読売新聞11月19日付朝刊(東京版)
認知症の高齢者たちの生活をサポートする成年後見人となった弁護士が利用者の財産を横領する不正が相次いだため、日本弁護士連合会が3000万円を上限に被害弁済を行う仕組みを創設することを決めた。成年後見人を務める全ての弁護士が年1万円程度の「保証料」を納め補償にあてるという。
裏切り
「弁護士だから品行方正だと信じていたのに・・・・」
東海地方の女性(75)は怒りを隠さない。女性の母は認知症で生活が不自由となり2011年、男性弁護士が成年後見人に就いた。だが弁護士は母の口座から現金を引き出したり自分の口座に送金したりして、14年までに約4000万円を着服。母は東京都内の高齢者施設に入居していたが、利用料の支払いが難しくなり退去した。
弁護士は廃業して後見人を解任され業務上横領で懲役6年の実刑となった。元弁護士は自宅を売却して一部を弁済したが約3000万円が戻らない。
母は17年に亡くなった。女性は「母は人生の最期で人に裏切られた。今度は不正が起きる前提で対策を講じてもらいたい」と話す。
最高裁によると弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人として手を染めた不正は、11年~18年に156件、被害総額は14億円に上る。
高齢化に伴い利用者の急増が今後見込まれ、不正への対策は急務となっている。
年1万円
日弁連は被害者に上限500万円の「見舞金」を支払う制度を創設したが、被害額が数千万円に上る例もあり「補償が不十分だ」との声が上がっている。
新制度では成年後見人を引き受ける全ての弁護士から毎年1万円程度の「保証料」を集め弁護士による不正が起きた場合、上限3000万円の被害弁済金が支払われる。保証料の受け皿は関連組織の「全国弁護士協同組合連合会」を想定している。18年に弁護士が成年後見人(保佐人、補助人含む)となったケースは8151件、一方専門家による同じ年の不正は18件、被害総額は約5000万円で日弁連は「被害の大部分を補償できる」とみる。
来秋にも開始
新制度は、全国の弁護士が地域ごとに所属する弁護士会が来年3月にメドに手続きを進め、早ければ来年秋から運用が始まる見通し。日弁連の「成年後見人不祥事対応プロジェクトチーム」事務局長の坂下宗生弁護士は「被害がきちんと回復されなければ成年後見制度だけでなく、弁護士そのものに対する信用は失墜する。そう重く受け止め被害の未然防止と合わせて弁護士全体で取り組んでいく」と話していく。
金銭管理が難しい高齢者たちがつけ込まれ、虎の子の財産を後見人に横取りされる問題は後を絶たない。弁護士以外の専門職の団体も対策に乗り出している。司法書士が18年に後見人を務めたケースは1万512件と弁護士の1,3倍に達する。不正には司法書士らでつくる「成年後見センター・リーガルサポート」から上限500万円の見舞金が支払われる。
同センターは後見人司法書士に対し利用者の通帳コピーと業務報告書を半年ごとに提出するよう努めチェックする、それでも通帳の原本を偽造するなどの不正が発覚し通帳原本を確認する緊急点検を実施中だ、センターの松浦正司・副理事長は「被害全額の補償は現実的に難しい。予防に注力する」と話す。
一方、18年に4835件で後見人を務めた社会福祉の団体、日本社会福祉士会は、被害によって生活が困窮した人に上限200万円の救済金を支給する制度を設けているほか、今年4月から被害者に一律10万円を支払う見舞金も導入した。同会も予防策を重視し後見人に就いた社会福祉士と定期面談し不正をチェックしている。
読売新聞は過去からも後見人弁護士による依頼者の預金の着服について厳しく追及しています。日弁連もようやく重い腰を上げました。後見人など弁護士様がやることはないと思っていた時期もあったのでしょう。しかし弁護士に仕事がなくなり、弁護士に仕事を依頼したくない人が増えた。その分、他業種に仕事が増えてようやく弁護士会も被害救済を考えたのでしょう。後見人に就任する弁護士が年1万円払えば弁済できると思っているようですが・・・・司法書士のリーガルサポートの場合、登録で年間1万2000円、後見人の報酬から5%程度をサポートに払い、提出書類も多く、チェック体制が甘い弁護士とはくらべものにならない。結局、後見人制度を利用するならどちらを選択するかはもう勝負はついたようなものです。
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