国際ロマンス詐欺の被害者が、被害金の回収を依頼した弁護士に業務を放置される「二次被害」が相次いでいるとして、各地の弁護士会が注意を呼びかけている。弁護士事務所が「必ず回収できる」といった誇大広告を出し、高額の着手金を請求するケースが目立つという。被害に遭った男性が取材に応じ、後悔と憤りを語った。(中部支社 福益博子)
(写真:読売新聞)
「私たちの将来のため、仮想通貨で投資を始めて」
埼玉県の40歳代の自営業男性は昨年5月、ツイッター(現X)で知り合った女に、こう持ちかけられた。
女は「32歳で医療美容会社を経営する日本人」と自己紹介し、写真も送ってきた。男性は「翻訳サイトを使ったような不自然な日本語だな」と感じたが、「最近までシンガポールにいたので日本語が不自由」との説明を信じた。LINEでやりとりして数日後、プロポーズされ、投資話を切り出された。
男性は、LINEを通じて女に誘われるまま「仮想通貨の保管所」を装ったスマホアプリを登録。消費者金融や親に借金するなどして545万円を用意し、女との「共通口座」などに振り込んだ。
しかし後日、「保管所」に預金の一部引き出しを求めた際、「入金額の30%の税金が必要」と断られた。女に伝えると、「(共通口座には)私のお金もあるのに。しばらく連絡とらない」とのメッセージが届いた。初めて怪しいと感じた。
インターネットで調べ、国際ロマンス詐欺の手口だと知った。ネット広告で「ロマンス詐欺に強い」とうたう東京の弁護士事務所にLINEで相談すると、夜中にオペレーターから電話が来た。「急がないと間に合いませんよ」。せかされて、着手金や調査費、合わせて約70万円を送金した。
約1年後、振り込め詐欺被害者を対象とした国の救済制度に基づき、約40万円が戻った。ただ、被害者本人でも申請できる制度で、弁護士を頼った意味はなかった。警察に相談したものの、だまし取られた金の回収はあきらめている。弁護士事務所にも費用の返還を求めたが、ほとんど返ってはこなかった。やりとりはすべてLINEや電話で、弁護士とは一度も会わなかったという。
「弁護士だから信じて、高い依頼金を払ったのに」――。男性は、X(@tadanoneas)で経験をつづり、注意を促している。読売新聞はこの弁護士に電話やメールで取材を申し込んだが、回答はなかった。
東京や愛知など各地の弁護士会は、注意が必要な弁護士事務所の特徴をホームページで紹介している。千葉県弁護士会は8月、誇大広告で被害回復を過度に期待させたとして弁護士の実名を公表し、「懲戒処分に相当する」とした。
消費者問題に詳しい金田万作弁護士によると、約2年前から「二次被害」の相談が全国から寄せられるようになった。現在、埼玉県の男性の依頼を受けた弁護士ら約10人に対し、着手金の返還請求などを行っているという。金田弁護士は「国際ロマンス詐欺は犯人が海外にいることが多く、弁護士ができることはほとんどない。まずは警察に被害届を出してほしい」としている。
背景に業務提携持ち掛ける業者
二次被害の背景には、弁護士に「業務提携」を持ちかける業者の存在がある。
神奈川県の男性弁護士は昨夏、自称広告コンサルタント業者から「国際ロマンス詐欺の被害者対応に参入しないか」と誘われた。
提案された業務内容はこうだ。弁護士名で「LINEで無料相談を24時間受け付け」とネット広告を出す。相談はAI(人工知能)が選別し、オペレーターを経て受任できそうな場合のみ弁護士が契約交渉する。弁護士は被害者が送金した口座の調査や凍結、救済制度の適用申請などを行う。
ただ、提案は一度に200件近い依頼を受任する想定だった。男性弁護士が「受任件数を減らし、調査員も確保する必要があるが、それでは大きな収益は見込めないだろう」と指摘すると、話は立ち消えになった。
業者は実在の弁護士事務所を挙げ、「別の業者と提携して月1000万円以上売り上げている」と誘ってきたという。男性弁護士は「できもしない依頼を受け、不当に稼ぐ弁護士と業者はあちこちにいるのではないか」と話す。
◆国際ロマンス詐欺=SNSなどを通じたやりとりで恋愛感情を抱かせ、送金させる特殊詐欺の一種。コロナ禍でオンライン交流が普及したことで日本でも被害が増え、国民生活センターへの相談は2019年度の5件から21年度には192件に急増した。
引用 読売新聞https://news.yahoo.co.jp/articles/872fa6cbe85cd95ba57cadfbf2d432be01263902?page=2