第3章 日弁連の懲戒制度
1 審査請求と原処分の効力
(1) 審査請求がなされた場合に当該処分の効力あるいはその執行をどうするかは、立法政策の問題である。
行審法は、審査請求は処分の効力及び執行を妨げないとして執行不停止の原則をとりながら(同法三四条一項)、 国民の権利利益の保護について配慮し、審査請求人に執行停止の申立権を与え(同条二項)、この申立てがあったと きは、審査庁は、速やかに、執行停止するかどうかを決定しなければならないものとしている(同条七項)。
懲戒委員会規程においても、日弁連は、申立て又は職権で、懲戒処分の効力を停止することができる(同規程四六 )
なお、行審法は処分の効力、処分の執行等の停止その他の措置を執行停止」という用語で定義しているが、弁護士の懲戒に関しては、処分の効力の停止以外の措置を考えることができないので、懲戒委員会規程では「効力停止」 と表現している。
このように、審査請求があっただけでは、原処分の効力は停止しない。
効力停止は、本案たる審査請求が認容される場合に、原処分によって重大な損害が生じるのを避ける等のために認 められるべきものであるから、審査請求がなされていることが効力停止申立ての前提となる。
したがって、審査請求をしないで効力停止のみを申し立てることはできない。
懲戒処分を受けた弁護士が効力停止を申し立てるには、行審法一五条一項に掲げる事項(懲戒委員会規程四九条、 三四条二項)のほか、申立人の所属弁護士会を記載した効力停止申立書正本一通を日弁連に提出してしなければなら ない(懲戒委員会規程四六条二項)。
効力停止は、原状回復を困難にさせないために行われるものであるから、日弁連は、申立てがあったときは,その 申立てを認めるかどうか、速やかに判断を下すべきである(行審法三四条七項参照)。
3 効力停止の意義及び要件
懲戒処分の効力を停止するとは、懲戒処分の効力を停止させて、審査請求に対する裁決までの間、処分がなかったものと同様の効果を与えることである。停止の効力は形成的なものであり、遡及効果はない。
行審法は、処分庁の上級行政庁である審査庁は、必要があると認めるときは、審査請求人の申立てにより又は職権 処分の効力の停止等をすることができると規定し(行審法三四条二項)、このうち審査請求人の申立てがあった場合について、処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると認めるときは、審査庁は効力停止をしなければならない旨規定している(同法三四条四項本文)。 ただし、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、処分の執行若しくは手続の続行ができなくなるおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは」なされない(同項ただし書)。審査庁は、右の重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとするとされる(同条五項)
ところで、懲戒委員会規程四六条においては、右の義務的な効力停止については規定されていない。そのため、懲戒委員会規程が、行審法の特則として義務的な効力停止の場合を排除しているのか、単に規定がない場合とし されるのか(懲戒委員会規程三三条)が判然としない。
効力停止が義務的になされる場合を排除すると 日弁連に委ねられた懲戒手続についての会則等の制定権をしても難しいように思えるが、いずれにしても、日弁連における 審査請求に伴う効力停止の審査では、懲戒委員会が職権審査を行い、原処分について本案に理由がない が審査されるので、右の義務的な効力停止の適用の有無は、効力停止の結論には影響していないという である。
そして、いかなる場合に効力停止が認められるかについては、具体的事案ごとに検討する以外にない。
なお、法五六条の懲戒処分の種類のうち戒告については、告知によって効力を生じ、しかも同時に処分が完了なので、効力停止の申立ては理由がない (昭和五六年一〇月三〇日日弁連懲戒委員会議決議決例集V )
例えば業務停止一月の処分を受けた弁護士が、 すでに業務停止期間を満了した後に効力停止の申し立てなした場合等についても、同様に理由がない。
4 審理手続
法五九条は効力停止の申立てに対する審理手続についても懲戒委員会の議決によることを要求しているかが問題となるが、同条は、文言上、「行政不服審査法による審査請求があったとき」について懲戒委員会の議決に基づき「裁決」をすることを規定しているのであって、効力停止の決定について定めていると読むことは困難である。
思うに、弁護士会の懲戒処分は告知によって効力を生じており、効力を停止すべきか否かは緊急を要することであるから、懲戒委員会の議決を要するとするとかえって対象弁護士等の保護に欠けることになりかねない。
したがって、同条は審査請求に対する裁決については懲戒委員会の議決に基づくことを要求しているが、効力停止の決定についてまでも同委員会の議決に基づくことを要求していないと解すべきである。
懲戒委員会規程もこれを不要とし(同規程四六条一項)、ただ、懲戒処分の効力を停止するとき、効力停止の申立てを却下する場合や、一旦なしたた効力停止の決定をその後の事情変更を理由に取り消す場合(同条三項)には、あらかじめ、懲戒委員会の意見を聴かなければならないものとしている(同規程四七条)。 この懲戒委員会に対する意見は、日弁連が決定をなすに、あたり参考として意見を徴する趣旨であって、日弁連が同意見に拘束されるものではない。
なお、例えば業務停止の処分がなされた場合で、効力停止の決定があったときは、その時から業 ができる(行訴法二五条による執行停止については第四章二74参照)。 ここでいう「その時」とは決定時ではなく、決定の効力発生時のことであり、具体的には、懲戒委員会規程四八条一項による書面による通知がなされた時である。
行審法四二条一項は、審査請求に対する裁決の場合についてであるが、送達により効力を生じるとしており、また、行訴法二五条の執行停止の場合は、行訴法に特段の定めがないので、同法七条により民事訴訟の例によることとなるが、民訴法一一九条は「決定及び命令は、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生じるとしておりこれらを別異に解する理由はないからである。
5 効力停止決定の取消し等
日弁連は、事情に変更があるときは、前になした効力停止の決定を取り消すことができる(懲戒委員会規程46条3項)行審法35条は「執行停止をした後において、執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼし,又は処分の執行若しくは手続の続行を不可能とすることが明らかとなったとき、その他事情が変更したときは、審査庁は、その執行停止を取消すことができる」と規定している。
また、審査請求人は、審査請求について前述の取り下げができるほか、効力停止の申し立てについても、審査請求に対する採決があるまでは、いつでも書面により取り下げができるほが(懲戒委員会規程49条、43条1項・2項)日弁連は、効力停止の決定の後、審査請求又は効力停止の申し立てが取り下げられたときは効力停止の決定を取り下げなければならない(同規程46条4項)
6 効力停止に関する決定
(イ)日弁連が、効力停止の申し立てに対し、その必要がないと判断したときの主文例は次のとおりである
「本件申立てを却下する」
(ロ)効力停止決定の場合
日弁連が効力停止の申立てに対し、又は、職権で効力停止の必要があると判断したとき(懲戒委員会規程46条)の主文例は次のとおりである。
「〇〇弁護士会が〇年〇日付けで審査請求人に対してなした処分の効力は、審査請求に対する採決に至るまでこれを停止する」
(ハ)効力停止決定の取消しの場合
事情変更により前になした効力停止決定を日弁連が取り消すとき、又は審査請求若しくは効力停止の申立てが取り下げられたことにより効力停止決定を日弁連が取り消すときの主文例は次のとおりである。
「日本弁護士連合会が、〇年〇月〇日で〇〇になした効力停止決定を取り消す」
(二)不服申立て
(イ)から(ハ)もでの日弁連の決定に対しては、行審法に基づく不服申立ては認められない(法49条の3)
7 公 告
日弁連が「懲戒の処分の効力停止の決定をし、又はその効力の決定を取消したとき」は、官報及び機関雑誌に次に掲げる事項を掲載して公告することになっている。(懲戒公告規程3条4号)
① 原弁護士会がした懲戒の処分の効力を停止し、又は効力の停止を取り消した旨
② 原弁護士会の名称
③ 対象弁護士の氏名(職務上の氏名を使用している者については職務上の氏名を併記する)又は名称及び登録番号又は届出番号
④ 原弁護士会がした処分の内容
⑤ 原弁護士会がした懲戒の処分が効力を生じた年月日
⑥ 懲戒の処分の効力を停止し、又は効力の停止を取消した年月日
8 通知
(イ)審査請求人等への通知
日弁連は、懲戒処分の効力を停止したとき又は前にした懲戒処分の効力停止の決定を取り消したときは、速やかに、審査請求人、懲戒請求者及び原弁護士会に、その旨を書面により通知しなければならない。また効力停止の申立てを却下したときは、審査請求人に、その旨及び理由を書面により通知しなければならない。
(ロ)関係官公署への通知
日弁連が「懲戒の処分の効力停止の決定をし、又はその効力停止の決定を取り消したとき」は
① 最高裁判所及び検事総長 ② 対象弁護士等の所属する弁護士会の地域を管轄する高等裁判所並びにその地 域内の各地方裁判所及び各家庭裁判所、③ 対象弁護士等の所属する弁護士会の地域を管轄する高等検察庁の検事長及 びその地域内の各地方検察庁の検事正、 ④ 対象弁護士等の所属する弁護士会の地域を管轄する地方裁判所の地域内の 各簡易裁判所、⑤ 対象弁護士等の所属する弁護士会の地域を管轄する地方検察庁の地域内の各区検察庁の上席検察官 並びに⑥ 日本司法支援センターにMの1から6までに掲げる事項を通知することを要する(会則六八条、懲戒公告規 程五条)。
9公表制度
日弁連が「懲戒の処分の効力停止の決定をし、又はその効力停止の決定を取り消したとき」であって、相当と認められるときは(7)の①までに掲げる機関雑誌に掲載する事項を公表することができる。
