主に弁護士の懲戒処分を公開していますが、成年後見人に就任した司法書士の処分のみ投稿します。
事務所 岡山県笠岡市十一番町6番地18
司法書士 中川達巳
上記の者に対し、次のとおり処分する。
令和5年9月28日から2か月の業務の停止に処する。
第1 事案の概要
理 由
本件は、 司法書士中川達巳 (以下「被処分者」という。)が、 成年後見人に就任していた成年被後見人A (以下「本件被後見人」という。)に係る成年後見事件 (以下「本件後見事件」という。) において、被処分者に預託された本件被後見人の金融機関口座 (以下「本件口座」という。)から、 被処分者の補助者であったB (以下「本件補助者」という。) が正当な理由なく預金を引き出して自己のために費消したとして、 岡山県司法書士会から、司法書士法第60条に基づく報告がされ た事案(以下「第1事案」という。)である。
また、その後の岡山県司法書士会による第1事案の調査の過程で、本件後見事件において被処分者に預託された本件被後見人名義の上場株式に係る配当金について、被処分者が本件被後見人の財産目録に計上していない金融機関口座に蓄え、被処分者が本件後見事件の後見人を辞任した後に、本件被後見人の親族の一人に支出していた事案(以下「第2事案」という。)が発覚した。
第2 認定事実
以下の事実が、岡山県司法書士会の調査報告書及び岡山地方法務局の調査その他の一件記録から認められる。
1 被処分者は、平成6年4月1日、司法書士となる資格を取得し、平成13年8月7日付け登録番号岡山第○号をもって司法書士の登録を受け、同日、岡山県司法書士会に入会し、司法書士の業務に従事している者であり、 これまでに懲戒処分歴はない。
2 被処分者は、平成24年10月○日、本件後見事件において、成年後見人 (以下「後見人」と いう。)に選任され、以後、 財産管理等の業務に従事していた。
3 第1事案について
(1)被処分者は、平成15年9月○日から、本件補助者を使用していた。
(2) 本件被後見人は、平成24年○月頃から、○県○市内の病院に入院しており、入院費など必要な費用の支払に当たっては、被処分者が、本件補助者に対し、被処分者に預託された 本件口座からの出金に関する指示をしていた。
しかしながら、被処分者は、平成30年1月頃以降、本件口座を適切に管理することなく、 本件補助者に対し、 同口座の通帳及びキャッシュカードを使用ごとに返却させることなく、 同口座の出入金履歴の適切な確認を怠るようになった。
(3) 本件補助者は、そのような被処分者の本件口座に関するずさんな管理状態を悪用し、平成30年7月○日から令和元年7月○日までの間、本件口座から少なくとも16回にわたり、 合計240万6,000円を、自らの個人的債務の支払に充てる目的で出金して、これを横領した。
(4)令和元年7月頃、本件補助者の上記横領行為が発覚し、被処分者は、本件補助者を解雇 して、本件補助者は同年8月○日に退職した。
また、本件補助者の妻が、同年7月○日、本件補助者の横領した金員全額を弁償して、同額を本件口座に入金した。
被処分者は、同年10月頃、本件後見事件の後見人を辞任した。
4 第2事案について
第3
(1) 本件被後見人の夫であるC(以下「本件被相続人」という。)は、被処分者が本件後見事件の後見人に就任する以前の平成24年○月○日に死亡し、本件被後見人は、本件被相続人の相続人の一人であった。
被処分者は、この事情を知った上で、本件後見事件の後見人に就任していたが、本件被相続人の相続財産 (以下、単に 「相続財産」という。)の調査を怠り、本件被後見人の財産を適切に把握・管理すべき後見人としての義務を負っていたにもかかわらず、 相続財産目録を作成せず、 その後も相続財産の適切な把握をしなかった。
(2)被処分者は、平成25年1月頃、本件被後見人の親族であるDの求めに応じ、相続財産である甲株式会社の株式1万株 (以下「甲株式」という。)を本件被後見人名義に変更し た。
そして、甲株式の配当金(以下「本件配当金」という。)について、 本件被後見人の財産である可能性があることから、被処分者としては、これを適切に把握・管理すべき後見人としての義務を負っていたにもかかわらず、Dが本件配当金を本件被後見人を含む一族 (いわゆるD家)の管理に使用すべきであると強く主張したことから、安易にその主張を受け入れ、以後、本件配当金について適切な管理・処分を行わず、Dがこれを事実上管理・使用することを放置し、その使途を一切把握しなかった。
(3)平成30年までにDが死亡し、本件配当金を管理する者がいなくなったところ、 被処分者は、同年4月○日、本件被後見人名義の金融機関口座を新たに開設し、 当該口座に本件配当金が入金されるよう手続をしたが (以下、当該口座に入金された配当金を 「プール金」 という。)、本件被後見人の財産を適切に把握・管理すべき後見人としての義務を負っていたにもかかわらず、プール金の存在について本件被後見人の財産目録に計上することなく、管轄の家庭裁判所にも本件被後見人の資産として報告しなかった。
その後、被処分者は、第1事案の発生を受け、本件後見事件の後見人を辞任したが、 プー ル金については、管轄の家庭裁判所から新たに選任された後任の後見人に報告せず、引き継がなかった。そして、令和元年12月○日、被処分者は、プール金の合計65万,000円に ついて、本件被後見人の後見開始申立書類作成に係る被処分者の報酬11万1,390円を差し引いた上で、本件被後見人の義理の妹に当たるEに送金して、これを独断で処分した
処分の量定
1 第1事案は、被処分者が、本件後見事件の後見人として、本件被後見人の財産を適切に管理すべき義務を負っていながら、これを怠ったことにより、本件補助者が、本件被後見人の財産を継続的に横領したものであり、これを許した被処分者の不適切な対応は、 司法書士法 第2条(職責)、同法第23条(会則の遵守義務) 、 岡山県司法書士会会則第79条 (品位の保持等)、同会則第90条の2(預り金の取扱い)、 同会則第98条 (会則等の遵守義務)、同会則第 101条 (補助者等の使用責任) に違反する。
2 第2事案は、被処分者が、本件後見事件の後見人として、本件被後見人の財産(同人が相 続により取得したものを含む。)を適切に把握・管理し、 また、家庭裁判所に対して適切に報告すべきであったにもかかわらず、これを怠り、本件被後見人が相続により取得した財産を適切に管理せず、株式の配当金等について独断で管理・処分したものであり、 このような 被処分者の対応は、司法書士法第2条 (職責)、 同法第23条 (会則の遵守義務)、岡山県司法 書士会会則第79条 (品位の保持等) 同会則第90条の2 (預り金の取扱い)、 同会則第98条(会 則等の遵守義務)に違反する。
3 上記1の違反行為は、司法書士及び司法書士法人に対する懲戒処分の考え方の別表番号18 「補助者の監督責任」に、上記2の違反行為は、 別表番号19 「預り金等の管理懈怠等」に該 当し、懲戒処分の量定としては、「戒告又は1年以内の業務の停止」 が相当であるとされている。
4 第1事案は、 後見人として財産管理に関する重大な責務を負っていた被処分者のずさんな管理により、補助者が多額の財産を継続的に横領することを許したものであり、被処分者の責任は極めて重く、生じた結果も重大である。
第2事案は、後見人として財産管理に関する重大な責任を負っていた被処分者の不十分かつ安易な対応により、 本件被後見人の財産が適切に把握・管理されることなく、 逸失した上、後任の後見人に引き継がれることなく他の親族に処分されたものであり、後見人として果た すべき義務に違反した被処分者の責任は極めて重く、 生じた結果も軽視できるものではな い。
5 他方、第1事案にあっては、被処分者は、本件補助者の横領行為の発覚後、速やかに家庭 裁判所に報告し、本件補助者の妻に被害全額を填補させて被害回復を図っているほか、 後見人を辞任し、 反省の態度を示している。 また、 第2事案にあっては、被処分者は、個人的利益を図ったことはなく、乙の候補者名簿からの特別消除を既に受けており、本件被後見人の 相続人を含む関係者との間でも紛議は生じていない。
6 よって、これら一切の事情を考慮し、司法書士法第47条第2号の規定により被処分者を主文のとおり処分する。
令和5年9月14日 法務大臣 小泉 龍司