令和5年度(綱) 第56号
対象弁護士 (札幌弁護士会所属弁護士)
齋藤耕弁護士 登録番号31639 札幌市中央区南1条西12丁目4-188ドエルラクーン大通公園 701
さいとう耕法律事務所
主 文
対象弁護士につき、 懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。
理 由
第1 懲戒請求事由の要旨
令和6年3月10日 (以下単に月日は、令和6年を意味する。)、かでる2・7 (以下 「施設」という。)にて日本会議北海道本部が主催するアイヌ問題シンポジウム(以下「当該シンポジウム」という。) が開催されるに際し、 クラックスノー スの構成員・顧問弁護士である対象弁護士は、 施設前で妨害活動を行った弁護士 である。 その際、北海道警察 (本部及び中央署) が出動するほどにひどい状況であった。
クラックスノースの悪質な構成員3名については、すでに北海道警察本部宛て に告発状を郵送し、 到着済みである。 その告発容疑は、 道路交通法違反 「道路に 関する禁止行為 (道路法第43条の2) に該当」 としている。
対象弁護士は、当該行為を止めさせないだけではなく、 警察の業務を妨害 (公務執行妨害)するなどした。
以上の対象弁護士の行為は、 弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
第2 対象弁護士の弁明の要旨
1 対象弁護士が品位を失うべき非行に該当する行為をしたという事実は否認し、 主張は争う。
懲戒請求書記載の懲戒請求を求める理由等の内容は、抽象的であり、具体的に対象弁護士のいかなる行為を問題とするのか、 不明確である。これを前提に、以下弁明する。
2 (1) 3月10日 施設で開催された当該シンポジウムの開始時刻午後1時前の午後12時30分から午後1時過ぎまで、対象弁護士が施設前の歩道にいた事実は認める。
当該シンポジウムの内容がアイヌ民族を差別する、いわゆるヘイトスピーチ に該当するとして、その実施に抗議しようとする人々(以下「当該抗議者ら」 という。)がいたが、 当該抗議者らがどのような組織に属するかどうかについて は、対象弁護士は把握しておらず、 懲戒請求者が指摘する団体(クラックスノ ース)の顧問弁護士ではない。
(2) 過去に日本会議主催のシンポジウムが実施される会場の付近で、抗議者らと シンポジウムの参会者らとの間でトラブルになったことがあったため、抗議者らの一人から、当日、 弁護士に臨場してほしいとの要望があったため、対象弁護士がこれに応じて、トラブル防止等の目的からその場に臨場した。
(3) 当日午後12時30分過ぎから当該抗議者らが集まり、総勢約20名程度であった。 当該抗議者らの多くは、事前に準備したプラスターボード(甲2、 甲 4)を掲げ、基本的に無言で立ち続けるだけであった。 当該抗議者らが立ち続 けた位置も、車道との境界辺りに立ち、通行人の妨げとならないよう配慮していた。
このとき、施設敷地内には、警察官ら4~5名がいた。 警察官らの話による と、直前に施設前でトラブルが生じているとの110番通報があったため、 出動したとのことであった。 警察官らは、過去に同様の集会を開催した際に、集会主催者側と抗議者らとでトラブルが生じたことも把握しており、トラブル防止のため、その場にいた。 警察官らは、当該抗議者らに対して、抗議行動について注意指導することは一切しなかった。
当該抗議者らが集合すると、 会場内にいた集会主催者あるいは集会参加者ら (以下「当該集会参加者ら」という。) が、 当該抗議者らに対して声を荒げて非難してきたが、当該抗議者らの多数は黙ってやり過ごすなどしていた。
このとき、当該集会参会者らの一人が当該抗議者らの一人(甲3)に寄ってきて、同人の足を蹴るという出来事があったが、 同人は口頭で抗議するだけであった。
こうした当該集会参加者らの行動に対して、 警察官らが、 当該抗議者らの傍らから引き離して注意をしたが、 当該抗議者らを注意することはなかった。
対象弁護士は、こうした現場に臨場し、 警察官らと共に、当該抗議者らと当該集会参加者らの間に入り、両者の衝突を防ぐような行動をとったが、それ以上の行動は何もしていない。
(4) 以上のようなやり取りは、当該シンポジウムが開始した午後1時過ぎまで続いたが、集会開始後は、当該集会参加者らは施設の建物内に入ったため、施設 入口付近には、当該抗議者らと警察官らだけとなり、当該抗議者らは解散し、対象弁護士もその場を離れた。
(5) 以上が、3月10日当日の事実経緯である。
なお、懲戒請求者の主張する道路交通法違反云々は、当該抗議者らが現場に 持ってきた拡声器を、 立っている当該抗議者らの横の歩道上に置いていたこと が、使用許可を取らずに道路を占有していたとするものと思われるが、短時間、 物を置いていただけであり、歩行者の歩行を困難ならしめた事情も存しないので、何らの法令に違反するものではない。事実、 現場にいた警察官らから 注意指導を受けることもなかった。
そのため、対象弁護士が現場で懲戒事由となる行為を行った事実はなく、それを裏付ける証拠も何らない。
第3 証拠
別紙証拠目録に記載のとおり。
第4 当委員会が認定した事実及び判断
1 当委員会が認定した事実
(1) 懲戒請求者は、3月10日 施設にて午後1時から開催される当該シンポジウムに入場するため、 来場した。(甲7)
(2) 当該シンポジウムの開催に際し、当該抗議者らが事前に施設前に集まり、対象弁護士も午後12時30分頃から午後1時過ぎまで施設前にいた。 また、 現場には警察官らも臨場していた。 (甲1、 甲2、 甲3)
なお、過去に日本会議主催のシンポジウムが実施される会場の付近で、抗議者らとシンポジウム参加者らとの間でトラブルになったことがあったため、 抗議者らの一人から対象弁護士に、当日、 弁護士に臨場してほしいとの要望があ り、対象弁護士はこれに応じて、トラブル防止等の目的から施設前に赴いていた。
(3) 当該抗議者らは、施設前の歩道で立ち、その一部が事前に準備したプラカー
ドを掲げるなどして抗議行為を行い、対象弁護士もその傍らに立つなどした。 また、当該抗議者らの一部が、 現場に持ってきた数台の拡声器を、 同人らの近 くの歩道上に置いたことがあった。 (甲2、 甲4、 甲6)
(4) 当該集会参加者らと当該抗議者らとの間で揉め事が起きたが、 対象弁護士が その間に入って、 当該集会参加者らの一部と向かい合うような行動をとったこ とがあった。(甲6)
当委員会の判断
(1) 懲戒請求者は、クラックスノースの構成員(当該抗議者らを指すものと解される。) が道路交通法又は道路法第43条第2号 (なお、懲戒請求者は道路法第 43条の2を挙げているが、 同条は車両の積載物の落下の予防等の措置の条文 であること、懲戒請求者は道路に関する禁止行為に該当することを問題にして いることから、同法第43条第2号を意味するものと解される。) に違反する行為をしたにもかかわらず、クラックスノースの構成員・顧問弁護士である対象弁護士が、当該行為を止めさせなかった旨を指摘する。
しかし、当該抗議者らの行為は、対象弁護士の行為ではない。 また、 対象弁護士は、当該抗議者らがどのような組織に属するかを把握しておらず、 クラックスノースの顧問弁護士ではないと弁明しているところ、 対象弁護士が施設前 で当該抗議者らの行為を制止すべき立場にあったと認定するに足りる確かな証拠はない。
なお,対象弁護士は、抗議者らの一人から要望を受けて施設前に赴いている が、これは、当該抗議者らと当該集会参加者らとの間のトラブル防止等が目的 であるから(前記1項(2))前記判断を左右する事情とはいえない。
したがって、懲戒請求者の指摘は、その前提を欠いており、当該抗議者らの 前記法令違反行為の有無を検討するまでもなく、 認めることができない。
(2) そのほかに懲戒請求者は、対象弁護士が施設前で妨害活動を行ったことや警察の業務を妨害(公務執行妨害) したことも指摘しているが、 対象弁護士が否認している上、当該妨害行為等の具体的事実の摘示やその裏付けを欠いており、 およそ認められない。
第5 結論
以上のとおり、対象弁護士に弁護士法第56条第1項に定める品位を失うべき 非行があったとは認められない。
よって、 主文のとおり議決する。
令和6年5月28日 札幌弁護士会綱紀委員会委員長 房川樹芳 印
証拠 目録
1 懲戒請求者提出分
(1) 主張書面
懲戒請求書 (3月18日付け)
(2) 証拠書類
甲1 被告発人顔写真 (A女〇〇) (実名)
甲2 被告発人顔写真 (B女〇〇) (実名)
甲3 被告発人顔写真 (C男〇〇) (実名)
甲4 拡声器を地面に置き街頭宣伝を行っている写真
甲5 告発状
甲6 北海道放送 「今日ドキッ」 放送分
甲7 「改めて問う! アイヌはなぜ先住民族にこだわるのか!?」なる書面
2 対象弁護士提出分
(1) 主張書面 弁明書 (4月11日付け)
札幌市中央区の北海道立道民活動センター「かでる2・7」で10日、日本会議北海道本部が主催して開かれたシンポジウムに対し、市民団体が「アイヌ民族へのヘイトスピーチに当たる」として抗議活動を起こした。
シンポジウムは「改めて問う! アイヌはなぜ先住民族にこだわるのか」と題し、北海道アイヌ協会が入居する建物内で開かれた。「暴走する『先住民族論』、驚愕(きょうがく)の補助金利用の実態! 気鋭のシンポジストがその闇に斬り込む」として、元道議の小野寺秀氏や札幌市議の川田匡桐氏らの登壇が案内されていた。
ヘイトスピーチに反対する市民団体「クラックノース」の呼びかけで集まった約30人はこの日、会場の建物前で「アイヌ差別は違法」などと書かれた横断幕やプラカードを掲げてシンポジウム開催に抗議した。
抗議活動に参加した女性は「アイヌ民族の先住性を否定し、過去の個人的な不正をアイヌ民族全体の問題かのように主張するのはヘイトスピーチだ。差別を可視化するために抗議のスタンディングをした」と話した。
アイヌ施策推進法は、アイヌ民族を「先住民族」と明記し、「アイヌであることを理由として、差別やその他の権利侵害をしてはならない」と規定している。
クラックノースの主張
https://note.com/northloungeradio/n/n413578259297