当会は『棄却された懲戒の議決書』を募集しています。
給与ファクタリング会社の顧問弁護士に申立てた懲戒請求の議決書、7件目の棄却となりました。ファクタリング金融会社の顧問になっていたなど知らなかったという弁明が多く、だからどこが悪い!という開き直りの弁明ばかりです、もういないと思いますが給与ファクタリング会社の顧問弁護士になれば懲戒が出ます。東弁の場合は必ず、秘密の綱紀第4部会に回され棄却になります。第4部会にまわった懲戒はどのような懲戒だったのか、処分したくてもできない案件ばかりでは?と思いますが、
弁護士に懲戒の申立てがあれば対象弁護士は綱紀委員会に答弁書の提出を求められます。議決書の最後に懲戒請求者、対象弁護士が提出した書証が書かれていますが、対象弁護士の答弁書が丙号証となっています。丙とは、綱紀委員会が集めたもの、綱紀委員会が答弁書の提出を再度求めたと解されます。
(令和2年東綱第234号)
弁護士法人荒木法律事務所 被調查人 荒木 誠司 (登録番号42724)
(令和2年東綱法第8号)
同所 被調査人弁護士法人荒木法律事務所 (届出番号1128)
当委員会第4部会は、頭書事案について調査を終了したので、審議の上、以下の とおり議決する。
主文被調査人らにつき、いずれも懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。
第1 事案の概要
本件は、被調査人荒木誠司(以下「被調査人荒木」という。)が、いわゆる 「給与ファクタリング」を業として行う会社と顧問契約を締結して顧問弁護士 に就任したとして、必要な法令及び事実関係の調査の解宮、違法行為の助長、 品位を損なう事業への参加、弁護士としての品位を失うべき非行にあたるとし て懲戒請求がなされた事案である。
第2 前提事実1 東京地方裁判所は、令和2年3月24日、一般個人(労働者)から給与債権 を買い取るいわゆる「給与ファクタリング」による取引について、労働基準法 第24条第1項の趣旨に徴すれば、給与債権が譲渡された場合においても使用 者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、労働者である顧客から給 与債権を買い取って金銭を交付した業者は常に当該労働者を通じて譲渡に係る債権の回収を図るほかないから、業者から労働者に対する債権譲渡代金の交付だけでなく、当該労働者からの資金の回収が一体となって資金移転の仕組み が構築されているというべきであり、経済的には貸付けによる金銭の交付と返還の約束と同様の機能を有するものと認められ、当該取引における債権譲渡代 金の交付は貸金業法や出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律 (以下「出資法」という。)にいう「貸付け」に該当し、当該取引を行う業者 は貸金業法にいう貸金業を営む者にあたると判示した(以下「東京地裁判決」 という。)。
なお、東京地裁判決は、訴訟当事者である給与ファクタリング業者が徴収し た手数料を年利に換算すると貸金業法第42条第1項に定める年109.5% を超過しているとして当該取引は同項により無効であるとともに、出資法第5 条第3項に違反し、刑事罰の対象となると判示した。
2 貸金業の監督官庁である金融庁は、同年3月5日付けで公表した同庁監督局 総務課金融会社室長名の「金融庁における一般的な法令解釈に係る書面照会手 続(回答書)」において、いわゆる「給与ファクタリング」のスキームについ て、東京地裁判決と同じ論法にて貸金業法にいう貸付けに該当し、当該スキー ムを業として行うものは貸金業に該当するとの解釈を示した(以下「金融庁回答」という。)。
3 日本弁護士連合会は、同年5月22日付けで公表した同会長名の声明におい て、いわゆる「給与ファクタリング」のスキームについて、東京地裁判決及び 金融庁回答と同様の解釈を示したうえで、年利に換算すると数百%以上にも相当するような高額な手数料を徴収している業者を貸金業法及び出資法に違反 する違法なヤミ金融業者と断じ、給与ファクタリング業者の取締りの徹底を求 め、給与ファクタリング業者と称するヤミ金融の撲滅に向けて相談体制を強化 するなどの努力をするとしている(以下「日弁連声明」という。)。
4 株式会社ポ●●●(以下「申立外会社」という。)は、いわゆる「給与ファクタリング」を業として行っていた会社であり、ウェブサイトにて広告宣伝し、顧客を募っていた。
5 申立外会社は、そのウェブサイトに顧問弁護士として被調査人荒木の氏名と 被調査人弁護士法人荒木法律事務所の名称を掲載していた。
第3 懲戒請求事由の要旨 申立外会社は、給与ファクタリングとの名目にて無登録で貸金業を行ういわゆる闇金融業者であり、被調査人荒木が、申立外会社と顧問契約を締結して顧 問弁護士に就任し、そのウェブサイトに顧問弁護士として氏名が掲載されるこ とを許諾した行為は、必要な法令及び事実関係の調査の解念、違法行為の助長、 品位を損なう事業への参加にあたり、弁護士としての品位を失うべき非行にあ たるから、弁護士職務基本規程第37条、第14条、第15条に違反し、弁護 士法第56条第1項に該当する。
第4被調査人らの答弁及び反論の要旨
被調査人荒木が申立外会社との間で顧問契約を締結したのは令和2年4月 1日である。
被調査人荒木は、同月上旬、申立外会社からファクタリング契約の内容につ いて説明を受けた際、金融庁回答によれば給与ファクタリングは貸金業に該当することから、貸金業を営むための登録が必要であること、給与ファクタリングの手数料は金利と判断され、利息制限法を超える部分は無効、貸金業法により年率109.5%を超えれば契約自体が無効となり、交付した金員も返還されないことから、現在のスキームを見直すよう伝えた。 しかし、申立外会社は、同年5月1日、年利換算109.5%を超える手数料で給与ファクタリング業務を開始した。
被調査人荒木は、申立外会社が開始した給与ファクタリングには刑事罰も適用されうるのでいったん業務を停止するよう説得するとともに、日弁連声明に ついても説明したが、申立外会社は説得に応じなかった。
そのため、同月27日、顧問契約を解除した。ウェブサイト上の顧問弁護士 としての記載の削除も要請し、同年6月上旬に削除された。 顧問契約を締結していた間、申立外会社の顧客と接触したことは一切ない。
第5証拠の標目別紙証拠目録記載のとおり
第6 当委員会第4部会の認定した事実及び判断1 関係各証拠によれば、前提事実のほか、以下の事実が認められる。
(1)被調査人荒木は、令和2年4月1日、申立外会社との間で顧問契約を締結 して顧問弁護士に就任し、そのウェブサイトに顧問弁護士として氏名が掲載されることを少なくとも黙認した。
(2)被調査人荒木は、同月半ば頃、申立外会社に対し、金融庁回答によれば給与ファクタリングによる取引は金銭の貸付けに該当するから貸金業を営む。 ための登録が必要であること、手数料は金利と判断されて利息制限法が適用 され、貸金業法により年率109.5%を超えれば契約自体が無効となるこ とから、給与ファクタリングのスキームを見直すよう伝えた。
(3) しかるに、申立外会社が年利換算 109.5%を超える手数料で給与ファクタリング業務を開始したことから、被調査人荒木は、刑事罰も適用されうるのでいったん業務を停止するよう説得するとともに、日弁連会長声明についても説明したが、申立外会社はこれに応じなかった。
(4) そのため、被調査人荒木は、同年5月27日、申立外会社との間の顧問契約を解除し、ウェブサイトの顧問弁護士としての掲載削除も要請した。 申立外会社は、そのウェブサイトに顧問弁護士として被調査人荒木の氏名と 被調査人弁護士法人荒木法律事務所の名称を掲載していた。
(5) 申立外会社は、被調査人荒木が顧問弁護士に就任していた当時、貸金業法 第3条第1項所定の登録を受けていなかった。
2 懲戒請求事由について
東京地設判決及び金融庁回答等によれば、給与ファクタリングによる取引における債権譲渡代金の交付は貸金業法や出資法にいう「貸付け」に該当し、当 該取引を行う業者は貸金業法にいう貸金業を営む者にあたるから、申立外会社 は貸金業法第3条第1項(登録)に違反し、申立外会社が徴収していた手数料 を年利に換算した利率によっては、利息制限法に違反し、貸金業法第42条第 1項(高金利を定めた金銭消費貸借契約の無効)及び出資法第5条第3項(高 金利の処罰)に該当する可能性がある。
しかし、被調査人荒木が申立外会社の顧問弁護士に就任し、そのウェブサイ トに顧問弁護士として氏名が掲載されることを黙認したことをもって直ちに、 必要な法令及び事実関係の調査の解念、違法行為の助長、品位を損なう事業へ の参加、弁護士としての品位を失うべき非行にあたるとは認められず、給与ファクタリングの実態が貸付けであると認識しながら、あるいは、法令等の調査 や事実関係の調査をすれば容易に認識しえたにもかかわらずこれを認識せず、貸金業としての登録や利息制限法の遵守、あるいは業務停止といった適正な助言や指導をせず放置したと認められる場合に上記非行にあたる可能性があるといえる。
上記認定事実によれば、被調査人荒木が、申立外会社による給与ファクタリングの実態が貸付けであると認識しながら適正な助言や指導をせず放置した と認めるに足りる証拠は存在しない。
被調査人荒木が顧問契約を締結した当時すでに東京地裁判決や金融庁回答が出されており、懲戒請求者は、被調査人荒木が顧問弁護士に就任したこと自体が重大な非行にあたる旨主張するが、適正な助言や指導をせずに放置したと は認められない。
以上から、被調査人荒木が申立外会社と顧問契約を締結して顧問弁護士に就 任し、そのウェブサイトに顧問弁護士として氏名が掲載されることを黙認した 行為をもって、直ちに必要な法令及び事実関係の調査の解散、違法行為の助長、 品位を損なう事業への参加にあたるとは認められず、弁護士としての品位を失うべき非行とは認められない。
よって、主文のとおり議決する。
令和3年10月15日
東京弁護士会に委員会第4部会 会長 (記載省略)
証拠目録第1 書証 1 懲戒請求者提出
甲1_「ファクタリング119」との記載があるサイト画面
甲2 朝日新聞配信記事
2 被調査人ら提出。
乙1 金融庁における一般的な法令解釈に係る書面照会手続(回答書)
乙2 いわゆる「給与ファクタリング」と称するヤミ金融の徹底的な取締りを求める会長声明
3 職権
丙1 答弁書
第2 人証 なし
左は抄本である。
令和3年11月29日
東京弁護士会事務局長 望月秀一 印