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【2026年度日弁連役員】会長・副会長
2026年度会務執行方針 目次 https://www.nichibenren.or.jp/document/policies/policy_2026.html
日本弁護士連合会(日弁連)は、日本で活動する全ての弁護士が加入する団体として、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命を果たすべく、これまで様々な課題に取り組んできました。
日弁連の活動は140もの専門委員会が担い、数多くの成果を上げてきました。今後も引き続き活発な委員会活動を継続していくと同時に、その時々の社会的なニーズに即応し、一つひとつの課題に対する解決策を社会に広く提示し続けていくべきであり、このことが日本最大の人権に関する独立した非政府組織(NGO)としての信頼を更に高めるものであると考えます。
弁護士は、都市部であっても、あるいは過疎地・離島といわれる地域であっても、司法へのアクセスポイントとして、また司法インフラとして十全に機能することが求められるとともに、その地域における紛争解決の一助となるに留まらず、地域のオピニオンリーダーとして期待されているという一面も有しています。
しかし、現実は「2割司法」という言葉で語られることがあります。弁護士に対するニーズはあるにもかかわらず、弁護士と出会えるのがそのうち僅か2割の人のみという意味です。弁護士を必要とする方々がどこにいても必要なときに弁護士にアクセスできるよう、環境を整えていく必要があります。
さらに、来るべき次の時代に向け、今なお続いている男女格差を克服し、LGBTQ+についての理解を一層広めるとともに、250万人を超えるとされる外国人が国内で働いている現実を直視して、多文化共生社会の実現に向けて歩みを進めることも重要です。
近時、日本企業・日本人が国内から海外に活動の場を拡大するに伴い、殊にアジア地域においては弁護士の助力が求められる場面が増えています。
国内外のあらゆる分野において、弁護士が市民の方々や社会から頼られる存在であり続けるために、日弁連は、今後も有為な法曹人材を輩出すべく、中堅、若手の弁護士をサポートするとともに、将来を担う志望者たちに続いてもらいたいと考えています。そのためには、法曹志望者を増やしていくことも大切な課題の一つです。
残念なことに、現在の世界情勢において、武力行使による犠牲者が後を絶たない状況が続いています。日弁連は、2025年12月に被爆地・長崎市で開催した第67回人権擁護大会において「
戦争をしない、させない 長崎宣言」を採択しました。日本は唯一の戦争被爆国として、他国にはない平和を祈念する強い思いを有しています。これからも「戦争をしない、させない」という平和を求める歩みを続け、全力を尽くしていく所存です。
以上のとおり、弁護士は、広く市民、社会全体にとって頼りになる存在であることが求められています。そして、市民の方々をサポートする立場として、社会の安心・安全の一助となる役割が期待されています。
このような期待に応えていくために、今後も様々な政策課題にひたむきに取り組んでいくとともに、弁護士・弁護士会が信頼される存在であり続けるべく、不断に努力していきます。
以下、個々の活動・課題ごとに、本年度の具体的な取組の方向や方針を述べます。
個人の尊厳を確保するための国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義という憲法の基本原理、そして立憲主義の価値は普遍的なものであり、これらを護ることは引き続き最重要の課題です。緊急事態条項の創設や緊急時における国会議員の任期延長を可能とする憲法改正議論については、国民主権や権力統制等の観点からその必要性・合理性が無いことから、引き続き反対の意見を表明していきます。
安全保障をめぐっては、2025年の第67回人権擁護大会における「
戦争をしない、させない 長崎宣言」の立場を堅持し、憲法9条の下では決して許容し得ない安保三文書に基づく防衛力強化の議論について、立憲主義と恒久平和主義の観点から毅然として対応し、外交努力と国際協調に基づく平和の実現を求めていきます。さらに、社会に広がる排外的言説等が個人の尊厳や民主主義という憲法価値を脅かすことのないよう注視し、差別や偏見のない多文化共生社会の実現や国際人権法に整合する各種政策を求めて、積極的な提言や発信を行っていきます。
2023年に施行された「こども基本法」には、具体的な子どもの権利が明記されておらず、権利救済機関の設置も見送られるなど、子どもの権利保障にとって重要な課題が今なお残っています。独立した人権機関を設置するなど、子どもの権利保障のための制度を充実させる取組を進めます。
また、子どもが単独で国費・公費により弁護士による法的支援を受けることができる手続代理人制度など、制度の拡充に取り組むとともに、少年事件については国選付添人制度の対象事件を拡大し、身体拘束された全ての少年に国選付添人を選任できる制度を設けることを目指します。
男女間格差や性差別が存在し続けている現実に対し、あらゆる分野での実質的な性平等の実現や男女共同参画を進めるべく、一層積極的な活動を行っていきます。また、多様な家族の在り方や、性的指向・性自認、多文化・価値観の違いを認め合う寛容な社会の実現に向け、法制の検討などの取組を進めていきます。
婚姻した当事者の95%において女性が改姓している実情からすれば、夫婦に同姓を義務付ける現行民法は憲法13条、14条、24条に反するものであり、日弁連は選択的夫婦別姓制度の導入を提言してきました。1996年の法制審議会の答申以降およそ30年が経過し、ようやく昨年の通常国会で審議入りすることになりましたが、いまだ同制度の実現には至っていません。第75回定期総会における「
誰もが改姓するかどうかを自ら決定して婚姻できるよう、選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議」の趣旨を実現することを目的とし、同制度の実現に向けて、国会議員等への要請、パンフレット作成などの周知・広報活動、シンポジウム・院内学習会の開催等、これまで様々な取組を行ってきました。引き続き、一日も早く同制度が実現するよう力を尽くします。
高齢者・障がい者の自己決定権を尊重し、差別解消、虐待・詐欺被害の防止等の権利擁護を推進します。
また、2021年の第63回人権擁護大会における「
精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」に基づく精神保健当番弁護士制度の利用を促進するとともに、法律援助事業についても国費・公費化の実現を目指します。
成年後見制度については、本年2月、法制審議会が「民法等(成年後見等関係)の改正に関する要綱」を取りまとめました。同要綱に基づく改正法案の国会審議を注視し、国・地方公共団体、関係機関及び当事者団体・専門職団体と緊密な連携を図りつつ、本人の意思が尊重される制度の維持・実現に向けて尽力するとともに、専門職後見人の報酬の適正化や、被後見人において負担が困難な場合の報酬助成制度の拡充を求めていきます。
そして、誰もが老後を不安なく過ごせるよう、総合的かつ継続的サポートのための取組を進めていきます。
出入国在留管理庁からゼロプランが出された2025年5月以降、日本国内における外国人(外国籍者・無国籍者)に対する政策は厳しさを増しています。退去強制の対象者に対する入管施設での収容問題、極めて低い認定率と審査判断の不透明性等が問題視されている難民認定問題については、不断に注意を払っていかなければなりません。また、ヘイトスピーチや排外主義的な言動は決して許されるものではありません。昨今の社会的政治的動向にも注視しつつ、外国人の人権擁護のため一層積極的に取り組みます。
デジタル化等の社会の急速な変化を受けて、従来型の消費者法制の抜本的な見直しが必要となっており、政府においても、特定商取引法や消費者契約法の改正に向けた検討会の設置等の動きが見られます。日弁連は、これまでも多数の意見書等を公表し、特定商取引法・消費者契約法等の基本的な消費者法制や、個別分野の消費者被害の防止等に関する提言を行ってきました。引き続き、立法の動向を適時・適切に捉えて、これらの提言の実現に向けて取り組んでいきます。
近時、霊感商法等の悪質商法、宗教活動の名の下での高額献金等による経済的被害、家庭の崩壊、宗教等二世の問題等について、改めて注目が集まっています。日弁連は、これらの被害の救済・防止のための取組を続けるとともに、解散命令を受けた宗教法人の残余財産の処分や清算手続における被害者への法的支援等、立法措置を要する問題について、引き続きその必要性を訴えていきます。
特殊詐欺などを行う「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)への暴力団の関与が指摘されているところ、日弁連は、今後も警察や暴力追放運動推進センターと連携して民事介入暴力の被害の防止に努めるとともに、被害者救済のため損害賠償制度の拡充を目指します。また、暴力団を離脱した者の社会復帰についても、関係諸機関と連携して対応していきます。
本年1月13日に運用が開始された日本司法支援センター(法テラス)の犯罪被害者等支援弁護士制度について、同制度を必要とする方が利用でき、円滑な運用がなされるように対応します。また、犯罪被害者等の経済的支援を拡充するため、加害者に対して債務名義を取得した犯罪被害者等への国による損害賠償金の立替払制度や、債務名義を取得できない場合の補償制度の実現に向けた取組のほか、インターネットの普及に伴って二次被害が深刻な事態に発展している状況に配慮する取組、犯罪被害者等の支援を一元的に統括する犯罪被害者庁の創設に向けた取組を進めます。
再審法の改正について、法制審議会が法務大臣に答申をしましたが、同答申は、書面審理のみにより拙速に請求が棄却されるおそれのある請求手続、限定的にしか認められない証拠開示制度、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止(廃止)していない点などで、えん罪被害者の適正かつ迅速な救済を妨げる内容になっています。
日弁連は、国会において同答申の内容が修正される形で法改正がなされ、迅速なえん罪被害者の救済が実現できる法改正となるよう取組を進めていきます。
犯罪加害者や犯罪加害者と疑われた人の家族が社会から攻撃を受けて孤立し、経済的に困窮し、あるいは心身に不調を来し、最悪の場合には自死に追い込まれるという問題が生じています。このような問題は、海外ではあまり見られない、日本特有の現象であるともいわれています。近時のインターネットやSNSの発展もあいまって、その被害はより深刻化しており、重大な人権侵害となっています。日弁連は、犯罪加害者家族支援について2025年度にワーキンググループを設置して検討を開始しており、本年度も引き続き、犯罪加害者家族への法的支援制度の構築等に向けた検討を進めていきます。
四大公害訴訟を始めとして、これまで多くの弁護士が市民を支援し、公害被害者を救済して、市民の安全を守るべく対応してきました。その理念と活動を継続させ、騒音・大気汚染、近年のPFASによる地下水汚染、メガソーラー・大規模風力発電所建設問題など、現在も続く多様で複雑化する公害・環境問題から市民の安全を守る活動を続けていきます。また、事故後15年が経過した今もなお多くの問題を抱える福島第一原子力発電所の現状について、今こそ検証し、人権に配慮した廃炉方法、脱炭素社会の実現や再生可能エネルギーへの転換の推進など持続可能な環境の実現を目指し、日弁連としてなし得る対応や発信を検討します。
日本には、人権条約機関に直接人権侵害の救済の申立てができる個人通報制度が整備されていません。また、政府から独立して、公的機関を対象に含めた事実調査や調停・勧告等を行う、国内機構の地位に関する原則(パリ原則)にのっとった国内人権機関もありません。日弁連は、引き続きこれらの制度の導入ないし機関の設置を求めていきます。
日弁連はこれまで「生活保護法から生活保障法へ」を提唱してきましたが、いまだに実現には至っていないことから、引き続き、生活保障法への改正の実現に向けた取組を進めます。
政府は、2025年6月に最高裁で違法とされた生活保護費減額措置に代わる新たな減額措置を発表しており、現在においても生活保護費引下げ問題の全面的な解決には至っていません。日弁連は今後も、貧困の連鎖を断ち切るため、生活保障法への改正の実現、全国一律最低賃金制度の創設、ひとり親家庭への支援や子どもの教育に関する支援、高等教育就学支援に関する提言を継続していきます。
日本では依然として、長時間労働や各種ハラスメント、非正規雇用の拡大や不安定な労働環境などにより、労働者の権利が十分に保障されていない実情が指摘されています。全ての労働者の個人の尊厳と安全が護られるよう、法制度の改善と運用の強化を求めるとともに、ワークルール教育の推進等を通じて社会における権利意識の更なる向上を図り、労働者の権利が護られるような施策の実現に向けて引き続き活動します。
ビジネスと人権に関する指導原則にのっとり、企業が利害関係者の人権を尊重する具体的取組を実行することは、社会からの信用の維持・獲得や企業価値の維持・向上につながり、企業側にも大きなメリットをもたらします。そのような理念を実現するために、弁護士が中核的役割を担う施策にも取り組み、ビジネスと人権に関する指導原理に基づいた社会の実現を目指します。また、日弁連は、政府が改定した「ビジネスと人権」に関する行動計画(National Action Plan)について、2025年3月18日付けの
意見書で救済へのアクセスを中心に問題点を指摘しましたが、この点についても引き続き注視していきます。
SNS等を通じた特殊詐欺・闇バイト等の犯罪行為や誹謗中傷による名誉毀損、個人情報の不正取得・不適正利用など、インターネット上の情報流通を契機とする被害が深刻化しています。さらに、データの越境移転や漏洩リスク、生成AIの利用拡大に伴う新たな人権侵害なども市民の生活を脅かしています。これらに対処するため、表現の自由や知る権利を不当に制約することがない形で情報流通プラットフォーム対処法の適正な運用を求め、違法・有害情報への効果的な対策を通じて、被害者が迅速に救済されることを目指します。
他方で、現在個人情報保護法の見直しが進められていますが、なお十分とはいえません。個人の権利保護と、データの利活用による社会の発展とを両立させる観点から、賠償責任の充実等の検討を含め、個人情報保護法の更なる改正と個人情報保護委員会の運用改善等の施策を提案していきます。
現在、スパイ防止法として制定の動きのあるインテリジェンス機関強化法制及び外国代理人登録制度に関しては、インテリジェンス機関に対し独立した第三者機関による監視を強化するほか、いずれの制度についても人権侵害の可能性や制度の必要性等についての検討を含め、慎重な議論が行われるよう注視していきます。
日弁連は、三次にわたる行動計画を策定し、司法過疎・弁護士偏在問題に取り組み、地方裁判所・家庭裁判所支部管内に弁護士がゼロまたは1人しかいない、いわゆる「ゼロ・ワン地域」の解消を目指してきました。その結果、本年3月1日現在、ゼロ地域は解消し、ワン地域も1か所となりました。もっとも、女性弁護士がゼロの地域は依然として存在しており、支部単位では全国に約60か所あります。女性弁護士に負担がかからないよう留意しつつ、女性弁護士の偏在対策に引き続き取り組んでいきます。
他方、近年では、大都市圏に新規登録者が集中し、弁護士会によっては新規登録者がゼロまたは1人しかいない、「新ゼロ・ワン問題」と呼ばれる問題も生じています。司法過疎地域の司法アクセス確保等の役割を担う日弁連のひまわり基金法律事務所の弁護士、法テラスの司法過疎地域事務所のスタッフ弁護士が各地で活躍していますが、これら事務所の担い手確保が課題となっており、解決のための方策を早急に検討し、実行していく必要があります。司法過疎地に赴く弁護士の育成、地方と新人弁護士のマッチング、司法過疎地での開業に対する経済的な支援、司法過疎地への登録換えを検討する会員への支援等、司法過疎、弁護士偏在の解消に全力で取り組みます。
昨今の法科大学院の制度改革、就職状況の改善、日弁連・関係諸機関による取組等の成果によって、法曹志望者の数は回復傾向にあり、司法試験合格者の女性割合は3割を超えました。有為で多様な人材が法曹を目指し、社会のあらゆる分野で活躍できるよう、日弁連として法曹志望者増加の取組を一層強化していきます。
また、「新ゼロ・ワン問題」への対応として、地方弁護士会での短期就業体験(エクスターンシップ)や法科大学院生と地方弁護士会の交流会等の施策を通じ、地方で弁護士となる魅力を法科大学院生等に伝えるなどの取組を更に広げていきます。
市民の司法アクセスを向上させるためには、裁判所の司法インフラの整備が欠かせません。各地の裁判所支部についても、地域の実情に応じた大規模支部の本庁化、多様化する紛争への対応、裁判官の常駐化、填補回数の増加、裁判所内の通信環境の整備など、デジタル化を踏まえつつ、新たな人的・物的司法インフラの充実を求めていきます。
成年後見事件や相続事件の増加、離婚における共同親権を含む子をめぐる紛争の複雑化等により、家庭裁判所の役割が重要性を増しています。しかしながら、家庭裁判所は、裁判官、家庭裁判所調査官等の配置が不十分であり、事件数に見合った調停室の確保もできていないという実情があります。家庭裁判所における司法手続を充実したものとし、市民の権利が実質的に保障されるよう、家事調停官の配置庁拡大を推進するなど、家庭裁判所の人的・物的基盤の拡充に向けて働きかけていきます。
裁判手続のデジタル化が進み、本年5月21日には、民事訴訟を中心に訴状等のオンライン提出やシステム送達も可能となり、訴訟記録は原則として電子化されます。また、家事手続、倒産手続、民事執行・民事保全手続等のデジタル化も進められています。このような新しい裁判システムが市民や弁護士にとって利用しやすいものとなり、利用する者の手続保障が十分に図られるよう、各弁護士が新システムに習熟するとともに、新システム稼働後もより良いシステムとなるよう意見を述べていく必要があります。あわせて、デジタル化に取り残される市民がないように、日弁連として必要な支援を提供していきます。
2025年5月、いわゆる刑事デジタル法が成立し、今年度中(2027年3月まで)に全面施行されることになりました。書類の電子化やオンラインでの証拠開示、保釈請求・準抗告申立て等のオンライン化など、弁護人も刑事手続のデジタル化に対応する必要がありますが、システムの開発終了から実際の法施行までの期間は短くなることが見込まれます。日弁連は、最高裁・法務省とも連携しつつ、弁護士会及び会員への情報提供や習熟のサポートを行い、制度の円滑な開始に万全を期すよう努めます。
オンライン接見の制度化は刑事デジタル法には盛り込まれなかったものの、国会審議の段階で法案の修正が行われ、オンラインによる外部交通を可能とするための「運用上の措置」につき必要な取組を推進していく旨の規定が附則に追加されたほか、附帯決議ではオンライン接見の法制化の必要性につき検討することとされました。実務上の運用を着実に積み重ねることで、将来的なオンライン接見の実現につなげていくことが重要です。
このほか、身体拘束されている被告人は、手続の当事者であるにもかかわらず電子化された証拠をそのまま見ることができないなど、刑事デジタル法にはデジタル化が片面的で不徹底な部分があります。今後、このような残された問題の速やかな解消に向けた活動を強化していく必要があります。
現在の民事法律扶助制度について、立替・償還制を改め、原則給付制を採用し、応能負担など利用者負担の軽減を図って制度利用の障壁をなくすよう取り組んでいきます。同時に、弁護士報酬の基準(立替基準)がそもそも業務量や労力に見合っておらず(特に離婚関連事件)、さらに昨今の物価高や人件費の高騰も加わる状況下において、弁護士報酬の適正化を図る必要があります。また、紛争が激烈化し得る離婚・男女問題における業務妨害から弁護士の安全を確保するため、共同受任の問題への取組も必要です。担い手の確保を含めて持続可能な制度となることを目指し、法務省に設置され本年3月に議論が開始された法テラスに関する有識者検討会において、議論が深まることを期待します。
そのほか、現在の制度の下でも関連事件減額や困難案件加算など、弁護士の活動内容に見合う適正な報酬決定がなされるための運用の改善や手続の簡素化についても取組を進めます。
民事法律扶助の対象にはならないものの、特に弁護士による支援の必要性が高い対象者については、日弁連の法律援助事業により法的支援を行っていますが、本来であれば国費・公費で支援がなされるべきです。犯罪被害者法律援助の一部について国費化が実現しましたが、それ以外の法律援助事業についても国費・公費化の実現に向けた取組を進めます。
司法アクセス改善のためには、弁護士費用保険制度の拡充が必要です。日弁連は保険会社と協力し、弁護士費用等が保険金として支払われる弁護士費用保険制度を2000年に発足させました。同制度に基づく保険取扱件数は年間4万5千件程度で推移しており、本年2月時点での協定保険会社等は22社となっています。弁護士費用保険制度の更なる拡充を目指すとともに、担い手となる弁護士と適正な弁護士報酬の確保にも努めます。
阪神・淡路大震災や東日本大震災の発生以降も多くの地震や豪雨等の災害が頻発しており、深刻な被害が生じています。特に2024年1月1日に発生した能登半島地震と、それに追い打ちをかけるように同年9月に同地域で発生した記録的な豪雨被害は記憶に新しいところです。
被災者はその生命・財産を脅かされ、生存権、財産権等の基本的人権が揺るがされているといっても過言ではありません。いつ発生するともわからない災害に対応するため、平時からの研修等による研鑽を通じた弁護士の災害対応力の強化、さらには防災・減災への対応にも取り組んでいきます。また、発災時に備えて、各地の弁護士会が円滑に被災者支援をなし得るよう、各地の弁護士会と日弁連の協力体制をより強化していくとともに、全国の自治体と弁護士会との間での災害復興支援に関する協定の締結等を進め、行政との連携を強化していきます。
民事裁判手続のデジタル化の普及を踏まえ、より利用しやすく頼りがいのある民事司法制度を実現するために、今後はより実質的な改革に向けた取組が重要となります。とりわけ民事訴訟を適正かつ実効的なものとするためには、日弁連が提案している情報・証拠収集制度の拡充のための民事訴訟法の改正(当事者照会制度の実効化、文書提出命令制度の拡充、情報・証拠の早期開示命令制度の新設、秘密保持命令制度の拡充、依頼者・弁護士間の通信秘密保護制度等)を早期に実現することが重要です。これまでもその具体的制度設計の検討を求めてきましたが、今後も更にその取組を進めていきます。
損害賠償制度について、日弁連は2022年9月、被害救済の充実・違法行為の抑止を目的として、裁判所が、加害者が違法行為で得た収益の金額を考慮して、補填賠償を超える損害賠償額を定めることができるものとする「
違法収益移転制度の創設を求める立法提言」及び裁判所が一切の事情を考慮して慰謝料を算定するものとする「
慰謝料額算定の適正化を求める立法提言」の2つの立法提言を公表しています。これらの提言を速やかに実現するべく、取組を続けていきます。
ADR(裁判外紛争解決手続)は、合意による柔軟な解決、簡易・迅速な解決を実現し得る手続であり、裁判手続と並ぶ重要な紛争解決手段となるものです。ADRを金融、医療、災害、家事など多様な分野において展開していくことが望まれます。各種業界団体が主宰するADRに弁護士が積極的に関与するとともに、弁護士会が主宰するADRをより信頼性の高いものとして活発に展開していく必要があります。
ODRは、これらのADRをオンラインで実施するものであり、一部の弁護士会において導入されています。ODRは、利用者の利便性向上の観点から注目すべき手続であり、地域に応じた紛争解決の重要性を踏まえつつ、ODRの在り方を検討していきます。
えん罪の発生や刑事手続における人権侵害を防止するため、在宅の被疑者や参考人の取調べを含めた全ての事件における取調べの全過程の録音・録画を義務付け、供述しない意思を明らかにした被疑者の留め置きを規制し、取調べに弁護人を立ち会わせる権利を確立する必要があります。また、保釈の運用の適正化等、「人質司法」の打破に向けた取組も重要です。
さらに、身体を拘束された被疑者が常に弁護人から必要な援助を受けることができるよう、被疑者国選制度の逮捕段階までの拡大の実現とともに、国選弁護制度を持続可能な形で維持していくための条件整備の一環として、国選弁護人の活動量や貨幣価値の変動等を適切に反映した適正な額の国選弁護報酬の実現を引き続き求めていきます。
導入から15年以上が経過した裁判員制度は、社会に定着する一方で、公判前整理手続の長期化や、裁判員選任手続における辞退率の上昇等の問題も顕在化してきています。日弁連は、迅速な争点・証拠の整理を実現するため全面的な証拠開示制度の実現を求めるとともに、裁判員休暇制度の制度化等、市民が裁判員裁判に参加しやすくなるための制度の導入を目指します。また、市民の価値観を刑事裁判により反映させるため、公訴事実等に争いがある事件で被告人が裁判員裁判を請求した場合も裁判員裁判の対象事件とするよう、対象範囲の拡大に向けた取組も進めます。
2023年に創設された罪に問われた障がい者等の刑事弁護等の費用に関する制度は順調に利用件数・金額が伸びており、弁護人と福祉専門職等との連携が広がりつつあると考えられます。作成された更生支援計画書は刑事施設や保護観察所でも活用されています。今後、更生支援のための取組を更に広げていくとともに、公費化に向けた活動も展開していきます。
日弁連は、2016年の第59回人権擁護大会において「
死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、国に対し死刑制度の廃止と刑罰制度全体の見直しを求め、これまでシンポジウムを開催するなど、死刑廃止に向けた活動を継続してきました。
2024年に設置された「日本の死刑制度について考える懇話会」は、国会及び内閣の下に死刑制度の検討を行う公的な会議体を設置するよう提言しました。この会議体の設置を実現することが喫緊の課題であり、日弁連としても国会議員への要請活動等を行っていきます。
また、犯罪被害者庁の設置や犯罪被害者支援制度の拡充、死刑廃止に伴う代替刑の導入についても働きかけつつ、死刑廃止に向けた活動を進展させます。
これまで、ひまわりほっとダイヤルの設置等により、中小企業庁や関連団体と連携して中小企業の弁護士へのアクセス障害の解消に努め、創業・スタートアップ支援、事業承継・再生等の分野別の法的支援活動に取り組んできました。今後もこうした活動を推進し、日弁連として地域経済の基盤を支えていきます。さらに、第三者委員会に関する日弁連ガイドライン等、大企業を含むあらゆる規模の企業のコンプライアンス、ガバナンス及び知的財産戦略を支える制度・仕組みの整備を進め、公正で持続可能な企業活動を後押ししていきます。
任期付公務員や政策担当秘書等の人材輩出、弁護士による包括外部監査人・監査委員への就任等の普及、行政における弁護士の活用の推進等に関する取組を継続し、加えて地方自治体における条例制定支援や自治体職員向けの法務研修、行政との連携強化を通じて、弁護士が行政・立法分野で一層活躍できる環境の整備に努めます。
今日、大企業のみならず中小企業・小規模企業においても海外展開や越境取引が活発化しており、国内業務を中心に取り扱う弁護士であってもこうした活動への法的助言が求められています。これまで行ってきた中小企業国際業務支援弁護士紹介制度の運営、日弁連海外ロースクール推薦留学制度等による人材育成、各種国際交流活動等を継続するとともに、法的ニーズが急増するアジア地域等にも注目しつつ、国内外における国際業務の更なる推進を図ります。また、国際仲裁・国際調停分野についても、政府や関連機関と連携しながら引き続き強化していきます。
弁護士業務への妨害は、暴行脅迫、面談強要、多数回・長時間の電話、濫用的懲戒申立等のほか、近時はインターネットの普及によりSNS等での誹謗中傷や侮辱的発言にも及び、深刻化・多様化・巧妙化しています。弁護士に対する業務妨害は、単に弁護士個人の業務や活動を妨害するものにとどまらず、依頼者である市民への攻撃ともいえます。各弁護士会の弁護士業務妨害対策委員会等にも積極的に働きかけながら、弁護士が十分に役割を果たせる環境を整えます。
生成AIを始めとする技術革新は目まぐるしく、訴訟活動を含む法曹実務に大きな影響を及ぼす可能性があり、また、弁護士の業務がAIに代替されるとの懸念も指摘されています。
引き続き、弁護士の研修機会を充実させるとともに、弁護士会による適切な問題提起を行い、AI等を活用すべき場面と弁護士自身が行うべき事柄を明確にし、弁護士が社会や市民に提供できる価値を一層わかりやすく提案していきます。
近時、インターネット広告等によって、いわゆる国際ロマンス詐欺事件や債務整理事件等の委任を誘引し、適切な事件処理が不可能となるほどに大量の事件を受任しようとする一部の法律事務所が不適切な事件処理を行っている問題事例が報告されています。また、依頼者からの預り金横領事案など、弁護士による不祥事事案を防止する必要もあります。これまで規程など関連規定の改正を行ってきましたが、今後も実施状況を注視しながら、必要に応じて見直しを検討していきます。
他方で、弁護士がマネー・ローンダリングに巻き込まれることを防ぐため、当連合会及び各弁護士会において引き続き取組を進めるとともに、FATF(金融活動作業部会)対応において弁護士の独立性が害されることのないよう十分に注意して取組を進めます。
非弁業者による違法な法律事務の取扱いに対しては、各弁護士会との情報共有や共同対応等を強化し、積極的な是正措置を講じるとともに、会員への周知を徹底し、市民への被害発生の未然防止と救済に取り組みます。
業際問題では、家庭裁判所における手続代理権獲得を目指す他士業の動きなどを踏まえ、資格制度に基づく職域の限界を逸脱する立法・制度改正には反対する姿勢を明確にし、市民の権利を守る観点から、弁護士による専門的関与の必要性を対外的にも強く主張していきます。
日弁連は、5年ごとに男女共同参画推進基本計画を策定し、2024年2月には「
ダイバーシティ&インクルージョン推進宣言」を行うなど、政策決定過程における共同参画の実現に取り組んできました。D&Iを実効的に進める上で不可欠なエクイティ(公正性)の視点を含めた「DEI」の理念を組織運営の基盤に据えて、ジェンダーギャップの解消にとどまらず、LGBTQ+、障がい者、民族・国籍・宗教等、多様な背景を有する構成員が参画しやすい環境を整備し、それにより多様で開かれた専門職団体としての信頼性を一層高めることに努めます。
会員による登録事項変更届出等の手続をオンラインで可能とする「JFBA申請システム」が2025年9月1日から稼働し、現在、紙媒体を上回る申請数があるなど順調に利用されています。安定的に稼働するよう引き続き注視するとともに、利用拡大に向けて適宜改修・改善に取り組みます。また、同システムの稼働に伴って日弁連と弁護士会の情報共有の拡充が進みましたが、情報共有の更なる進展や弁護士会業務のIT化等に関する支援の必要性について、弁護士会・会員のニーズを踏まえて検討していきます。
弁護士や弁護士会の活動拡大に伴い、弁護士会の事務負担が増大している中、各弁護士会に対する現状の財政的な補助に加え、それぞれの実情に合わせた細やかな支援を検討します。また、各弁護士会に共通する事務の効率化に資する方策等についても検討します。
日弁連のイメージビジュアルを2025年7月に刷新し、新たなメインコピー及びステートメントによる市民向け広報を行っており、今年度も更に内容・手法を充実させて展開していきます。また、日弁連が取り組む政策課題に関する意見発信やその活動内容、弁護士の業務等についても効果的に発信し、弁護士、弁護士会が一層の社会的信頼を得られるよう努めます。
会員向けの広報としては、引き続き、日弁連の活動におけるトピックスや法制度の改正等の情報を適時に発信していきます。
これからの司法を担う若手弁護士が夢と誇りを持って挑戦できる環境を整えることは大変重要です。勤務弁護士の就業環境の調査や情報収集や、経営者弁護士に対する啓発・研修を通じて新人弁護士の就業環境改善に向けた取組を行うとともに、若手弁護士の業務開拓や独立開業のため、研修やOJTの機会を一層充実させます。また、多様な連携や人脈形成のための交流の場を広げ、若手弁護士サポートセンターの活動を強化しながら、各業界のニーズや弁護士による先進的取組事例を共有していきます。加えて、いわゆる谷間世代(司法修習新65期から70期)を含む若手・中堅弁護士が様々な社会的活動に積極的に従事・挑戦できるよう、若手チャレンジ基金の制度を充実させます。
谷間世代の救済に関しては、谷間世代を中心とする若手・中堅弁護士の公益的活動、スタートアップ・事業承継・国際業務等の中小企業支援等の業務及び研修学習を支援するために、国から交付金を得て基金を創設し、支援金を支給する制度を検討しています。いわゆる「骨太の方針2025」の記載を踏まえ、制度の実現を目指して取組を進めます。
近年、組織内弁護士が全弁護士人口に占める割合は着実に増加しています。また、法律事務所の大規模化が進み、新人弁護士の採用規模も年々増大しています。こうした変化を踏まえ、組織内弁護士や大規模事務所の弁護士が直面する実務上・組織上の問題点や実情を知り、そのニーズを丁寧に把握するとともに、その知見を弁護士会活動にも生かしてもらえるよう、弁護士会活動への一層の参加を呼びかけることで、多様なキャリアを有する弁護士が参画する弁護士会運営を推進し、組織の活性化に繋げていきます。
以上のとおり、今年度中に日弁連が取り組むべき主な課題とその対応方針について項目ごとに述べました。
日弁連は、一人ひとりの弁護士が社会における司法インフラの一端として存分に力が発揮できるよう最大限のサポートをしていくとともに、日本最大の人権NGO・法律家団体として、人権侵害問題や法制度に対して適時・適確に意見を述べ、司法制度の改善・発展に尽力するという責務があります。
この責務を果たすべく、今年度の日弁連執行部は一丸となって、山積する課題に正面から取り組んでいく覚悟を持ち、会務を執り行ってまいります。
とある歴史上の人物が、「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし」との言葉を遺しています。
それぞれが活動する日本の各地域においても、海外においても、あるいは各分野においても、私たち弁護士は夢を持ち、夢を語る存在でありたいと思っています。
弁護士がそれぞれの地域で頼られ、その地域に貢献することができ、ひいては社会全体から頼りにされる存在となっていくこと、そして、その姿を目にした次世代の法曹志望者が増えていくことを心から願ってやみません。
皆様のご理解とご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
はじめに