弁護士に非行があれば所属している弁護士会に懲戒を申立てることができます。弁護士会が非行と認定すれば懲戒処分となります。処分の種類は戒告、業務停止、退会命令、除名です。
所属弁護士会から処分を受けた弁護士は処分が不当であれば日弁連に異議を申し立てることができます。(審査請求)年間約100件程度の処分が所属弁護士会から下され年間2件から3件ほどの審査請求が認められます。(処分変更・処分取消)
神奈川県弁護士会、佐藤隆志弁護士が2018年4月に受けた戒告処分が日弁連懲戒委員会で処分取消となりました。これで、この懲戒請求事件は結了となります。
弁護士は守秘義務違反であるということは認識しての行為でしたが、「ダメなものはダメ」ということにならない弁護士業界です。これが弁護士自治における「懲戒制度」です。
当会によく質問があるのは弁護士職務基本規程違反、弁護士法違反であるにもかかわらず処分されなかったいうお問合せがあります。一般企業、団体で不祥事、規約違反があれば社内に「対策委員会」のようなものが立ち上げられ、処分が決まりますが、弁護士の場合は所属弁護士会の「綱紀委員会」に懲戒の審議が付され「懲戒相当」の議決がでて次に「懲戒委員会」に審議が付され処分が決まります。弁護士が横領し警察に逮捕された事案でも先ず「綱紀委員会」で審議されます。
たとえば、我々が交通違反で検挙された場合。たとえば、「スピード違反」で検挙された時には、警察は言い訳も何も聞いてくれません、「親が危篤で急いでいたとか」「子どもが病気だとか」言い訳をしても、警察がお気の毒ですがとは言いますが、違反は違反だと反則切符を切られます、「ダメなものはダメです」
ところが、弁護士の懲戒制度は違います
弁護士が業務で職基本規程や弁護士法に違反した場合、先ず綱紀委員会で弁明を述べます。その弁明がやむ負えない事情や緊急性、被害が少ない等、依頼者のためにやった事、弁護士会が好きな「特段の事情」が認められれば、たとえ法に違反した行為であっても処分するまでには至りません。
「ダメなものはダメではないのが弁護士の懲戒制度!」
今回の処分内容は、「子の監護権に関する審判書を子の通う幼稚園に送付したとする守秘義務違反」でした。当会には、子の監護、親権、子の面会交流について相手方弁護士の行為について多くの懲戒請求書が寄せられています。全て棄却です、棄却の理由は多くは「依頼者が望んだこと」等です。今回と同じような事案も見受けられますが全て「棄却」でした。
なぜ、この弁護士は処分されたか?
懲戒を求める理由に対する弁明が足りていないのではないか。そして反省がなかったのではないでしょうか、登録番号49778 事件が2016年、まだまだ新人のころ、所属弁護士会でまさか戒告が出るとは思っていなかった。「戒告」が出て、日弁連懲戒委員会に真摯な反省と特段の事情を弁明したのではないでしょうか、最初からしっかり弁明していれば弁護士会は本来この種の処分ほとんど出さないのですから、
当初の戒告処分の公告・処分要旨
神奈川県弁護士会がなした懲戒の処分について同会から以下のとおり通知を受けたので、懲戒処分の公告公表に関する規定第3条第1号の規定により公告する
1 処分を受けた弁護士
氏 名 佐 藤 隆 志
登録番号 49778
事務所 神奈川県横浜市中区本町3-24
山本一行法律事務所
2 処分の内容 戒 告
3 処分の理由の要旨
被懲戒者はAの代理人として申し立てた、Aの夫である懲戒請求者を債務者としたAと懲戒請求者の子Bらの監護者指定等申立事件の審判前の保全処分事件について2016年8月26日、本案審判確定までの間、Bらの監護者をいずれもAと仮に定め、懲戒請求者はAに対しBらを仮に引き渡せとの保全処分を命ずる審判を受けたが、同月27日、被懲戒者及び懲戒請求者の代理人C弁護士が立ち会っていた場ではBらがAに引き渡されなかったことから、被懲戒者からC弁護士に対して1週間以内の引き渡しを要請する等していたところ、その際、D幼稚園にに通園していたBの同月29日以降の通園先がE幼稚園であることを知ったため、同月28日、電話連絡をするなど他に代替方法があったにもかかわらず、普通郵便で、E幼稚園園長親展とせず、懲戒請求者に係る秘匿情報をマスキングもしないで上記審判の審判書全文を、E幼稚園に対し送付した。
被懲戒者の上記行為は弁護士法第23条に違反し弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
4処分が効力を生じた年月日 2018年4月26日
2018月8月1日 日本弁護士連合会
神奈川県弁護士会が2018年4月26日に告知した同会所属弁護士 佐藤隆志会員(登録番号249778)に対する懲戒処分(戒告)について同人から行政不服審査法の規程による審査請求があり本会は2019年6月11日弁護士法第59条の規程により、懲戒委員会の議決に基づいて、以下のとおり裁決したので懲戒処分の公告及公表等に関する規程第3条第3号の規程により公告する。
記
1 採決の内容
(1)審査請求人に対する懲戒処分(戒告)を取り消す。
(2)審査請求人を懲戒しない
2 採決の理由の要旨
(1)本件は、審査請求人が別居夫婦の妻の代理人として、夫である懲戒性請求者との間の子供の親権、監護の指定申立事件の本案事件及び審判前の保全処分事件(子の監護者の指定及び子の引き渡し。以下「本件保全処分」という)の手続を行っていたが、本件保全処分の審判書(以下「本件審判所」という)全文を幼稚園。(以下「本件幼稚園」宛てに送付した行為(以下「本件行為」という)が懲戒請求者の名誉毀損又はプライバシー侵害に害するとして懲戒請求がなされた事案である。
(2)これにつき、神奈川県弁護士会は審査請求人の本件行為は、守秘義務(弁護士法第23条)社会正義を実現すべき義務、誠実、公正に職務を行う義務(同法第1条)弁護士職務基本規程第1条及び第5条)に違反し同法第56条第1項に定める「品位を失うべき非行」に該当すると判断した。
(3)本件審判書は第三者への開示、漏洩から保護されるべき程度が高い文書である、本件審判書の全文を開示する状態で本件幼稚園に送付した審査請求人には、弁護士法第23条の守秘義務違反があったと認められ神奈川県弁護士会の認定に誤りはない。
(4)しかし,次の事情が認められる。
本件保全処分が発令された翌日である2016年8月27日土曜日の午前11時、審査請求人及び依頼者(懲戒請求者の妻)が子の引き渡しを受けるべく懲戒請求者宅へ赴いたが、午後6時まで待機するも引き渡しが受けられなかった。その際、懲戒請求者の代理人弁護士の発言から、本件幼稚園への入園手続がその時点で撤回又は取消しがなされていないことを知った審査請求人は新学期が始まる同年9月1日までに懲戒請求者が行った入園手続を撤回させるために、本件審判書全文の送付により本件幼稚園に具体的な事情を知ってもらった上で、監護権のない懲戒請求者の入園手続は無効であることを理解してもらう必要があると考え、本件行為に及んだものである。当時の状況からすると、審査請求人が緊急性があると考え、確実性を考慮して本件行為に及んだことは、酌むべき事情といえる。
(5)本件は審査請求人の経験不足及びプライバシーへの配慮の欠如により生じた事案であり、懲戒請求者の個人情報が明示された本件審判書全文を第三者に送付した軽率な行為であったが、審査請求人の反省の態度も顕著であり、本件幼稚園の園長以外の第三者に本件審判書の内容が開示された事実は見受けられず、実害は発生していないことに鑑み、審査請求人を懲戒しないとするのが相当である。
3 採決が効力を生じた年月日 2019年6月14日
2019年8月1日 日本弁護士連合会
審査請求と異議申立