令和8年7月30日判決言渡 口頭弁論終結日令和8年6月11日 東京高等裁判所

事件番号 〇〇 

判 決 

控訴人 〇〇 

同訴訟代理人  杉山程彦 (神奈川県弁護士会) 

被控訴人 〇〇 (以下A)

被控訴人 〇〇 (以下B)

主 文 

1 原判決をつぎのとおり変更する 

2 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して5万5000円及びこれに対する令和6年10月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 

3 控訴人その余の請求を棄却する。

4 訴訟費用は第1、2審を通じこれを60分し、その1を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨 

1 原判決を取消す。

2 被控訴人らは、控訴人に対し連帯して330万円及びこれに対する令和6年9月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要(略語は、新たに定めるほかは、原判決に従う

1 控訴人と被控訴人Bあは夫婦であったが、両名の間の娘(本件未成年者)の親権を控訴人と定めて離婚をし、離婚後は、本件未成年者を交替で監護していた。本件は、控訴人が弁護士である被控訴人Aからの教唆により、被控訴人Bは、本件未成年者を永続的に監護することを企画して、今後本件未成年者を控訴人に引き渡すつもりがないのにそのように装って、交替監護の開始時に本件未成年者の引渡しを受け、そうでないとしても、交替監護中に今後本件未成年者を控訴人に引き渡さないと意思を持つようになり、その後に本件未成年者の引渡しを拒否し、被控訴人Aも被控訴人Bの行為を容認して幇助したことにより、控訴人の親権者としての監護権が妨害されたと主張して、共同不法行為に基づき、被控訴人らに対し、慰謝料及び弁護士費用の合計330万円並びにこれに対する上記の不法行為があった日の後の日である令和6年9月24日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である 

2 前提事実、争点及びこれについての当事者の主張は、以下のとおり原判決を補正し、後記3のとおり当審における控訴人の追加的主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)原判決2頁6行目の「面会交流」から同7行目末尾までを「監護については、特段の取り決めはなかったものの、控訴人及び被控訴人Bが、事実上交替で行っていた(甲1、63,64、66及び弁論の全趣旨)。」と改める。

(2)原判決3頁1行目から同2行目にかけての「原告に帰す意図がなかったにもかかわらず、これがあるかのように装って」を「今後本件未成年者を控訴人に引き渡すつもりがないのに、その意図を隠して」と改める。

(3)原判決3頁9行目から同10行目にかけての「面会交流の終了予定日になっても本件未成年者を控訴人に引き渡さないよう」と改める。

3 当審における控訴人の追加的主張 

(1)被控訴人Bは、令和6年9月23日の時点で本件未成年者を永続的に監護することを企画していなかったとしても、遅くとも同月25日までには、本件未成年者を控訴人に引き渡さないとの意思を持つようになり、同月27日以降に、控訴人に対し、本件未成年者の引渡しを拒否した。

(2)被控訴人Aは、上記(1)のとおり遅くとも令和6年9月25日までに本件未成年者を控訴人に引き渡さないとの意思を持つに至った被控訴人Bに対し、本件未成年者を引き渡さないことについての法的リスクを適切に説明せず、本件未成年者を引き渡さないことについての法的リスクを適切に説明せず、被控訴人Bの上記の不法行為を容認しこれを幇助した。
第3 当裁判所の判断 

1 当裁判所は、原判決と異なり、控訴人の請求は5万5000円及びこれに対する令和6年10月1日から支払済みまで年3%の遅延損害金の支払を求める限度で理由があると判断する。その理由は以下のとおりである。

2 認定事実 

当審における控訴人の追加的主張を踏まえ、以下のとおり原判決を補正する。ほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから。これを引用する。

(1)原判決3頁25行目の「代理を委任し、」を「代理を委任した。その後、被控訴人Bは同月27日、警察を訪ね、担当者に対し、控訴人から3週間ほど前に本件未成年者を連れて大阪に転居すると言われ、昨日も、大阪に住民票を移し、本件未成年者を大阪の保育園に入れると言われたが、どうしたらよいかまどと相談した。また、被控訴人Bは、上記同日、控訴人と今後の事を協議し、大阪に行かずに本件未成年者を手元で育てさせてほしい」などと懇願した。被控訴人Aは被控訴人Bからの委任に基づき、」と改める。(2)原判決4頁26行目の「甲41」の次に「、61、62、65」を加える。

(3)原判決4頁9行目の「被控訴人Bは」の次に「控訴人から本件未成年者と〇〇まで外出したいと要望されたことから、」を加える。

(4)原判決4頁20行目の「警察や児童相談所への相談への相談のほか」から同21行目から同22行目にかけての「上申する等の提案をするメッセージ」までを「本件未成年者を引き渡さないことは違法なのか、控訴人の行動は虐待であるからこれは保護だと思うとの被控訴人Bのメッセージに対して、まずは警察に相談ができないか、もうちょっと安定してからのほうがいいかもしれない、児童相談所に話しておくのも考えられるななどというメッセージを返信し、また、本件未成年者を引き渡したくないと述べる被控訴人Bのメッセージに対して、もう少し監護の実績を作る必要があるが、(被控訴人Bの気持ちは)わかっているので闘いましょうなどというメッセージ」と改める。

(5)原判決5頁4行目の「相談をした(甲65、148)。」を「相談をした。これに対し、警察の担当者から警察又は児童相談所が本件未成年者を保護する可能性があることを示唆され、被控訴人Bは、被控訴人Aと連絡をとる保護を断った。(甲65,148)」と改める。

(6)原判決5頁5行目の「午後12時3分頃」を「午後0時3分頃」と、同11行目の「原告による」から同12行目の「拒否した」までを「また、この後、児童相談所の担当者と会う予定であると述べた」とそれぞれ改める。

(7)原判決5頁14行目「SNS」を「メッセージ」と、同15行目の「面会交流終了の予定」を「監護が終了する予定の」とそれぞれ改める。

(8)原判決5頁22行目から同23行目にかけての「説明した(甲13、52)。」を説明したほか本件未成年者の状態が悪く、直ちに引き渡すと問題が生じると考えて、別件事件を申立てているので、本件は連れ去りには当たらないと考えている旨述べた(甲13、52。)被控訴人Bは同日午後1時頃、控訴人に対し本件未成年者を引き渡した(前提事実)。」と改める。

3 不法行為責任の成否について

(1)控訴人は、被控訴人Bは、別件事件の申立書が作成された令和6年9月21日までに被控訴人Aから教唆されて、今後本件未成年者を控訴人に引き渡すつもりがないのに、同月23日、その意図を隠して控訴人から本件未成年者の引渡しを受けたから、不法行為が成立する旨主張する。

しかし、被控訴人Bが別件事件を申し立てることにより本件未成年者の監護権を含む親権を取得し、本件未成年者の引渡しを受けることを望んでいたからといって、今後本件未成年者を控訴人に引き渡さないとの意思まで持つに至っていたものと直ちに推認することはできない。

また、被控訴人Bは、同日夕方にも、本件未成年者と外出したいという控訴人の要望に応じ本件未成年者を一時的に控訴人に引き渡している(補正後認定事実31)が被控訴人Bが同月21日以降に本件未成年者を控訴人に引き渡さないとの意思を持っていたのであれば、上記のような対応をすることは考え難い。むしろ、同月24日の被控訴人らによるSNSにおけるメッセージのやり取りの内容(補正後認定事実4)からすれば、被控訴人Bは上記の一時的な外出の後、控訴人が本件未成年者を引き渡した時刻が深夜に近い時間帯であったことがきっかけで、もうこれ以上控訴人に本件未成年者を控訴人に引き渡したくないとの意向を伝え、被控訴人Aも、被控訴人Bが上記の意向を持つに至ったことをその時点で初めて認識し、それに対応していることがうかがわれる。

以上からすると、被控訴人Bが同月23日に、今後本件未成年者を控訴人に引き渡すつもりがないのに、そのことを隠して本件未成年者の引渡しを受けたとは認められないし、被控訴人Aが被控訴人Bにそのような行動を教唆したとも認められない。したがって、この点に関する控訴人の主張を採用することはできない。
(2)もっとも、上記に説示したとおり、被控訴人Bは令和6年9月24日の時点で、今後、本件未成年者を控訴人に引き渡さないととの意思を持つに至り、同月25日以降、本件未成年者との面会を求めた控訴人に対し、就寝中であるなどとして本件未成年者と会わせず、同月27日午後0時頃には、控訴人が外出のために本件未成年者の引渡しを求めたのに対しこれを拒否したことが認められる(補正後認定事実(5)及び(6)。

これに対し、同日午後1時頃には警察に通報していることからすると、控訴人は同日には監護権を侵害されたと明確に認識するに至ったものというべきである。

したがって、被控訴人Bの上記の一連の行動のうち、上記同日に本件未成年者の引渡しを拒み、同日以降も本件未成年者の監護を継続したことは、控訴人の親権者としての監護権を侵害するものとして、不法行為に当たるものというべきである。

(3)そして、既に別件事件が申し立てられていることによって被控訴人Bによる監護が正当化されるものではないことは明らかである。また令和6年9月5日に控訴人あら本件未成年者の引渡しを受けた際にその額に痣があったと被控訴人Bが警察に延べていたことや、同月23日の外出からの帰宅時刻が遅くなったことを踏まえても、控訴人による監護が、これを継続することを容認できない程度に劣悪なものであったとは認められないから、被控訴人Bが控訴人に代わって本件未成年者を緊急に保護しなければならなかったともいえない。さらに、被控訴人らは、同月26日に警察から、警察又は児童相談所が本件未成年者を保護する可能性があることを示唆されたものの、警察等による保護を受け入れることを断っており、その後に、被控訴人らが改めて違法な保護の方策を具体的に検討していたと認めるに足りる証拠もないこと(なお、被控訴人らの間のSNSにおけるメッセージのやり取りのうち、同月25日以降のものについての証拠は提出されていない。)からすると、遅くとも同月26日以降は被控訴人Bによる本件未成年者の監護が、本件未成年者について公的機関による保護を受けるか否かを検討している間に限った一時的なものであると評価することもできなくなっていたというべきである。

以上によれば、被控訴人Bの上記の不法行為の違法性を否定すべき事情がると認められない。

(4)被控訴人Aは、令和6年9月24日に被控訴人Bから本件未成年者を引き渡したくないとの意向が示された際には、弁護士としての法的知識に基づき、そのような行為は親権を求めようとしている非親権者が自力救済に及ぶものであって違法なものであると評価される可能性があるから違法ではないかととの被控訴人Bのメッセージに対し、警察等への相談を提案するなどして、引渡しを拒否することは得策ではないことを婉曲的に伝えるのみで、上記のとおり違法な行為と評価される可能性があるとの法的説明を一切しておらず(補正後認定事実(4))、その後も、同年10月1日に本件未成年者を控訴人に引き渡すまでの間に、被控訴人Aに対し上記のような説明をしたとも認められない(なお、同年9月25日以降の非行宋任らの間のSNSにおけるメッセージのやり取りに関する証拠が提出いないことは、前記のとおりである。)

以上からすると、被控訴人Aが被控訴人Bに対し、本件未成年者を引き渡さないことについての法的リスクを説明しなかったことで、被控訴人Bによる本件未成年者の監護が係属し、控訴人の親権者としての監護権が侵害されたものと認められるから、被控訴人Aが被控訴人Bに対し適切な説明をしなかったことは、控訴人に対する不法行為に当たるというべきである。

そして、被控訴人Aが最終的に被控訴人Bを説得し、同年10月1日には本件未成年者を控訴人に引き渡したこと(補正後認定事実(9)によっても、上記の不法行為の成立が否定されるものではない。

(5)以上によれば、被控訴人らは、控訴人に対し共同不法行為による不法行為責任を負う。

4損害について

既に認定開示してきたところによれば、控訴人の監護権が侵害されたと評価できるのは、令和6年9月27日から同年10月1日までの間にとどまること(弁論の全趣旨)、控訴人代理人が関与して同年9月30日夜に本件未成年者の健康等に問題が生じたこともなかったこと(弁論の全趣旨)、控訴人代理人が関与して同年9月30日夜に本件未成年者の引渡しを求めてからは、1日足らずでその引渡しは実現していること(補正後認定事実(7)及び(9))を考慮すれば、控訴人が被控訴人らの不法行為により被った精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、5万円とするのが相当である。また、弁護士費用のうち、5000円が上記の損害と相当因果関係のある損害であると認められる。

なお、被控訴人Bが本件未成年者を控訴人に引き渡した同年10月1日に不法行為が終了したと認められるから、同日から遅延損害金が発生するものとするのが相当である。

5 以上のとおり、控訴人の請求は5万5000円及びこれに対する令和6年10月1日から支払済みまでの年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるところ、これを全て棄却した原判決は相当でないから、原判決をを変更して控訴人の請求を上記の限度で認容することとして、主文のとおり判決する。

令和8年7月30日

東京高等裁判所第7民事部 裁判官 市原義孝 菊池浩也 鈴木和孝

「子ども連れ去り」の法的リスクを説明せず 弁護士に賠償命じる判決:朝日新聞

元妻に子どもを連れ去られ、元妻の代理人弁護士もそれを制止しなかったとして、親権を持つ父親が2人に330万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(市原義孝裁判長)は7月30日、計5万5千円の支払いを元妻と代理人弁護士に命じた。

 一審・東京地裁判決は、父親の請求を棄却していた。高裁は、元妻による子どもの引き渡し拒否が違法だったと認めたうえで、元妻の代理人弁護士にも「法的リスクを適切に説明しなかった責任がある」と指摘した。

https://www.asahi.com/articles/ASV702S9SV70UTIL01VM.html

杉山程彦弁護士 登録番号 37300 神奈川県弁護士会 プレミア法律事務所      
事務所 神奈川県横須賀市若松町3-4山田ビル