関康郎元弁護士(東京)の一審判決が 判例として掲載されていました。
成年後見人でありながら被後見人の預金などを横領し逮捕された。
被害金を弁済した場合は過去、執行猶予付きであったが実刑判決が
言い渡された。
逮捕時の報道 2013年1月24日 時事
成年後見人の弁護士逮捕=1200万円着服容疑-東京地検
成年後見人として管理していた預金約1200万円を着服したとして、東京地検特捜部は24日、業務上横領容疑で、東京弁護士会所属の弁護士関康郎容疑者(52)を逮捕した。
逮捕容疑は、2007年8月6日~09年11月30日、成年後見人として管理していた他人の銀行口座から、十数回にわたり計約1200万円を自分の口座に振り込み、着服した疑い。(2013/01/24-11:40) 業務上横領,無印私文書変造・同行使(認定罪名:無印私文書偽造・同行使),国税徴収法違反被告事件
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【事件番号】 | 東京地方裁判所判決/平成25年(刑わ)第227号 |
【判決日付】 | 平成25年7月9日 |
【判示事項】 | 弁護士である被告人は,Aの成年後見人に選任され,A名義の普通預金口座の預金を業務上預かり保管中,15回にわたり,自己の用途に費消するため,同口座から被告人名義の普通預金口座に振込送金して着服し,もって横領し,その発覚を免れるため,預金通帳の各欄に虚偽内容を記載したコピーを作成したとする業務上横領,無印私文書変造・同行使,国税徴収法違反事件。検察官は,無印私文書の変造に該当するとして起訴したが,裁判所は,預金通帳の取引履歴は,各葉に記載される各取引番号ごとに個別の取引内容及びその時点の預金残高を記録する独立した証明文書であり,被告人が,原本としては存在しない内容の別個の文書を無権限で作り出していること,また,各行における取引の有無や残高の金額は証明文書としての意思内容の基本的な事項であることから,各取引履歴欄ごとに文書の偽造に該当すると判断した上で,被告人を懲役2年6月に処した(求刑は懲役4年)。 |
【掲載誌】
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LLI/DB 判例秘書登載 |
被告人を懲役2年6月に処する。
押収してある後見事務報告書1袋(平成25年押第64号の2)のうち,1枚目にみずほ銀行大森支店A名義の普通預金通帳表紙の写しがステープラー止めされた書面の4枚目ないし7枚目(いずれも通帳の記帳内容が記載された書面で,左上にそれぞれ6,7,8,9という記載のあるもの)のうち,同4枚目については取引番号7ないし24の欄,同5枚目及び6枚目についてはいずれも取引番号1ないし24の欄,同7枚目については取引番号1ないし10の欄の各偽造部分並びに押収してある後見事務報告書1袋(同号の3)のうち,1枚目にみずほ銀行大森支店A名義の普通預金通帳表紙の写しがステープラー止めされた書面の3枚目及び4枚目(いずれも通帳の記帳内容が記載された書面で,左上にそれぞれ9,10という記載のあるもの)のうち,同3枚目については取引番号1ないし24の欄,同4枚目については取引番号1ないし7の欄の各偽造部分を没収する。
理 由
【罪となるべき事実】
被告人は,
第1 東京弁護士会所属の弁護士であり,平成15年10月10日付けの千葉家庭裁判所松戸支部の審判により成年被後見人Aの成年後見人に選任されて,同人の預金管理等の業務に従事していたものであるが,東京都大田区山王2丁目5番13号所在の株式会社みずほ銀行大森支店に開設された同人名義の普通預金口座の預金を同人のため業務上預かり保管中,別紙1横領行為一覧表記載のとおり,平成19年8月6日から平成21年11月30日までの間,15回にわたり,同支店等において,ほしいままに,自己の用途に費消するため,同口座から同銀行赤坂支店に開設された被告人名義の普通預金口座に合計1270万円を振込送金して着服し,もって横領し,
第2 上記第1記載の横領行為の発覚を免れるため,
1 平成24年3月中旬頃,東京都大田区(以下略)所在の□□法律事務所において,行使の目的をもって,ほしいままに,株式会社みずほ銀行作成名義の前記A名義口座の普通預金通帳の写しを切り貼りしてその内容をスキャナーでパーソナルコンピュータに読み込んだ上,画像加工ソフトを用いて画像加工を行い,同通帳の写しのうち別紙2偽造部分一覧表(1)の各頁(通帳の記帳内容が記載される見開きの左上部分に記載されている数字のことをいう。以下同じ)の取引番号欄に該当する各欄において,同表「年月日」「お取引内容」「お支払金額(円)」「お預かり金額(円)」「差引残高(円)」のうち同各欄の太字斜体部分につき虚偽の内容である各取引を記載した同通帳写しを作成して,同通帳の取引履歴写しをそれぞれ偽造した上,同月19日,千葉県松戸市岩瀬無番地所在の前記千葉家庭裁判所松戸支部において,前記偽造に係る通帳の各取引履歴写しを後見事務報告書に添付して(添付したものが平成25年押第64号の2),同支部裁判所書記官に提出して行使し,
2 平成25年1月中旬頃,前記□□法律事務所において,行使の目的をもって,ほしいままに,前記みずほ銀行作成名義の前記A名義口座の普通預金通帳の記帳内容をスキャナーでパーソナルコンピュータに読み込み画像加工ソフトを用いて画像加工を行い,同通帳の写しのうち別紙3偽造部分一覧表(2)の各頁,取引番号欄に該当する各欄において,同表「年月日」「お取引内容」「お支払金額(円)」「お預かり金額(円)」「差引残高(円)」のうち同各欄の太字斜体部分につき虚偽の内容である各取引を記載した同通帳写しを作成して,同通帳の取引履歴写しをそれぞれ偽造した上,同月18日,前記千葉家庭裁判所松戸支部において,前記偽造に係る通帳の各取引履歴写しを後見事務報告書に添付して(添付したものが平成25年押第64号の3),同支部裁判所書記官に提出して行使し,
第3 所得税等を滞納していたものであるが,自己の財産に対する滞納処分の執行を免れる目的で,自己の財産を隠ぺいしようと企て,別紙4隠ぺい行為一覧表記載のとおり,平成22年3月4日から平成24年12月25日までの間,9回にわたり,東京都大田区大森北1丁目30番3号所在の株式会社りそな銀行大森支店において,被告人に帰属する破産手続の代理業務の報酬等合計1454万0680円を,同支店に開設された被告人が管理するB名義口座等に入金するなどし,もって滞納処分の執行を免れる目的で財産を隠ぺいした。
【証拠の標目】
注 括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
事実全部について
被告人の公判供述 (以下省略)
罰条
第1の行為 別紙1の1ないし15の各行為ごとにいずれも刑法253条
第2の1及び2の行為のうち各無印私文書偽造の点第2の1別紙2の1ないし76及び第2の2別紙3の1ないし31の各行為ごとにいずれも刑法159条3項
各同行使の点
第2の1別紙2の1ないし76及び第2の2別紙3の1ないし31の各行為ごとにいずれも刑法161条1項,159条3項
(なお,検察官は,預金通帳の各欄に虚偽内容を記載したコピーを作成した被告人の行為が無印私文書の変造に該当するとして起訴している。しかし,預金通帳の取引履歴は,表紙及び表紙裏の記載によって証明される預金口座の存在を前提に,各葉に記載される各取引番号ごとに個別の取引内容及びその時点の預金残高を記録する独立した証明文書である。そして,本件においては,存在する原本に改ざんを加えたのではなく,原本としては存在しない内容の別個の文書(文書の体裁により金融機関が作成したと推認させるもの)を無権限で作り出していること,また,上記各行における取引の有無や残高の金額は,この証明文書としての意思内容の基本的な事項であることからすれば,本件における被告人の行為は,各取引履歴欄ごとに文書の偽造に該当するというべきである。)
第3の行為
包括して国税徴収法187条1項
科刑上一罪の処理
第2の1別紙2の1ないし76の各行為について
刑法54条1項前段,後段,10条(第2の1別紙2の1ないし76の各無印私文書偽造,各同行使は,それぞれ1個の行為が76個の罪名に触れる場合であり,各無印私文書偽造と各同行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,結局以上を一罪として犯情の最も重い別紙2の76の同行使の罪の刑で処断)
第2の2別紙3の1ないし31の各行為について
刑法54条1項前段,後段,10条(第2の2別紙3の1ないし31の各無印私文書偽造と各同行使は,第2の1と同様一罪として犯情の最も重い別紙3の31の同行使の罪の刑で処断)
刑種の選択
第2の1及び2並びに第3について
いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い第1別紙1の12の罪の刑に法定の加重)
没収
刑法19条1項1号,2項本文(押収してある後見事務報告書2袋(平成25年押第64号の2及び3)のうち,主文記載の各偽造部分は,各偽造無印私文書行使の犯罪行為を組成した物で,何人の所有をも許さないものである。)
【量刑の理由】
1 業務上横領についてみると,被告人は,2年余りの間に15回にわたり,成年後見人として預かり保管していた被後見人名義の口座の預金を,被告人名義の預金口座に振込送金して,合計1270万円という多額の金員を横領したものであり,結果は重大である。被告人は,弁護士として中立的な立場の法律専門家という高度の信頼の下に家庭裁判所から成年後見人に選任され,知的障害を有する被後見人の財産管理等を行う職責を負っていたのに,その信頼を裏切って本件犯行に及んだのであり,強い非難を免れないし,同種事犯に対する一般予防の要請も無視できない。また,被告人は,ずさんな金銭管理と浪費のために弁護士業務における預かり金等を流用するようになった中で,金銭に窮して犯行に及んだものであり,犯行の経緯,動機に酌むべき点は全くない。
そして,被告人は,家庭裁判所から財産管理状況等についての報告を求められると,報告を先延ばしにした挙げ句,上記横領の事実を隠ぺいするため,2回にわたり,判示のとおり手の込んだ無印私文書偽造行為を行い,これを裁判所に提出して行使したものである。預金通帳は,銀行が取引年月日,取引内容,差引残高等を証明するものであり,高い社会的信用性を有する文書といえるところ,被告人は,巧妙にその写しを作成した。実際に,これが行使されたことにより,横領の事実発覚が遅れており,文書に対する社会的信用は著しく害されたといえる。
また,国税徴収法違反についてみると,被告人は,税務署から税務調査を受け,虚偽過少申告の事実が明らかになった段階で,財産の隠ぺいに用いるため,同棲中の女性に同人名義の預金口座を開設させてこれを被告人が管理するようにした上で,平成22年2月の所得税等の修正申告により本税だけで約1700万円の納税義務があることが分かった後,将来の滞納処分による差押えを免れるため,犯行に及んだものである。犯行動機に酌むべき点は全くなく,犯行態様も,弁護士報酬等を,新たに開設した被告人名義の預り金口口座に振り込ませた後で上記女性名義の口座に移し替えたり,直接同口座や上記被後見人名義の口座に振り込ませたりするなど,隠ぺい方法をその都度使い分け,9回にわたり,合計1454万円余りもの財産を隠ぺいしたという巧妙,悪質なものである。
以上からすれば,被告人の刑事責任は重大である。
2 したがって,被告人が,別紙1の第4回の犯行の後,家庭裁判所への発覚を恐れた故ではあるものの,それまでの横領金合計額360万円をいったん前記被後見人名義の口座に入金して返還し,起訴後には,新たな成年後見人との間で示談交渉をし,被告人の父親の援助を受けて弁償をした上で示談を成立させていることのほか,事実関係を認めて反省の弁を述べていること,古い業務上過失傷害の罰金前科以外に前科がないこと,本判決の確定により弁護士の資格を失うことなど,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,その刑の執行を猶予することは相当でないものと判断し(なお,当公判廷において,被後見人の父親が刑の執行猶予を希望する旨述べているが,この父親の言葉は事理弁識能力を欠く被後見人の意向を反映しているとは評価できないので,量刑上考慮しない。),主文のとおりの刑に処することとした。
(求刑-懲役4年,押収済みの預金通帳写しに係る変造部分の没収)
平成25年7月9日
東京地方裁判所刑事第8部
裁判長裁判官 鹿野伸二
裁判官 野澤晃一
裁判官 森下宏輝