弁護士自治を考える会
弁護士に非行がの容疑があれば所属する弁護士会に懲戒請求を申立てることができます。年間100件の懲戒処分がくだされますが、その確率は3%程度です。97%が棄却、処分せずです。当会は棄却となった懲戒処分の議決書を求めています。
懲戒事由「新興大手法律事務所が全国に撒いたチラシで金融会社のロゴを無断で使用するのは問題があるのではないか」
第一東京弁護士会
2019年一綱第25号・第26号
議 決 書 (第一東京弁護士会綱紀委員会)
綱第25号 対象弁護士 弁護士法人法律事務所代表弁護士
綱第26号 対象弁護士法人 届出番号 1186
上記対象弁護士及び弁護士法人にかかる頭書綱紀事件について、当委員会は調査審議の上、次のとおり議決する。
主 文
対象弁護士及び弁護士法人につき、いずれも懲戒委員会に事案の新義を求めないことを相当とする。
理 由
第1 事案の概要
(前省く)本件広告の内容が不正競争防止法、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という、)に違反し、弁護士法人としての品位を失うべき非行に該当するとして、対象弁護士法人及びその社員である対象弁護士に対して懲戒請求を行った事案である。
第2 懲戒請求事案の要旨
1 本件広告には、クレジット会社及び消費者金融各社(以下「本件貸金業者」という)のロゴ(以下「本件ロゴ」という)が明記された本件貸金業者が発行するカードの画像が含まれている。
本件貸金業者のロゴが表示された本件広告を対象弁護士法人がチラシとして配布する行為は、不正競争防止法第2条第1項第1号、同第2号に抵触する可能性があり、弁護士法人としての品位を失う行為となり得る。
2 本件広告は、上記のとおり不正競争防止法に抵触する可能性がある行為であるので、他の法律事務所が同種・類似の広告を使用することはできず、結果として対象弁護士法人の市場独占につながることから、私的独占に該当し、独占禁止法第2条第5項・同法第3条に違反する可能性があり、弁護士法人としての品位を失う行為となり得る。
3 本件広告は、一般消費者に確実に過払金が返還されるのではないかという誤認を生じさせる恐れがあるうえ、本件広告には返還された金額なども含まれていることから、景表法第5条第1号の優良誤認及び同第2号の有利誤認、又は不実証広告規制に該当する余地があり、弁護士法人としての品位を失う行為となり得る。
4 対象弁護士法人の社員として登録されている対象弁護士は、チラシの配布、チラシの文言の検討への関与が推測され、また関与が少なくとも管理監督を怠ったものであるので懲戒請求の対象とした。
第3 対象弁護士法人及び対象弁護士の答弁の要旨
第1懲戒請求事由第1項について
本件広告に他人の周知又は著名な商品等表示と認められるものが含まれていること自体は否定しないが、対象弁護士法人の過払金回収業務の営業を、本件貸金業者の営業と誤認混同する余地はなく、また対象弁護士法人が自己の商品表示として使用しているわけでもないから、不正競争防止法第2条第1項第1号・同2号には該当しない。
2 懲戒請求事由第2項及び第3項について、
本件広告は景品を含む経済的な利益をもって顧客を誘因するものではないから独占禁止法及び景表法の規制は主張自体失当である。
3 懲戒請求事由第4項について
否認ないし争う
第4 判断の資料 別紙記載のとおり
第5 当委員会が認定した事実及び判断
1 当委員会が認定した事実
時期が定かでないが、対象弁護士法人が業とするいわゆる過払金回収業務を含めた債務整理業務の広告として、一般消費者向けに本件広告を配布し、本件広告中には、本件ロゴが含まれていた、また、本件広告中に含まれる本件ロゴには貸金業を営む著名な企業の称号も複数記載されていた。
2 懲戒請求事由第1項について
(1) 不正競争防止法第2条第1項第1号違反について
不正競争防止法第2条第1項第1号は「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し」「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」等を「不正競争」に該当すると規定している。
この点について、対象弁護士法人は、本件ロゴを本件公告中で使用しているが、それはあくまで対象弁護士法人が過去に過払金を回収した相手方のロゴ及び称号を例示したに過ぎず、対象弁護士法人が業とする債務整理業務に関する「自己の商品等表示として」表示したわけではない。また本件貸金業者はいずれも貸金業を業とする株式会社であり貸金業者を相手方とする債務整理業務を業として行う対象弁護士法人が本件ロゴが含まれた本件広告を一般消費者に配布する行為は、不正競争防止法第2条第1項第1号に定める「不正競争」には該当しない。
(2)不正競争防止法第2条第1項第2号違反について
不正競争防止法第2条第1号第2号は「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用」する行為等を「不正行為」に該当すると規定している。
しかし、第5の2(1)記載のとおり、対象弁護士法人は「自己の商品等表示として」本件ロゴを使用していない。
そうだとすると対象弁護士法人が本件ロゴが含まれた本件広告を一般消費者に配布する行為は、不正競争防止法第2条第1項第2号に定める「不正競争」には該当しない。
3 懲戒請求事由第2項について
第5のの2(1)の記載のとおり、不正競争防止法第2条第1項及び同号第2条に定める「不正競争」には該当せず、懲戒請求者の主張自体失当であるが、対象弁護士法人の行為が独占禁止法第2条第5項に定める「私的独占」に該当し得るかについて付言する。
独占禁止法第2条第5項にが、定める「私的独占」とは「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通牒し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」とされている。
懲戒請求者の主張及び提出されたすべての書証を前提としても、対象弁護士法人が他の弁護士又は弁護士法人による債務整理業務に関する活動を排除し又は支配したことをうかがせる事実は確認できず、独占禁止法第2条第5号に定める「私的独占」には該当しない。
4 懲戒請求第3項について
(1)景表法第5条第1号について
景表法第5条第1号は、自己の商品、役務を、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して他の事業者の同種・類似の商品・役務と比較して優良であるかのように表示し、不当に顧客を誘因し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を規制しているところ(優良誤認表示の禁止)、本件広告は、対象弁護士法人の過去の過払金回収実績の平均値を掲載しているにすぎず、実際のものより優良であるとしているわけでも、他の事業者と比較して著しく優良であると示しているわけでもない。
そうだとすると本件広告は景表法第5条第1号には該当しない
(2)景表法第5条第2号について
景表法第5条第2号は、自己の商品、役務を同種の商品。役務を提供する他の事業者よりも取引の相手方に著しく有利であるかのように誤認する表示によって不当に顧客を誘因し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を規制しているところ(有利誤認表示の禁止)、本件広告は、実際よりも有利であると偽って宣伝したり、他の事業者比較して取引条件が有利であると偽って宣伝したりしているわけでもない。
そうだとすると、本件広告は景表法第5条第2号に該当しない。
5 懲戒請求事由第4講について
以上のとおり、懲戒請求者が主張する懲戒請求事由第1項乃至第3項はいずれも理由がないものであるから、対象弁護士が懲戒請求事由第1項乃至第3項に関与、またはその監督責任を怠ったことを理由として弁護士法第56条1項に定める「品位を失うべき非行」があったとする懲戒請求者の主張は理由がない。
6 したがって、対象弁護士及び対象弁護士法人いずれも「品位を失うべき非行」に該当する事実があったと認めることはできない。
7 よって、主文のとおり議決する。
2020年(令和2年)3月27日
第一東京弁護士会 会長 若林茂雄殿
第一東京弁護士会綱紀委員会 委員長 安藤真一 印
そもそも、この事務所が全国にまいたチラシに無断で会社のロゴをベタベタ貼り付けたものが品がいいか?という問題なのですが