『棄却された懲戒の議決書』
弁護士に懲戒を申立てをして棄却(処分しない)となった綱紀委員会の議決書を公開しています。ファクタリング会社という金融会社があります。違法な貸し付けを行うもので日弁連も会員に注意喚起をしています。埼玉の弁護士らがファクタリング会社に民事裁判を提起したというニュースもありましたが、違法会社の顧問になりファクタリング会社を育てていたのも事実です。
当会では棄却された綱紀の議決書を募集しています。公開しないというものでも構いません。
議 決 書
対象弁護士 弁護士法人ワンピース法律事務所 被調查人杉山雅浩 (登録番号52597)
(令和2年東法第7号) 同所 被調査人弁護士法人ワンピース法律事務所 (屈出番号01209)
当委員会第4部会は、頭書事案について調査を終了したので、審議の上、以下の とおり議決する。
主 文
被調査人らにつき、いずれも懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。
事実及び理由
第1 事案の概要
本件は、被調査人杉山雅浩(以下「被調査人杉山」という。)が、いわゆる「給与ファクタリング」を業として行う会社と顧問契約を締結し、顧問弁護士とし て氏名の使用を許諾し、事件処理をしたとして、必要な法令及び事実関係の調査の解怠、違法行為の助長、品位を損なう事業への参加、不当な事件の受任に 当たるとして懲戒請求がなされた事案である。
第2 前提事実
1 貸金業の監督官庁である金融庁は、令和2年3月、日本ファクタリング業協会からの照会に対し、個人(労働者)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行う給与ファクタリングのスキームについて、労働基準法第24条第1項が適用され、いかなる場合であっても賃金債権の譲受人は常に労働者に対してその支払いを求めることになるから、経済的に貸付けと同様の機能を有しているものと考えられるとして、貸金業法第2条第1項の「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法」に該当し、当該スキームを業として行うものは同項の「貸金業」 に該当すると考える旨回答(以下「金融庁回答」という。)した。
2 合同会社A社(以下「A社」という。)は、給与ファクタリングを業として行っていた会社であり、そのウェブサイトにて広告宣伝し、顧客を募っていた。
3 A社は、顧客(労働者)が有する賃金等債権を譲り受け、譲渡人である顧客との間で、譲渡対象である賃金等債権の回収業務を委託する内容の集金業務委任契約を締結し、顧客から回収金員の引渡しを受けていた。
4 被調査人杉山は、令和2年5月8日、A社の代理人として、同年2月4日付け賃金等債権譲渡契約により賃金債権5万円分を譲り受けた顧客(以下 「本件顧客」という。)に対し、集金業務委任契約に基づき、約定支払日を経過しても回収金員の引渡しがないことを理由として、5万円及び遅延損害金を請求する内容の同日付け「督促状」(甲6、以下「本件督促状」という。)を送付 した。
第3 懲戒請求事由の要旨
1 懲戒請求事由1
被調査人杉山は、給与ファクタリング事業者である株式会社B社、株式会社C社及びA社と顧問契約を締結して顧問弁護士に就任し、顧問弁護士として氏名を使用することを許諾した。
給与ファクタリング事業は、貸金業法や出資の受入れ、預り金及び金利等の 取締りに関する法律(以下「出資法」という。)に抵触する事業であり、その事業者は闇金融業者であるから、上記行為は、必要な法令及び事実関係の調査の解念、違法行為の助長、品位を損なう事業への参加に当たるから、弁護士職務基本規程第37条、第14条、第15条に違反し、弁護士としての品位を失うべき非行に当たる。
2 懲戒請求事由2
被調査人杉山は、A社の代理人として、本件顧客に本件督促状を送付し、被調査人杉山が管理する銀行口座に金員を振り込ませた。 上記行為は、違法行為の助長に当たり、貸金業法第21条第1項第9号に違反した不当な事件の受任に当たるから、弁護士職務基本規程第14条、第31 条に違反し、弁護士としての品位を失うべき非行に当たる。
第4 被調査人らの答弁及び反論の要旨
1 懲戒請求事由1について
A社による給与ファクタリング事業は、労働基準法第24条第1項を遵守してノンリコースを徹底し、給与ファクタリングの仕組みについて顧客に 事前に十分な説明をするなどしていたことから、金融庁回答を前提としても貸金業法や出資法にいう「貸付け」には当たらず、可能な限りで調査を尽くした が、未だ評価は定まっていないと認識していた。貸金業協会や警察にも相談したが同意見であった。
しかし、他の違法業者に巻き込まれる形で不測の損害を受けることはありえるから、A社対し、給与ファクタリング事業から撤退した方がいいと助言した。 A社は、令和2年3月をもって給与ファクタリング事業から事実上撤退し、顧問契約も同月をもって解除により終了させた。株式会社B社及び株式会社C社については、そのような会社を知らず、顧問契約を締結した事実も、顧問弁護士として氏名の使用を許諾した事実もない。
2 懲戒請求事由 2について
A社が給与ファクタリング事業を事実上廃業し、顧問契約を終了させ た後の令和2年4月から同年5月頃までの間に、A社から、集金業務委 任契約に基づく回収金員の引渡しを請求する督促状の送付を依頼されたことが 1件あり、それを受任して送付したのが本件督促状である。ただし、A社が本件顧客との間で賃金債権譲渡契約を締結したのは同年2月4日であり、金融庁回答が出される以前である。
本件顧客に本件督促状を送付しただけで、その後は何もしておらず、本件顧客から金員が振り込まれた記憶はない。 当時は、給与ファクタリング事業といっても事業者により内容が異なるため、A社による給与ファクタリング事業は貸金業法や出資法にいう「貸付け」 には当たらないと認識していた。
第5 証拠の標目
別紙証拠目録記載のとおり。
第6 当委員会第4部会の認定した事実及び判断
1 関係各証拠によれば、前提事実のほか、以下の事実が認められる。
(1) 被調査人杉山は、令和元年9月頃、給与ファクタリング事業を行うA社との間で顧問契約を締結して顧問弁護士に就任し、そのウェブサイトに顧問弁護士として氏名を掲載することを承諾した。
(2) 被調査人杉山は、令和2年3月、給与ファクタリングについては未だ評価が定まっておらず、金融庁回答を前提としてもA社による給与ファク タリングのスキームであれば貸金業法や出資法にいう「貸付け」に該当しな いと認識していたが、不測の損害を受けることがありうるとして、A社に対し、給与ファクタリング事業から撤退した方がいいと助言した。
(3) A社は、金融庁回答が公表されたことから、同年3月をもって給与ファクタリング事業を停止し、同月をもって被調査人杉山との顧問契約を解除により終了させた。
(4) 被調査人杉山は、顧問契約終了後の同年4月から5月頃までの間に、A社から、賃金債権を譲り受け、譲渡代金を支払ったものの回収金員の引渡しを受けていない顧客(賃金債権の譲渡人)に対し、集金業務委任契約に基づき回収金員の引渡しを請求する督促状の送付1件を依頼され、A社による給与ファクタリングのスキームであれば貸金業法や出資法にいう 「貸付け」に該当しないとの認識のもと、これを受任して本件督促状を本件顧客に送付した。
(5) A社は、被調査人杉山が顧問弁護士に就任していた当時、貸金業法第3条第1項所定の登録を受けていなかった。
2 懲戒請求事由 1について
(1) 金融庁回答及び令和3年3月24日の東京地方裁判所判決(以下「東京地裁判決」という。)によれば、給与ファクタリングによる取引における債権譲渡代金の交付は貸金業法や出資法にいう「貸付け」に該当し、当該取引を行う業者は貸金業法にいう貸金業を営む者に当たるから、A社は貸金業 法第3条第1項(登録)に違反し、徴収していた手数料を年利に換算した利率によっては、利息制限法に違反し、貸金業法第42条第1項(高金利を定 めた金銭消費貸借契約の無効)及び出資法第5条第3項(高金利の処罰)に該当する可能性がある。
しかし、被調査人杉山がA社の顧問弁護士に就任し、そのウェブサイ トに顧問弁護士として氏名を掲載することを承諾したことのみをもって直ちに、必要な法令及び事実関係の調査の概念、違法行為の助長、品位を損なう事業への参加、弁護士としての品位を失うべき非行に当たるとは認められず、給与ファクタリングの実態が貸付けであると認識しながら、あるいは、法令等の調査や事実関係の調査をすれば容易に認識しえたにもかかわらずこれを認識せず、貸金業としての登録や利息制限法の遵守、あるいは業務停止といった適正な助言や指導をせず放置したと認められる場合に上記非行にあたる可能性があるものと解すべきである。
上記認定事実によれば、被調査人杉山は、金融庁回答が出された令和2年3月に給与ファクタリング事業から撤退を助言しA社は同月をもって同事業を停止しており、適正な助言や指導をせずに放置したと認めるに足りる証拠は存在しない。
以上から、被調査人杉山がA社と顧問契約を締結して顧問弁護士に就任しウエブサイトに顧問弁護士として氏名を掲載することを承諾した行為をもって、必要な法令及び事実関係の調査の 怠、違法行為の助長、品位を損なう事業への参加に当たるとは認められず、弁護士としての品位を失うべき非行は認められない。
3 懲戒請求事由2について
(1)金融庁回答及び東京地裁判決によれば、上記のとおり、A社による給与ファクタリングは貸金業法第3条第1項(登録)に違反し、徴収していた手数料を年利に換算した利率によっては、利息制限法に違反し、貸金業法第42条第1項(高金利を定めた金銭消費貸借契約の無効)及び出資法第5条第3項(高金利の処罰)に該当する可能性がある。
しかし金融庁回答及び東京地裁判決はA社に対して出されたものではないこと、上級審の判決は出されていなかったことから、被調査人杉山が、本件督促状を送付した令和2年5月8日時点においてA社による給与ファクタリングは貸金業法や出資法にいう『貸付け』に該当しないとの認識のもと、A社からの依頼を受けて本件督促状を送付した行為のみをもって違法行為の助長にあたるとは認められない。
(2)懲戒請求者は本件督促状を送付した結果、本件顧客より被調査人杉山が管理する銀行口座に金員が振り込まれたと主張し、本件督促状に記載された振込口座に5000円が振り込まれた履歴のサイト画面らしき印刷物を提出するが(甲7)本件督促状に記載の請求額と振込金額が異なること、振込人が不明であることから、これをもって本件顧客からの振込みであるとは認められない。
(3) 懲戒請求者は、被調査人杉山が本件督促状を本件顧客に送付したことは、貸金業法第21条第1項第9号に違反すると主張する。しかし、本件顧客が本件督促状に記載の請求に係る債務の処理を「弁護士 若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとったと認めるに足りる証拠は存在しないから、本件顧客に送付したことが同号に違反し、不当な事件の受任に当たるとは認められない。
(4) 以上から、被調査人杉山がA社の代理人として本件督促状を本件顧客に送付した行為をもって、違法行為の助長、不当な事件の受任に当たるとは認められず、弁護士としての品位を失うべき非行は認められない。
4 被調査人弁護士法人ワンピース法律事務所について
被調査人杉山が代表社員を務める弁護士法人ワンピース法律事務所(名称変 更前は、弁護士法人V–Spirits法律事務所)も被調査人として懲戒請求がなされているが、懲戒請求の理由その他の書面において、被調査人弁護士法人ワンピース法律事務所に対する懲戒事由については記載がない。仮に被調 査人杉山の行為をもって被調査人弁護士法人ワンピース法律事務所の行為であると理解したとしても、前記のとおり、被調査人杉山の行為について非行があったとは認められないから、被調査人弁護士法人ワンピース法律事務所につい ても非行があったとは認められない。
よって、主文のとおり議決する。
令和3年12月17日 東京弁護士会綱紀委員会第4部会 部会長 (記載省略)
証拠目録
甲1 第1書証
1 懲戒請求者提出
1 「A社」との記載があるサイト画面
甲2 「2020/8/8 朝日新聞– 日本ファクタリング業協会」から始まるサイト画面、その他朝日新聞記事(2020年3月25日)、同 サイト画面(2020年2月6日)
「A社の給料ファクタリング」との記載があるサイト画面 甲4 「給与ファクタリング ヤミ金」との記載があるサイト画面 日本經濟新聞記記事
「督促状」 振込み履歴の記載があるサイト画面(携帯電話) 2 被調査人ら提出 乙1 「支払い督促について」(令和2年11月2日)
ニュース金融庁における法解釈に係る照会(令和2年2月28日) 1 「給与ファクタリングまとめナビ」とタイトルのある資料1から 労働安全情報センターの書面(資料6)
判決(抜粋) 給与ファクタリングマニュアル YAHOO!ニュース「“前倒”融資「ファクタリング」業者への 損害賠償」との記載があるサイト画面
3 職権 陳述書(令和2年8月27日)及び別紙1から4 第2 人証 被調查人杉山A社
偽装ファクタリング業者を提訴 弁護団が会見/埼玉県 日弁連の注意喚起がありながらファクタリング会社の顧問弁護士に就任、中には東弁前会長の事務所も顧問、弁護士は被害者救済の前に加害者支援をやめる事