【判決書・訴状】暇空茜氏対伊藤和子弁護士 令和6年2月5日判決言渡

令和5年ワ1985 12部乙
原告 暇空茜 代理人 小沢一仁弁護士
被告 伊藤和子(ミモザの森)  代理人 山下幸夫弁護士
 

被告・伊藤和子(@kazukoito_law)がツイート 令和5年1月7日9時34分                        「最近、SNSのせいでいらん仕事や揉め事が増えましたね 誹謗中傷に偽情報それが世論形成を歪めたり人を傷つけるので 本当にやらなきゃいけないプロジェクトを進める前に 膨大にそういう対応を余儀なくされる時代しかし地球も自分の命も有限なので 本質を見失わないよう、着実に実のある仕事をしたい」と投稿
小倉秀夫弁護士は令和5年1月7日10時17分上記ツイートを引用して、
「「本当にやらなきゃいけないプロジェクト」を進めたかったら、まず無駄に敵を作らないことが重要ですね。」と投稿
被告は、令和5年1月7日午後0時20分
上記を引用して
「貴殿にお返しします」と投稿
小倉秀夫弁護士が令和5年1月7日午後1時9分                                日本人異性愛男性なんてどんなに敵にまわそうがプロジェクトを成就させることができると本気でお考えならご自由に。」と投稿
伊藤和子(@kazukoito_law)が小倉ツイートを引用ツイート(令和5年1月7日午後5時13分)           「なんじゃこりゃ?なぜ属性にこだわるのですか 男性 日本人 異性愛
マイノリティはマジョリティを怒らせるな
そうじゃなければお前のプロジェクトなど妨害してやるっていう脅迫でしたら、暇某とおんなじ。とんでもない差別ですね。そういう意図がないなら発言は撤回すべきです。」
主 文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 
事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、165万円及びこれに対する令和5年1月7日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 略
 第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件投稿中の「暇某」が原告を指すものと特定できるか)について

(1)証拠(甲11、12、乙45、46)によれば、よ被告は、本件投稿の前後に、ツィッター上で、「暇空茜」のアカウント両面を明記して「暇某」と称する投稿を複数回行っていることが認められるから、本件投稿を含めた一連の投稿において、あえて「暇空茜」を明示しない趣旨で「某」の語を用い七いと認められる。また、前提事実

(2)及び証拠(甲10、乙7)によれば、「暇空茜」が本件監査請求の監査結果を公表して以降、ツィッター上で本件団体に関する投稿が急増し、本件投稿の時点でも、1日当たり10万件を超える投稿が続いていたと認められるから、本件投稿時には、一般のツイッターの閲覧者の間でも、「暇空茜」の存在を含む本件住民監査請求に関する話題が相当程度の関心を集めていたといえる。そうすると、本件投稿を閲覧した読者(閲覧者)の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿中の「暇某」は「暇空茜」を指すものと容易に特定することができるといえる。
  被告は、ツイッター上の投稿は一件ごとに同定可能性を吟味・判断すべきで’あるとか、本件投稿中「暇某」との記載は、「暇空茜」ではなく、「暇アノン」と評される人達を指すものとして使用されているなどと主張するが、関連する他の投稿を閲覧する読者も多いと考えられること(甲10~12、15、16、20、’乙45~47等参照)を踏まえると、本件投稿を閲覧する読者の普通の注意と読み方とは整合しないものであり、いずれも採用できな1,丶。       .・
(2)そして、前提事実(1)ア、証拠(甲4、13、14、16)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、「暇空茜」や「暇な空白」という名称を用いてインターネット上で活動をしているところ、原告の氏名を検索サイトに入力すると、同一の氏名の人物が「暇空茜」や「暇な空白」という名称を用いていることを指摘するウェブサイトが表示されると認められるほか、「暇な空白チャンネル」では肉声による動画配信をしていること、「暇空茜」のアカウントの住所がインターネット上で流出していることがうかがわれる。こうしたことからすると、原告を知る者が本件投稿を読めば、「暇空茜」、すなわち原告を対象、としたものと理解することが可能であったというべきであり、「暇空茜」のアカウントが令和2年12月から利用されており、6万人を超えるフォロワー(「暇空茜」の投稿を自身のツイッターアカウントのタイムラインに表示する設定をしている者)がいること(甲1)や、「暇な空白チャンネル」のチャンネル登録者数が4万人を超えること(甲3)などにも照らせば、このような原告の情報を知る読者が特定少数に限られるとは考え難い。
 (3)したがって、本件投稿を閲覧した不特定多数の読者において、「暇某」が原告を指すものと特定することができるというべきである。
 
2 争点2(本件投稿が原告の社会的評価を低下させるか)について
 (1)ツイッター上のある投稿が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意ど読み方を基準として判断すべきである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月‘20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)ところ本件投稿は、直接的には小倉弁護士の投稿に向けられたものであり、その内容が脅迫又は差別に当たり得ると論評するものであるが、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、その前提として、「暇某」すなわち原告が、マジョリティを怒らせるようなマイノリティの活動に対して妨害行為を行う人物であるとの事実摘示を含むものと理解できる。
  そこで、かかる事実の摘示及び論評が原告の社会的評価を低下させるものであるか否かを検討する必要がある。 
(2)この点、本件投稿では「妨害」行為の内容について特段明示されていないが、これが「脅迫」や「差別」に当たるとの評価と併せ読めば、一般の読者に対し、原告が違法ないし不当な妨害行為を行う人物であるとの印象を与えものと言い得る。
 他方で、本件投稿は、その形式及び内容から、小倉弁護士の投稿に対する論評としてされたものであることが明らかである上、「妨害」行為の内容も明確には記載されておらず、一般の読者が本件投稿について具体的な理解を得ることは困難である。また、本件投稿と関連する複数の投稿を併せ読むことにより、本件投稿をした被告と原告(「暇空茜」)が、特に本件団体の活動に関して異なる意見を持ち、原告(「暇空茜」)が被告をブロックするような対立関係にあることを認識できた可能性がある。
 これらの事情を踏まえれば、一般の読者の多くは、本件投稿について、被告が小倉弁護士の投稿を非難するために、原告(「暇空姉」)の名前を利用して否定的なニュアンスを強めようとしたにすぎないものと受け取ると認められ、原告に対する非難の要素が強いとは言い難い。そうすると、本件投稿によって、不法行為を構成するほどに原告の社会的評価が低下するとは認めるに足りないというべぎである。以上の点に反する原告の主張はいずれも採用できない。
(2) 従って、名誉棄損を理由とする損害賠償請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。
(3) なお、念のために検討するに、仮に、本件投稿が不法行為を構成するわどに原告の社会的評価を低下させるものであったとしても、次に述べるとおり、不法行為責任は認められない。
 すなわち、本件投稿で摘示された事実は、その当時社会の耳目を集めていた原告の活動に関するものであるから、公共の利害に関する事実といえ、本件投稿やそれに先立つ小倉弁護士の投稿の内容等を踏まえると、本件投稿の主たる目的は、公益を図る目的てあったといえる。そして、原告が、生物学的な性差から労働や知能の点で女性が男性に劣るという趣旨の投稿を行っていたところ、本件団体の代表者を否定的な意味を込めて「自称フェミニスト」なとと呼称し、女性の権利向上を志向する本件団体の活動に対しても、具体的な根拠を挙げることなく、「公金チューチュースキーム」などと批判を繰り返す中で、公金の不正受給が行われたことを理由とする本件住民監査請求を行ったという経緯に鑑みれば、被告において、本件住民監査請求を含めた本件団体に対する原告の諸活動は、社会的マイノリティである女性が行う普及啓発プロジェクトに対する妨害活動に他ならないと信じたことに相当な理由があったとえるから、故意又は過失は認められない。
 3 争点4(名誉感情侵害による不法行為の成否)について
 社会的評価の低下を伴わない侮辱的な表現については、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて人格的利益を侵害する不法行為と評価され得る(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第3小法廷判決・民集64巻3号758頁)。
 そこで検討するに、前記2で説示したとおり、本件投稿は、直接的には小倉弁護士の投稿に向けられた論評であって、具体的に被告のいかなる「妨害」行為が脅迫や差別に当たるかについては言及していない。このことに加えて、前述したとおり、原告自身、ツイッター上で生物学的な性差から労働や知能の点で女性が男性に劣るとう趣旨の投稿を行っていることからすると、間接的かつ抽象的に原告の脅迫や差別について言及する本件投稿か社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとは認められない
 したがって、本件投稿が原告の名誉感情を侵害する不法行為に当たるとはいえない。
 4 結論 
よって、その余の点を検討するまでもなく、原告の請求には理由がないから、これを棄却することとして、主文の通り判決する。
東京地方裁判所民事第12部
  裁判長裁判官 吉岡大地
      裁判官 小西 俊輔
      裁判官 池口 弘樹

● 1月28日(27日付)提訴
〇 3月13日(11日付)3行答弁
★ 3月20日口頭弁論
〇 5月1日(4月28日付)被告準備1 
〇 5月10日(9日付)訂正
★ 5月31日弁論準備
● 6月21日 原告準備1
★ 6月30日 弁論準備2
〇 8月22日 被告準備2
★ 8月30日 弁論準備3
〇 9月7日 被告準備3
★ 9月25日 弁論準備4 
★ 11月8日弁論準備5
★ 11月8日口頭弁論2
★ 令和6年2月5日判決
訴状
第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、165万円及びこれに対する令和5年1月7日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え
2 訴訟費用は被告の負担とする。
 その判決並びに仮執行宣言を求める。
 第2 請求の原因
1 当事者
(1) 原告。
 原告は、東京都に居住する個人である。原告は、ツイッター上で、「暇空茜(ひまそらあかね)」と称し、note上で「暇な空白」と称し、ユーチューブ上で「暇な空白チャンネル」を開設し、テキストや動画で情報を発信する者である(甲1~3)。
 なお、原告はインーネット上で実名を公表しているため、いわゆる匿名アカウントではない。原告の氏名でインターネット検索をすると、「暇空茜」が原告であることを指摘する記事が複数表示される(甲4)。
(2) 被告
被告は、東京弁護士会に所属する弁護士であり(登録番号:23501)、ミモザの森法律事務所の代表弁護士である(甲5)
 2 事案の概要
 本件は、被告がした別紙投稿記事目録記載のツイート(甲6。以下「本件ツイート」という。)が、原告の名誉権ないし名誉感情を違法に侵害するものとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をする事案である。
 3 被告の不法行為責任
(1) 名誉権侵害
ア 同定可能性
 本件ツイートは、「暇某」について指摘する。
原告は、「暇空茜」と称し、2022年8月以降、colaboの会計やcolabo代表者である仁藤夢乃氏(以下「仁藤氏」という。)の政治活動等に言及してきた(colaboが東京都から受託している若年被害女性等支援事業の実施主体から「政治活動を主たる目的とする団体」が除外されているからである。)。また、colaboの会計については不自然な部分があるとして、住民監査請求を行った。原告の指摘は、次第にSNSで注目されるようになった。
 2022年11月29日、colabo弁護団が行った記者会見がSNSで大きな話題を呼び、「colabo」及びこれに関連する多数のツイートがされた。
 2022年12月29日、原告は住民監査請求が認容されたことを公表した(甲7)。2023年1月4日、東京都は監査請求の結果を公表した(甲8、9)。このときも話題を呼び、「colabo」というワードは上記記者会見が行われてから年始頃まで、ほぼ連日ツイッターのトレンドに表示されていた(甲10)。
 このように、極めて注目度の高い話題につて、「暇某」と呼ばれる人物は、「暇空茜」すなわち原告しかいない。
 また、被告自身、「暇空茜」のアカウント名が表示されるページをスクリーンショットした画像を添付して、「なぜ暇某にブロックされたのか?」などと疑問を述べている(甲11)。
 以上によれば、本件ツイートの「暇某」と原告は同定可能である。
イ 公然性
 本件ツイートは公開されているので、公然性はある。
ウ 事実摘示等
(ア) 判断基準
 当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当である(最高裁判決平成16年7月15日・民第58巻5号1615頁)。
 証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張しているものと直ちに解されないときにも、当該部分の前後の文脈や、記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮し、右部分が、修辞上の誇張ないし強調を行うか、比喩的表現方法を用いるか、又は第三者からの伝聞内容の紹介や推論の形式を採用するなどによりつつ、間接ないしえん曲に前記事項を主張するものと理解されるならば、同部分は、事実を摘示するものと見るのが相当である。また、右のような間接的な言及は欠けるにせよ、当該部分の前後の文脈等の事情を総合的に考慮すると、当該部分の叙述の前提として前記事項を黙示的に主張するものと理解されるならば、同部分は、やはり、事実を摘示するものと見るのが相当である(最高裁平成9年9月9日・民集51巻8号3804号)。
(イ) 事実摘示等
前記アで述べたとおり、本件ツイートが原告についても言及していることは明らかである。しかし、原告の何について言及しているのかは、本件ツイートの文言のみらは必ずしも明確ではない。
他方で、本件ツイートがされた2023年1月7日時点において、原告がcolaboの会計の不合理さ等を追求し、住民監査請求を行った結果、監査委員がこれを認容し、都に勧告したことは周知されていた(甲7~9)。その結果、原告は多くの支持を受けることになった反面、colaboや仁藤氏は多くの批判を受けることになった。
このような、本件ツイートがされた当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮すると、本件ツイートの摘示事実は以下のとおり解釈できる。
すなわち、本件ツイートは「原告は、colaboや仁藤氏が、多数の支持を得ている原告を怒らせるようなことをするのであれば、colaboの活動を妨害すると脅迫する人物である」との事実を摘示するものである。
 そして、本件ツイートは、この摘示事実を前提に、これが「とんでもない差別」に当たるとの意見を述べるものである。
エ 社会的評価の低下
「原告を怒らせるようなことをした」という極めて主観的かつ曖昧な理由により、colabo活動を妨害すると脅迫することは、colaboや仁藤氏に対する不合理な弾圧であり、嫌がらせである。したがって、前記(イ)の摘示事実は社会的非難に値する。
 また、本件ツイートは「なぜ属性にこだわるんですか」との記載があることや文脈上多数派の属性の例として「男性」が挙げられていること、colaboが若年被害女性等支援事業の委託を受けていること、仁藤氏が女性であることからすると、「とんでもない差別」との意見は、「男性である原告が、女性を酷く差別している」との印象を与える。したがって、前記(イ)の意見は原告に対する非難を招く。 以上によれば、本件ツイートは原告の社会的評価を低下させる。
オ 小括
 よって、本件ツイートは、原告の名誉権を侵害する。
(2) 名誉感情侵害
 前記(1)ウ(イ)のとおり、本件ツイートは、「とんでもない差別」などと、原告が酷く女性差別をする人物だと指摘する。当該指摘は原告の人格を非難するものであり、原告の名誉感情を侵害する。
 また、➀ 被告は弁護士であり、人権等に関わる弁護士会の役職を歴任した経歴を持つため(甲5)、閲覧者は被告の発言を肯定的に捉える。② 本件ツイートは2023年1月16日時点で2・7万件表示されており(甲10)、多数の者に閲覧されている。➂原告はcolaboの会計の不適切さを指摘していたのであり、「女性」という属性に関する指摘をしていたのではない。④ 前記(1)ウ(イ)の摘示事実(意見の前提となる事実)は存在しない。
 以上によれば、意見の前提となる事実自体存在せず、さらにはcolaboや仁藤氏を追求する際に女性差別発言などしたこともない。しかし、原告は社会的信用性の高い立場にある被告から、「とんでもない差別」(酷い女性差別)と非難され、これが多くの閲覧者の目に触れたのである。 
 よって、本件ツイートは、原告の名誉感情を社会通念上許容される限度を超えて侵害する。
(3) 故意
 文脈上、本件ツイートは原告が「マイノリティはマジョリティを怒らせるな そうじゃなければお前のプロジェクトなど妨害してやるっていう脅迫」や「とんでもない差別」をしていることを前提にしているので、故意がある。
(4) 原告の損害及び因果関係
 本件ツイートにより、原告の名誉権ないし名誉感情は著しく侵害された。これを金銭に評価すると、150万円を下らない。また、この150万円の10%相当額は弁護士費用として原告の損害となる。
 第3 結語
 よって、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権として、165万円及びこれに対する本件ツイートをした日である令和5年1月7日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払いを求める。
                                 以上

参考

伊藤和子弁護士 東京 登録番号23501 ミモザの森法律事務所

小倉秀夫弁護士 東京 登録番号23519 東京平河法律事務所

原告代理人 小沢一仁 東京 登録番号40704 インテグラル法律事務所

被告代理人 山下幸夫 東京 登録番号21170 新宿さきがけ法律事務所

伊藤和子弁護士(23501)と小倉秀夫弁護士(23519)司法修習の同期です。同じ釜の飯を食った仲、いわば戦友です。

同期に何かあったらかけつける、同期の弁護士は一番信頼がおける仲間のはず、懲戒の代理人や事務手続き等今更聞けないことも同期なら教えてくれる。互いに信用しリスペクトするものと思っておりました、岡口基一裁判官もこの二人の同期です。

伊藤和子先生はSNS上で小倉秀夫先生と論争するのはけっこうですが、小倉秀夫先生を弁護士として同期としてリスペクトはすべきではないでしょうか