綱紀審査会の運用状況 2016年2月
綱紀審査会は①弁護士の所属する弁護士会で懲戒が棄却され、②日弁連で異議申し立も棄却され、③最後に懲戒の審議がされるのが綱紀審査会です。
日弁連は1年間に2回、日弁連広報誌「自由と正義」で綱紀審査会の運用状況と審査相当事案について公表します。
年間に3件から5件程度「審査相当」と議決され次に対象弁護士の所属する弁護士会懲戒委員会に懲戒に審議が付され処分が決まります。
「自由と正義」2016年2月号には3件の審査相当事案が掲載されました。
今日はその1件目(対象弁護士の氏名、所属弁護士会の記載はありません)
審査相当事案 (1)
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事案の概要
綱紀審査申出人(以下「申出人」という)の亡夫の金融機関からの借入について申出人及び申出人の父親が連帯保証をしていたところ、申出人の父が死亡し対象弁護士が申出人を含む亡夫の相続人らからその連帯保証債務の整理を受任したが申出人が自身の連帯保証債務と亡夫から相続した連帯保証債務という二重の地位を有すること、対象弁護士の受任事項の範囲が亡夫の連帯保証債務の交渉に限られ、申出人自身の連帯保証債務の交渉を含んでいないことを申出人に説明しなかったこと、委任契約書を作成しなかったこと、及び複数依頼者の利害対立説明を行わなかったことが、事件処理の報告及び協議について規定した弁護士職務基本規定第36条、委任契約書の作成義務を規定した同第30条第1項、複数の依頼者に利害の対立が生じるおそれがあるときに依頼者それぞれに対し不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない旨を規定した同第32条に違反し、弁護士として品位を失うべき非行にあたるとされた事実
2 綱紀審査会の議決の理由の要旨
申出人が対象弁護士に差し入れた委任状における受任事件の記載からは弁済交渉の対象となるのが誰の連帯債務保証債務なのか、明確でなかったことからすると、法律の素人である申出人にとって申出人固有の連帯債務保証の整理についても対象弁護士に委任したと考えても無理なく、申出人の一方的な思い込みと評価するべきでない。法律の専門家である対象弁護士としては申出人に対し申出人が金融機関に対して申出人固有の連帯保証債務と亡夫の連帯保証債務の相続分との二重の地位を有していること、及び対象弁護士の受任事項の範囲が亡夫の連帯保証債務の交渉に限られ、申出人固有の連帯保証債務の交渉を含んでいないことについて説明する義務があったものと認められる。
また本件で対象弁護士は委任契約書を作成していないが対象弁護士が申出人を含む相続人らとの間で委任契約書を作成していれば本件のような紛争を回避できた可能性は十分にあったものと認められる。
さらに本件で対象弁護士は複数依頼者の利害対立説明を行っていないが固有の連帯保証債務を負う申出人と亡夫の相続人らとの間においては、少なくとも共相反関係の状況にあったとはいえ、対象弁護士にはそのことを説明する義務があったものと認められる。対象弁護士のこれらの行為は、弁護士職務基本規定第30条第1項、第32条及び第36条に違反し弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に当たるものとみとめらる。
なお対象弁護士が連帯保証債務についての商事消滅時効の適用可能性を検討していなかったことは懲戒処分に値するほどの非行とまでは認められないものの弁護士職務基本規定第37条第2項に照らし適切では言い難い、弁護士は事件処理にあたり必要かつ可能な事実関係の調査を行うよう努めるべきであることを付言する、
(3)綱紀審査会の議決の年月日 2015年10月13日