (記載省略) (署名ハンコなし)
棄却された懲戒の議決書をお持ちの方は当会までお送りください。
個人情報は削していただいて構いません。