棄却された懲戒の議決書
新興大手法律事務所の代表弁護士と法人が業務停止6月の処分を受けた。(後に業務停止3月に変更)にもかかわらず、SNSを利用しているのは業務停止中の業務ではないか
懲戒請求事由
①対象弁護士は業務停止中に「業務停止中の弁護士」という肩書を付けてSNSを利用して、法律相談、ライバル会社を批判した。
②対象弁護士の所属法人事務所も業務停止6月を受けており事務所は閉鎖すべきであるところ対象弁護士は本件懲戒請求書を受け取り対応した、
③業務停止期間中に懲戒の答弁書を綱紀委員会に提出した。答弁書に職印を使用した。
以上は業務停止中の業務であり弁護士法第56条第1項の弁護士として品位を失うべき非行に該当する。
(1)委任契約の解除
業務停止を受けた場合は、すべての委任契約を解除しなければなりません。解除の対象となるのは、裁判所等に事件が係属するものに限らず、すべての委任契約です。裁判所、検察庁、行政庁に事件が係属する場合、被懲戒弁護士は辞任届の提出等の手続をしなければなりません。事件の利害関係人への連絡もする必要があります。
(2)業務停止が1か月以内の例外
(1)にかかわらず業務停止期間が1か月以内の場合、依頼者が委任契約の継続を希望するときは解除しないことができます。ただしこの場合、被懲戒弁護士は依頼者に対して契約の継続を働きかけてはなりません。依頼者が自らその旨の確認書を受領し、その写しを本会に提出しなければなりません。
(3)弁済代行の例外的措置
被懲戒弁護士が債務整理事件を受任している場合で債権者への弁済代行を行っている場合、受任している事件の債務の支払期限が処分の効力が生じた日から10日以内に限って弁済代行を行うことができます。これは債務者が期限の利益を喪失するなどの不利益を受けることを回避するための例外的な措置です。被懲戒弁護士は債務者が不利益を受けることがないよう最善の措置をとらなければならないことが前提となっています。
業務停止期間の如何に関わらず顧問契約はすべて解除しなければなりません
(1)期日の延期・変更の禁止
被懲戒弁護士は裁判期日の延期や変更をおこなってはいけません。業務停止期間が1か月を超える場合は、すべての委任契約を解除しなければならないので期日の延期、変更をすることは無意味ですので当然のことですが1か月以内の時で依頼者の希望により委任契約が解除されない場合があっても、期日の延期・変更はできないことを意味します。
(2)裁判所からの書類の受領禁止
裁判所等から書類が送付されてきた場合、これを受領してはならず、誤って受領してしまった場合は直ちに返還しなければなりません。ここでは裁判所、検察庁、行政庁からの書類の送付等となっていますが、業務に関する書類を受領してはならないのは、依頼者、顧問会社、事件の相手方や利害関係人などからの書類の受領も禁止されます。また書類だけでなく、事件に関係するファクシミリや電子メールも含まれます。電子メールの場合は返還することの意味はありませんが、誤って送信してきた相手方に業務停止中であり対応できない等の対応が必要となります。
(1)預り金の受領禁止
被懲戒弁護士は依頼者のために金員を受領してはなりません。業務停止期間が1か月以内の場合で依頼者の希望により委任契約が解除されない場合も同様です。依頼者から金員を受領することも同様に禁止です。ただし依頼者のために受領しないと、消滅時効が完成してしまうなど依頼者の不利益が生じる場合(民法654条が規定する急迫の事情がある場合)には例外的に受領できます。
(2)預かり金の清算
被懲戒弁護士は、依頼者からまた依頼者のために金員や物品を預かっていた場合にはこれを依頼者に返還しなければなりません。業務停止期間が1か月以内で依頼者の希望で委任契約が解除されない場合には返還を要しません。預り金については、委任契約の定めに従って適切に清算しなければなりません。
被懲戒弁護士は委任契約や顧問契約を解除した場合は、依頼者や事件を新たに取り扱う弁護士や弁護士法人に誠実に事件の引継ぎをしなければなりません。
(1)復代理人の選任、他の弁護士等の雇用の禁止
被懲戒弁護士は、新たに復代理人を選任したり、他の弁護士等を雇用したりしてはなりません。自ら業務を行うだけでなく、他人を使って業務を行うことも禁止する趣旨です、隣接業者や非資格者を雇用して法律業務を行わせることも当然に禁止されます。
(2)補助弁護士等への指示監督の禁止
処分を知らせる前から雇用していた勤務弁護士に対し事件処理について指示し、監督することはできません。なお処分を受ける前からの復代理人については規定がありませんが、委任契約が解除されれば復代理人もなくなるため規定を置いていないだけであり、事実上の指示監督も許されません。委任契約が解除されない場合も同様です。
(3)共同受任
勤務弁護士以外の弁護士と事件を共同で受任していた場合、その一方の弁護士が業務停止処分を受けた場合、処分を受けていない弁護士はそのまま事件を継続して処理することはできます。共同受任自体の継続を禁止するものではありません。ただし共同受任の継続が業務停止処分の潜脱とみられる場合はそのこと自体が別の懲戒事由となることがあります。潜脱とみられるのは、たとえば共同受任している別の弁護士が被懲戒弁護士と業務停止中の業務についての対価を分け合っていたような場合があります。被懲戒弁護士が別の弁護士に指図をしたり、当該弁護士と協議をしたりすることも当然にできません。被懲戒弁護士が勤務弁護士と委任状に名を連ねているような場合は、形式的には共同受任ですが勤務弁護士が依頼者に対して報酬請求権を有していない場合には実質的には復代理といえるので、この場合は業務停止処分を受けていない勤務弁護士も業務を行うことはできません。
(1)着手金の清算
被懲戒弁護士が委任契約や顧問契約を解除した場合には、受領済みの着手金等を一部返還するなど委任契約書の定めに従って清算しなければなりません。(委任契約書には委任契約が途中で終了した場合の清算方法を規定することが義務づけられています。(日弁連・弁護士の報酬に関する規程第5条4項)
(2)弁護士報酬の受領
委任事務が終了して、弁護士報酬を受領する前に業務停止処分を受けた場合、弁護士報酬の額が委任契約書の定めによって明確になっている場合には弁護士報酬を受領することができます。弁護士報酬の受領は弁護士の業務そのものではないからです。報酬額の決定について依頼者と協議を要する場合であっても、特段の事情があるとき(たとえば協議をする前提として法律事務を行う必要があるとき)を除いて、協議をすることや協議に基づく弁護士報酬を受領することはできます。
被懲戒弁護士は事務所の管理行為、賃貸借契約、勤務弁護士や事務職員の雇用契約を継続することができます。当然のことですが、勤務弁護士や事務職員を使って被懲戒弁護士が業務を行うことはできません。事務所の維持はできますが、法律事務所の看板を掲げたり、被懲戒弁護士が業務をしているかのような外観を呈することはできません。(11条)
被懲戒弁護士は事務所の使用自体はできます。当然のことながら、事務所での業務はできません、業務に関して勤務弁護士、事務職員を指示監督することはできません(8条)また裁判所や事件関係者からの通知等の受領もできません(5条2項)事務所を使用することにより業務停止をないがしろにすることはあってはならないことですので、そのようなことがないように今後は弁護士会によって執行点検は細部にわたってなされることもあります、
(1)法律事務所・弁護士の表示の除去
被懲戒弁護士は、弁護士及び法律事務所であることを示す表札、看板などの表示を除去しなければなりません。ここで「除去」とは、取り外す以外に看板に白い紙を貼るなど、表示としての機能を失わせる措置のことを言います、除去の代わりに業務停止中であることを表示することも可能です。自宅の表札に「弁護士」の肩書を付けている場合も肩書部分を除去する必要があります。
(2)共同事務所の場合の例外
(1)の規律にかかわらず、被懲戒弁護士と事務所を共にする弁護士(外国法務事務所と弁護士法人を含みます)が自己の職務を行うために法律事務所を使用するときは、その事務所の名称を表す看板等を使用することができます。もちろん業務停止を受けた弁護士は看板以外の自己の名前が載った表札等は除去しなければなりません。
被懲戒弁護士は業務広告を除去しなければなりません。広告にはウエブサイト、メールマガジン、事務所報の配布・送付、看板、デジタルサイネージ、新聞広告、チラシ、テレビ広告など顧客を誘引する機能を有するものすべてが含まれます。ただし電話帳広告など除去が著しく困難なものについてはこの限りではありません。ウエブサイトは除去の対象となる広告ですが、たとえばウエブサイトを利用して業務停止処分を受けた事、依頼者との委任契約が解除となること、解除となった場合の注意点等を知らせる手段として使用することは許されます。
共同事務所の場合の広告について被懲戒弁護士が当該広告の代表者(弁護士が共同して広告する場合には広告代表者を表示しなければならないことになっています(日弁連・業務広告に関する規程9条3項)である場合には当該広告は除去すべきことになります。それ以外の広告の代表者である場合は広告の除去はしなくともよいことになります。ただし業務停止処分の前後に広告代表者を変更して広告を継続することは、広告除去の潜脱行為とみられる場合もあります。
(1)名刺、用箋、封筒の使用禁止
被懲戒弁護士は、弁護士の肩書、事務所名を表示した名刺、事務所用箋、封筒を使用したり、他人に使用させたりしてはなりません。ただし11条の規定により共同事務所の他の弁護士が自己の職務を行う場合には事務所名を表示した当該弁護士の名刺や事務用箋、封筒を使用することができます。
(2)3条業務以外の職務を行う場合の弁護士の肩書使用の禁止
被懲戒弁護士は弁護士法3条に規定する職務(当時者その他関係人の依頼または官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訴事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律行為)を行うことはできませんが、これ以外の活動、たとえば執筆、講演、メデア出演、社外役員としての活動を行うことはできます。しかし、このような活動であっても弁護士の活動を使用してはなりません。
被懲戒弁護士弁護士バッジと身分証明書を当会を通じて日弁連に返還しなければなりません。
被懲戒弁護士は1か月を超える業務停止処分を受けたときは、未使用部分の戸籍謄本請求用紙と入国在留代理手続届出済証明書を当会に返還しなければなりません。
被懲戒弁護士は、弁護士会の会務に関する活動を行ってはなりません。『弁護士会等』は所属の弁護士会のほか、日弁連、弁護士会連合会です。いわゆる会派も含まれます。
被懲戒弁護士は、弁護士会等の推薦で官公署等の委員に選任されているときは辞任しなければなりません。弁護士であることに基づき選任された人権擁護委員、選挙管理委員、労働委員会委員、調停委員、鑑定委員、管財人等についても辞任しなければなりません。ここに挙げられていない、後見人、後見監督人、財産管理人なども辞任の対象になります。弁護士法3条の「官公署の委嘱」による法律事務所にかかる職務に該当すると考えて業務停止の効力が及ぶものです。
被懲戒弁護士は弁護士の資格に基づき弁理士登録や税理士登録をしている場合であっても、弁理士、税理士の職務を行ってはなりません。司法書士が行う登記事務その他隣接士業の職務は弁護士として行っているおのですから、これらの職務を行うことはできません。
被懲戒弁護士は引継ぎ業務等の場合を除き、弁護士会館内の面談室を使用してはなりません。面談室の使用は弁護士の職務として使用することが通常だからです。これに対して図書館や会員室の使用はできます。当然のことながら継続している委任契約に基づく職務の準備のために図書館を使用することはできません。
被懲戒弁護士は、当会に対して遵守事項の履行状況を報告しなければなりません。報告にあたっては当会所定の報告書のフォーマットを使用してください。また当会からの指導監督に従わなければなりません。当会が被懲戒弁護士の法律事務所等に執行点検に行った際には、点検調査に協力しなければなりません。遵守事項が履行できていないときはそれが新たな懲戒事由になり得ることになります。
被懲戒弁護士は業務停止期間中であっても当会及び日弁連の会費を納入しなければなりません。業務停止期間中であっても当会及び日弁連の会員であることは変わりありませんので、会費の納入義務は当然に継続します。
対象弁護士 東京都港区六本木1–8–7 MFPR六本木麻布台ビル11階
B・B法律事務所 被調查人 S井〇 (登録番号 29986)
当委員会第1部会は、頭書事案について調査を終了したので、審議の上、以下のとおり議決する。
主 文
被調査人につき、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。
事実及び理由
第1 事案の概要
本件は、被調査人が、業務停止の懲戒処分を受けたにもかかわらず、その処分期間中に、弁護士として短文投稿サイトで発言をしたこと等が、弁護士としての品位を失うべき非行に該当するとして、懲戒請求がなされた事案である。
第2 前提事実
1 被調査人は、東京弁護士から、業務停止6月の懲戒処分を受け、その効力は2020年3月12日に生じた。ただし、後に日本弁護士連合会の懲戒委員会の決定により、業務停止期間は同日から同年6月11日までの3 月に変更され、変更の効力は2021年10月25日に発生した。
2_2020年6月26日時点における短文投稿サイトの被調査人の紹介欄には、「弁護士(業務停止中)」との記載がなされていた。
3 被調査人は、同短文投稿サイトに、例えば、同月20日、同月25日、 同月26日、同月27日、同年7月2日、同月3日、同月10日、同年8 月23日、短文を投稿(以下「ツイート」という。)するなど、業務停止期間中に、複数回ツイートした。
4 被調査人は、同年7月11日、「弁護士法人A法律事務所元 代表社員弁護士S(業務停止中)」という表記で「スパイ行為に関するAの言い分に対する反論」という文章を執筆し、SNS上に公表した。 その中で、被調査人は、弁護士法人A法律事務所及び元代表社員I弁護士に対して起こした令和元年9月20日付け懲戒請求事案において書証として提出した自己の陳述書を公開するなどとして、同懲戒請求事件について言及した。
第3_懲戒請求事由の要旨
1 懲戒請求事由 1
被調査人は業務停止期間中にもかかわらず、業務停止中の弁護士として、SNS上に、繰り返しツイートしたり、反論文などを投稿した。これは弁護士法第56条第1項の品位を失うべき非行に該当する。
2 懲戒請求事由 2
被調査人は、自らが懲戒請求者となった弁護士法人A法律事務所に対する懲戒請求事案が綱紀委員会に係属中にもかかわらず、懲戒請求の内容が誰でも見られる状況にしてネットに晒した。これは同法同条同項の品位を失うべき非行に該当する。
3 懲戒請求事由 3
被調査人は、本事案の答弁書及び主張書面に「弁護士S井〇」の職印を使用した。業務停止期間中に被懲戒弁護士の職印を使用することは業務停止中の弁護士業務に該当し、許されないのであり、同法同条同項の品位を失うべき非行に該当する。
4 懲戒請求事由 4
被調査人は、本事案に関する書面を受領している。東京弁護士会から通 知を受け開封し答弁書等を提出する行為は業務停止期間中の弁護士業務 に該当し、許されないのであり、同法同条同項の品位を失うべき非行に該当する。
5 懲戒請求事由 5
被調査人は、ツイッターで「A法律事務所に就職をお考えの弁 護士の方へ A法律事務所に就職をするのはやめておきなさい A法律事務所に就職をするのはやめておきなさい 採用担当は 都合の良いことばかり言って応募者にとって都合の悪いことはあえて伝えません」と投稿した。これは、弁護士職務基本規程第70条、第71条、 第73条に違反する。
第4 被調査人の答弁及び反論の要旨
1 懲戒請求事由1について
被調査人は、東京弁護士会の指示書に基づく被懲戒弁護士の業務停止期間中の遵守事項を遵守しており、懲戒請求者が主張する事実は、遵守事項違反に該当しない。
なお、被調査人は、弁護士や弁護士法人の代表としてではなく、被調査本人として投稿している。
2 懲戒請求事由2について
被調査人は、綱紀委員会委員ではなく、秘密保持義務を負わない。
3 懲戒請求事由3について
被調査人は、自己が作成した書面であることを示す印章として職印を用いたにすぎない。職印を用いたことをもって弁護士業務を行なったと評価することはできない。
4 懲戒請求事由 4について
書類を受領してはならないということは、代理人弁護士として依頼者の事件に関する書類を受領してはならないということであり、被調査人本人として自分宛に届いた書類を受領することは禁止されない。
5 懲戒請求事由5について
被調査人は懲戒請求事由5の投稿をしていない。
第5 証拠の標目
別紙の証拠目録記載のとおり。
第6 当委員会第1部会の認定した事実及び判断
1 前提事実は当事者の主張および関係各証拠から認められる。
2 懲戒請求事由 1 について。
(1) まず、懲戒請求者は、弁護士が業務停止処分を受けた期間、弁護士と しての身分を喪失しないが弁護士資格は喪失しており、弁護士と名乗る こと自体ができないと主張する。 しかし、業務停止は、被懲戒弁護士に対して、一定期間弁護士の職務行為を行なってならない旨を命じる処分にすぎず、弁護士の身分や資格に変更をもたらすものではない。 よって、被調査人が、業務停止中に、「業務停止中の弁護士」と名乗った ことが品位を失うべき非行とは認められない。
(2)次に、被懲戒弁護士が業務停止処分によって禁止される業務は、弁護士法第3条の職務行為、即ち、当事者そのほかの関係人からの依頼又は 官公署からの委嘱に基づく一般の法律事務である。 SNS上にツイートしたり、反論文などを投稿する行為は、被調査人が当事者そのほかの関係人からの依頼又は官公署からの委嘱に基づく 法律業務として行ったものとは認められない。
よって、被調査人が、業務停止中にSNS上にツイートしたり、反論 文などを投稿したことをもって、品位を失うべき非行とは認められない。
なお、前述のとおり、被調査人の業務停止期間は、2020年6月11日までに短縮されたが、懲戒請求者が問題であると指摘するツイートや反論文の投稿は2020年6月20日以降のものであり、いずれも業務停止期間経過後である。 以上からも、被調査人に品位を失うべき非行は認められない。
4 懲戒請求事由2について
何人も、懲戒請求の事由があると思料するときは懲戒請求することができるが、懲戒請求をした者が、その事実及び内容をネットに公開することは、当該事実・内容の適示が名誉毀損に該当するなどの特段の事情がある場合を除き、これを禁ずる法的な根拠は存在せず、弁護士が懲戒請求者の場合であっても同様である。 この点、本件において、被調査人が懲戒請求した弁護士法人A法律事務所に対する懲戒請求の内容をネット上に公開したことについて、 特段の事情があるとは認められないことから、品位を失うべき非行とはい えない。
5 懲戒請求事由3について
弁護士が弁護士名の職印を弁護士業務に用いることが多いとしても、弁護士業務以外に用いることが禁止されているわけではなく、職印の使用をもって弁護士業務を行ったことになるわけではない。この点、被調査人が 本懲戒請求に関する反論書面を作成することは、禁止された弁護士業務に該当しないことから、かかる反論書面に「弁護士S井〇」の職印を押印したことをもって、被調査人が禁止された弁護士業務を行なったとはいえない。
以上から、被調査人が「弁護士S井〇」の職印を用いたことが品位を失うべき非行とはいえない。 なお、前述のとおり、被調査人の業務停止期間は、2020年6月11 日までに短縮されたところ、本懲戒請求は同年7月14日付けで請求されており、被調査人が反論書面を作成提出したのも、すべて同年6月11日の業務停止期間経過後である。業務停止期間後に、被調査人がいかなる印章を反論書面に押印しようと、もとより自由である。
以上からも、被調査人に品位を失うべき非行は認められない。
6 懲戒請求事由4について
被懲戒弁護士は、業務停止期間中、裁判所、検察庁、行政庁から送付等されてきた書類を受領してはならず、誤って受領してしまった場合は直ちに返還しなければならない。依頼者、顧問会社、事件の相手方や利害関係 人から送付等された業務に関する書類についても同様である。しかし、受領を禁止される書類に弁護士会から送付される懲戒請求に関する書類は 含まれない。なお、被懲戒弁護士は、業務停止期間中、弁護士及び法律事務所であることを示す表札・看板等の表示を除去しなければならないが、業務以外に事務所を使用することは禁止されていない。したがって、弁護士会から送付された懲戒請求に関する書類を受領するために事務所に立ち入ることも禁止されない。以上から、被調査人が、業務停止期間中に、表札・看板を除去した自己 の法律事務所に立ち入って、本事案に関する書類を受け取ったことをもっ て、品位を失うべき非行とはいえない。 なお、前述のとおり、被調査人の業務停止期間は、2020年6月11日までに短縮されたところ、本懲戒請求は同年7月14日付けで請求されており、本懲戒請求に関する書類が被調査人に送付されたのは、すべて同年6月11日の業務停止期間経過後である。
以上からも、被調査人に品位を失うべき非行は認められない。
7 懲戒請求事由5について
証拠によっても、被調査人が懲戒請求者指摘の投稿をした証拠はない。 よって、被調査人につき、弁護士職務基本規程第70条、第71条、第7 3条違反の事実は認められない。
よって、主文のとおり議決する。
令和3年12月17日 東京弁護士会綱紀委員会第1部会 部会長 (記載省略)
東弁の弁護士さんにとって有意義な判断が出ました。懲戒請求者は日弁連に異議申立ては致しませんとのこと。
業界の規約を自分たちが作り、自分たちが好きなように運用していてもほっといてくれ。部外者は口出すなということでしょう。
東弁会員の皆様。これで業務停止中もtweetできます。事務所の立ち入りも構いません。職印もご自由にお使いください。
ただし「私は業務停止中の弁護士だ!」と名乗らなければいけません。
業務停止6月から業務停止3月に変更となり、すべての行為が業務停止期間以後におこなわれたという棄却の理由は後付けのような気がしますが、懲戒請求の申立てをした時は業務停止6月だったんだけどね~
(アイキャッチと本文とは関係ありませんことありません)